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緋の軌跡は途切れない  作者: にょいはい
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第2幕 FellowS(4)

「申し遅れました、私はフィリルと申します!」

散らかってしまったレストランの片づけを手伝ったあと、ウェイトレス・フィリルとともに私たち3人はテーブルについていた。

「実は冒険者だったんですが、手持ちのお金がなくなって、ここで働いてたんです。」

そう言うと、腕輪をした右手をラローシュにかざした。

「おお、傷が治った!」

思わず立ち上がり、腕や首を回すラローシュ。

「この通り、回復系しか使えないんですけどね。」

フィリルは綺麗な緑の髪の毛を少し手で梳きながら、恥ずかしそうにそう言った。

「仲間はいるんですか?」

ユフィアはフィリルにそう尋ねた。

確かに回復系の冒険者が1人で冒険に出ているとは考えにくい。

「いたんですけどねー。私がここで働きすぎちゃって、いつの間にか外されたというか…。」

ああ、なんか悲しい事情だった。

つまり置いていかれてしまったということか。

聞いたユフィアは申し訳なさそうに、すいません…と小さくつぶやく。

「いやいや、全然!この町も気に入って、なんだかんだ今は楽しく過ごしてますから!」

さっきの手を握ってぶんぶん振り回していたことからうすうす思っていたが。

(なんていうかすごく前向きな人だなあ…。)

元気いっぱいで、そんな悲しい事情もまったく気にしていないようだった。

ラローシュが座りなおし、改めて自己紹介をする。

「俺はラローシュ、まだまだ冒険してから日の浅い冒険者ってところかな。」

「私は妹のユフィアといいます。見習いの魔法使い、といった感じです…。」

フィリルはうんうん、とうなずいてそれを聞いていた。

自然とその視線は私に向いた。

それは暗に自己紹介の流れであって。

「私はユリエ。ここに来る途中で2人に会って、成り行きで一緒に行動してたの。」

とだけ言った。

いろんな事情はこれから話せばいいだろう。

「なるほどなるほど、では今日ここに着いたばかりなんですね!」

荷物の量からして察したようである。

「それぞれ別の人を探していて、それでとりあえずポタリアにやってきたんだ。」

ラローシュがそう言うと、少し話が深く進展しそうになった。

「人探しですか!では先ほど助けていただいたお礼ができそうです!」

フィリルはどん、と自分の胸を手で叩いた。

本当に元気だ。

「と、いうと?」

私はそのままフィリルの話を進めようと促す。

「いろんな宿屋さんに顔が利くので、1日か2日あればこの町に新しく出入りした人はすぐにわかりますよ!」

なんと頼もしい。

正直、私たちだけでは情報収集は頼りないといっていいだろう。

宿屋をめぐって何日も滞在しているうちに追っ手が来ても不思議ではない。

「本当か!それは助かる!」

ラローシュは興奮したのか声を少し大きくして反応する。

彼が思うところも私と同じだったのだろう。

「あと、宿屋のご主人からのお礼、ということで今日の宿泊代金はいただかないように言われています。まずは旅の疲れを癒してください!」

お金の心配もなさそうだった。ここはそのご好意に預かるとしよう。

「何から何まで…ありがとうございます。」

「いえいえ、助けていただいたんですからこれくらいは!」

私たちはフィリルに黒の騎士と、紺色の竜狩りの特徴だけ伝えて、用意された部屋に向かった。

フィリルは元気いっぱいに、それでは行ってまいります!と、すぐに宿屋を出て行ってしまった。


***


「あぁ~久しぶりに硬くないところに寝た~…。」

思わず私は荷物を放ったままベッドに寝転がった。

ここ数日は平らとはいえ岩の上の寝袋でしか寝ていなかった。

ふかふかのベッドに思わず全身をうずめる。

2部屋用意されたので、男女に分かれて部屋に入った。

つまりユフィアと同じ部屋なのだが、そんなことをすっかり忘れてしまっていた。

しかしそれに気づいて起き上がると、ユフィアも私と同じようにベッドに横たわっていた。

「まったくです…極楽です…。」

完全に同意を得たようである。

しばらく私たちはベッドの心地よさを味わい、このままではいけない、と荷物の整理を始めた。

といっても、フィリルが私たちの代わりに情報収集をしてくれている。

このままのんびりとしていてもいいのだが、どうも落ち着かないものだった。

(何かしら、些細なことでもいいから情報があればいいな…。)

その思いはこの兄妹も同じだろう。

むしろ、私よりも探す理由がとても重い。

「あのまま、フィリルさんに任せたままでよかったのでしょうか…。」

整理をしながら、ユフィアはぽつりとつぶやく。

確かにお礼とは言ってもいささか罪悪感のようなものはある。

「たしかにねー…。完全に任せるというのも…。」

しかしユフィアの心配はそちらではなかったらしい。

それもあるのですが、と付け加える。

「さっきの海賊たちみたいな人に、また絡まれたりしないでしょうか…。」

「あ…。」

なんでそんなことを不思議に思わなかったのだろう。

仲間を連れてこの宿屋に戻ってくる可能性も、街中で襲ってくる可能性もある。

といっても…街中は騒ぎになるだろうから避けるはず。

となると路地裏に連れ込んだりして…。

「私たちも行こう!」

いろんな不安がぐるぐると頭の中を支配するようだった。

どこに行ったのかすら聞いていないが、彼女の安全を確保しなければ。

最低限の装備を持ち、私は駆け出す。

「わ、わたしはお兄さんに声をかけます!」

ユフィアがそういったのを聞いて、うなずいて意思表示をしたあと、そのままドアを開けて部屋を出る。

どたどたと階段を降り、その音に気づいたのか宿屋のおじさんが声をかけてくる。

「おや、あわててどうしたんだい?」

「あの、フィリルが行きそうな場所って、わかりますか?」

この人なら何か目星のついている場所があるかもしれない。

とりあえず聞いてみる。

「そうだなあ、中心の噴水近くの宿屋は顔なじみだろうから―」

「ありがとうございます!」

その後にも何か言っていたようだが、聞かずにそのまま宿屋を出る。


***


宿屋を出て、町の中心にある噴水にやってくる。

中心部は少しひらけていて、商店が並ぶ通りに比べると人通りも少しまばらになっている。

宿屋からこの噴水までの間は人通りも多く、襲われるようなことはないだろう。

一応、路地も確認しながらここまで来た。

(噴水の近くの宿屋…!)

噴水の前に立ち、あたりを見渡す。

右前方に宿屋の看板が見えた。

あれだ。そう思い、そこに向かおうとした瞬間だった。

「さっきはどうも。」

私の眼前に2人の男が立ちふさがる。

先ほど店で暴れていた海賊の男たちだった。

「ッ…。」

振り返り逃げようとするが、後ろにも仲間がいたらしい。

いつの間にか海賊たちに囲まれていた。

「ここじゃあ目立つ。連いてきてもらおうか。」

この距離で目の前の2人を倒すことはできそうだが、後ろにも4人いる。

全員を倒すことは敵いそうになかった。

(この分だとフィリルは無事だろうけど…。)

私の身が危ない。

周りを警戒することを怠っていた。迂闊だった。

そう考えているうちに、後ろの1人が私の腕を後ろに回し、がっちりと握った。

「…どこに行くんですか…。」

腕を封じられた以上、睨み付けるほかなかった。

「心配しなくてもいい、俺たちのアジトだよ。」

どうやら一番危険な場所に連れて行かれるようだ。

ほら歩け、と後ろの男が急かすように私を押す。

仕方なく私は言われるがまま歩き始めた。

(どこかで逃げるタイミングはあるはず。慎重にその機をうかがおう…。)

と、思っていると私の前で歩いていた男が立ち止まる。

「その人を放してもらおうか!」

その前には、剣をかざしたラローシュがいた。

周りを見渡すと、ユフィアの姿も確認できた。

「ああ、さっきの冒険者クンじゃないか…君には用はないぞ?」

ラローシュを投げた男が指をボキボキと鳴らしながら威嚇する。

「そうだな、さっきみたいな不意打ちはもう食らわないぞ!」

迷うことなくラローシュは剣を掲げ、振り下ろす。

しかし、その海賊の男はその剣をたやすく握り締めた。

そのまま、

「むんっ!」

と、力を入れると、剣はその部分から粉々に砕け散る。

男の手は傷一つついていないようだった。

バランスを崩したラローシュの腹部をもう片方の手で殴り、髪の毛を掴む。

「やめっ―」

私が声を出したが、海賊は髪の毛を掴んだまま何度もラローシュの顔を殴りつける。

「はっはっは!不意打ちがなんだって!?がはははは!」

仲間の海賊たちもそれを見ながら笑っている。

掴んでいた髪の毛を離したかと思うと、その体に蹴りをいれ、ラローシュの体は軽く宙を舞った。

そのまま噴水の縁に打ち付けられられる。

打ち付けられたあとも、海賊は笑いながら容赦なく蹴り続ける。

見るに絶えず、私は目を背ける。

そんなとき、私の後ろにいた海賊たちの数人が、

「うおおおっ!」「ぎゃああぁっ!」

と、声を荒げる。

振り返ると、その2人の腹部に火の玉のようなものが当たったような焦げたあとがついていた。

「そ、その人を放してください…!」

杖をこちらに向けて、涙目ながらに精一杯そういったユフィアがいた。

だがこの人数だ、ユフィアも私のように捕まってしまう。

事実、声を荒げてはいたものの、驚いただけ、という素振りで焦げた部分を手で払いながら歩き始める。

「確かこのへなちょろの連れだったな…?そいつも連れてけ。」

ユフィアは何度も火の玉を向かってくる海賊に放つが、手で払いのけられる。

「ひっ…。」

ついに海賊2人がユフィアの眼前に立つ。

「もう玉切れか?」

そう言って、1人は杖を奪い、もう1人はユフィアを私と同じように拘束する。

なんて私たちは無力なんだ、と、これがまさしく絶体絶命だ、と私は絶望した。

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