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緋の軌跡は途切れない  作者: にょいはい
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第2幕 FellowS(2)

朝目が覚めると、ラローシュはもう目覚めていて、剣の素振りをしていた。

隣には、ユフィアがまだ寝息を立てて寝ていた。

軽く伸びをして、朝日を体に浴びながら目をつむる。

「おはよう。」

その間に、いつのまにかラローシュがこちらを見ていた。

「あ、おはよう。」

久しぶりに人と会話した気がする。村を出てからこの2人に会うまで話すことがなかったからなあ。

そう思っていると、ユフィアも目覚めたらしく、小さくあくびをして起き上がる。

「…おはよう、ございます。」

「「おはよう。」」

ユフィアは朝が苦手なのか、まだ半分開いていない目をこすりながら、あくびを何度かしていた。

ラローシュは、ふっ、ふっと言いながら剣の素振りを再開した。

日課なのだろうか。そう思うと自分には日課は存在しないことに気が付いた。

(元の世界だとパソコンの電源つけることくらいだったからなあ…。)

少しむなしくなり、何か日課でも作ろうかと改めて思った。


ここ3日と同じように保存食で済ませようと思っていたが、2人はどうするのであろうか。

そう思っていたが、2人も同じようで、かばんから取り出した保存食を食べていた。

冒険中はこれが基本のようだ。

「そういえば、2人はどこから来たの?」

昨日の晩ほとんど話せていなかったことを思い出して、話題を振る。

「俺たちはアレイシアの1つの村から出てきたんだ。訳あってね…。」

アレイシアは、私がいたファム村の南西に位置する村の集合だ。

山岳地帯にある集落が集まった、そんなイメージの場所だ。

(そうか、確か2人は…。)

私は、ゲーム内と同じ状況なのだろうと、2人の状況を思い出す。

思い出したが、それと同時にラローシュが話し始める。

「俺たちの故郷が()()()()に滅ぼされたんだ。だから、そいつを探しにあてどなく、ってところかな。」

隣にいたユフィアは思い出して怖くなったのか、杖をぎゅっと握り締めていた。

そう、2人のいた村は謎の騎士によって襲われ、そのまま滅んでしまう。

その敵討ちのために2人は冒険を始めた…ということを、思い出した。

(仲間にしてたけどこの2人のイベントは進めてなかったから、結末も何も知らないんだよなあ…。)

知っていたら何か有益なことが思い出せたかもしれない。

しかし、2人も確たる目的地があるわけではなく、手がかりを探しに港町ポタリアに向かっている。

そのことは確かだった。だからこうしてここで出会ったわけで。

「私も…今は話せないけど、ポタリアにとりあえず向かおうかと思ってて。」

村を出た事情は心苦しいが話すわけにはいかない。

契約のことも、しばらく隠しておいたほうがいいだろう。

「なら、私たちも一緒!ポタリアに向かおうと思っていたの。」

ユフィアは先ほどとは打って変わってうれしそうにそう言った。

「そういうことなんだ。昨日助けてもらってわかったよ。2人じゃ少し不安で、だから…。」

「いいよ、一緒にポタリアまで行こう。」

私がそう言うと、ラローシュも少しうれしそうに微笑み、うなずいた。

「私も一人だと心細いからね。人数が増えるとうれしいよ。」

これは本心だった。

ゲームだと何が起こっても所詮ゲーム、と思っていたが、今は違う。

自分の命もかかっているし、いつまでも一人でいるのは不安だ。

「じゃあ、パーティの結成だね!」

ユフィアはそう言って、持っていた杖を頭上に掲げた。

(パーティ、いい響きだ…。)

私も少しうれしくなったのか、同じように握り締めた右手を空に掲げた。

ラローシュは照れくさそうに、左手を少しだけ上げた。


***


いつもとは違う朝で出発したものの、道のりは相変わらずだった。

川からあまり離れないように、主要な道からは離れつつ。

でこぼこした荒野を歩き続け、平坦な場所を歩いてたまに現れるハウンドウルフを狩りながら。

といっても一人の時よりかなり安心できる。

先頭を歩くラローシュが前方の様子を確認しながら、私が後方を確認する。

真ん中のユフィアとたまに交代しながら、時には気を抜いて歩く。

(あと1日、2日はかかるんだろうなあ…。)

まだ地平線の向こうに町らしきものは見えない。

それはこの荒野を歩き続けるほかない、ということを指していた。

ゲームではあっという間だっただけに、この道のりがとても長く感じる。

馬車でもせめてあれば…とも思ったが、荒野では馬車は使えない。

それに、もしモンスターが現れたときの対応が後手に回ってしまう。

その点3人に増えたことで相対的に歩くスピードは早くなっていた。

1人だとハウンドウルフが現れたときは隠れつつ1匹ずつ狩っていたので、どうしても立ち止まることが多かった。

今ではラローシュが注意をそらして、その隙に私とユフィアが遠くから攻撃する形を取っていた。

ユフィアが使う魔法は火属性の魔法なので、この荒野で困ることはほとんどないだろう。

私の村に現れたフレアドラゴンのような、火に耐性があるようなモンスターは荒野では出現しない。

しかし魔法の連発は精神力をかなり消耗する。

なので基本的には私のナイフとラローシュの剣で倒し、数が多いときにだけ頼る形にした。

「魔法はお師匠様…、あ、幼馴染の冒険者がいて、その人に教えてもらったんです。」

道中会話がないのも寂しいので、時折なんでもない会話をする。

「俺たちは村から出なかったけれど、冒険に出た人も何人かいてね。たまに村に帰ってくるんだ。」

この兄妹の幼馴染に冒険者がいて、その人が魔法使いらしい。

ユフィアは魔法を教えてもらい、ラローシュは1人修行を続けていた、ということだ。

確かに剣術は誰かに教えてもらうこともあるだろうが、魔法使い相手に修行はしにくいだろう。

でも、とラローシュは悔しそうに話を続ける。

「ちょうどそういった戦える人がいないときに、奴はやってきたんだ…。」

2人の村を襲った騎士のことだろう。

「じゃあ、その人たちの帰る場所も…。」

「そういうことだ…。いつか出会えたら、一緒に冒険できればと思ってるよ。」

その人たちがどこにいるのかも検討がつかないので、とりあえず人の出入りが多い町に出よう、という考えだったようだ。

その騎士を探すにしても、同郷の冒険者を探すにも、とにかく行動しなければということだったんだろう。

(私も、ドラゴンを倒せていなかったら似たような状況になってたかもってことか…。)

「悔しいけど、実は俺はあまりそのときのことを覚えてなくてさ…。」

ラローシュは話を続ける。

「多分最初に対峙したのは俺だったんだけど、気が付いたら村は燃えていて…。」

「私は隣の村にお使いに行ってたから、なんとかお兄さんを探すことができて…。」

ううん、なんだか暗い話にどうしてもなってしまう。

2人の冒険の始まりからいって仕方のないことなんだろうけれど。

「にしても、2人が無事なら、また村を復興することもできるんじゃない?」

私がそう言うと、2人は少し笑って、そうだね、と言った。

「外に出てる人たちも戻ってきて、徐々に復興できたらと思うよ。」


***


日が沈みかける夕方。

夜を偲ぶための洞穴を探しつつ、移動する。

少し海が近づいてきたのか、風が強くなったように感じる。

それと同時に、岩場が少なくなってきているのも歩きながら感じていた。

「明日には着きそうだね。」

ようやく3人が過ごせそうな洞穴を見つけて、ラローシュはそう言った。

案外早いものだ。1人だったらもう1日、2日はかかっていただろう。

「2人はポタリアに行ったことがあるの?」

私は何の気になしに聞いてみた。

「俺は一度だけ。だからなんとなくの距離はわかるんだ。そのときは他の冒険者の人たちも一緒だったんだけどね。」

「私は一度もないなあ。だからどんな場所なのか、ちょっと楽しみ…。」

楽しみなのは私も同じだった。

この国随一の港町というだけあって、その活気はすさまじいものだ。

もちろん目的を忘れているわけではないけれど、一度訪れておきたい場所には違いなかった。

「私も行ったことないから、楽しみ。」

けれど、私の場合、追っ手が来る前にさっさと立ち去らなければならない。

楽しむというほど楽しめそうにはないが…。

そういえば、2人はポタリアに着いたらどうするのだろうか。

「着いたら、どうするの?」

「とりあえず情報収集かな…。手当たりしだい、人が集まっている場所を訪れるつもりだ。」

それは私も同じだった。まずはあの竜狩りを探さないと。

何か手がかりが残っているといいのだけれど。

「ユリエさんは、どうするの?」

ユフィアは私に尋ねる。

「私も同じく探している人がいるから、情報収集かな。済んだらこの国を出るつもり。」

そこから先は何かしらの手がかりがなければどうしようもない。

この国から出るのは決定事項だが、どの国に行くのかは決めていない。

決めていない、というより得られた情報次第だろうか。

「じゃあ、町に着いたらお別れ…?」

少し寂しそうにユフィアがつぶやいた。

冒険もそうだが、この子にとっては色々心細いのだろう。

「そんな悲しそうに言わないで。着いたらすぐお別れしなくったって、しばらく一緒にいよう?」

私がそう言うと、ぱあっと明るくなって、思いっきりうなずいた。

情報収集も複数人で行ったほうが効率がいいだろう。

「ユリエが探しているのはどんな人なんだ?」

ラローシュがそう言うので、私はまだ竜狩りの男を捜していることを言っていなかったことを思い出す。

「えっと、名前はステイン。紺色の鎧の、竜狩りの冒険者。」

どうして探しているのかは尋ねられなかったが、深くは聞いてこなさそうだった。

「じゃあ探すのは、黒色の騎士と、紺色の竜狩り、か。なんだかややこしくなりそうだな。」

そんなことを言いながら、沈みゆく太陽を見送り、私たちは眠りについた。

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