表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
緋の軌跡は途切れない  作者: にょいはい
1/25

第1幕 ReLoad(1/9)

いくつもの家が燃え、夜にも関わらず辺りは炎で明るく、揺れて照らされている。

私の眼前には、燃え上がり横たわっているドラゴンの死体。

それを遠巻きに見つめる村人たち。そのほとんどの人は、何が起こったのかあまり理解できていないのだろう。

ドラゴンという脅威が去った安堵感と、ぬぐいきれない不安感がその身を包んでいる。

その不安感の原因は…私にあるわけで。

村人たちの視線は、ドラゴンの死体と、私とを交互に見比べるかのようだった。

その一方で、私は立ち尽くしたまま、その心の中は達成感と後悔と罪悪感と…いろいろな感情が混ざっていた。

首にかけられた緋色のネックレスが妖しく光ったと思うと、私は脱力してその場に座り込んだ。

「はは…、ようやく倒せたんだ…。」

出てきた言葉はそれだけで、そのままぼうっと燃え上がるドラゴンをしばらく見つめていた。

そうしながら、さてこれからどうしたものだろうか、としばし現実逃避することにした。


そう、まずはなぜこんなことになっているのか。

記憶は昨日の晩にまで遡ることになる。


**

***


「ようこそ、何でも出来る世界、《FREE WORLD(フリーワールド)》へ!未知なる体験がアナタを待っています!」

リセットマラソンで何度も見たこのゲームのチュートリアル。

バニーガール姿にも関わらず猫耳の女の子が、自分が持つ杖を振り回しながらゲームの内容を説明している。最初はかわいらしい女の子だと思っていたが、幾度となく行ったリセマラのせいもあってか、私の中では憎き悪魔のような存在なのだけれども。

それに、未知なる体験も何も、このゲームに私は10000時間以上費やしてきたのだ。そのほとんどが‘既知なる世界’だと言ってもいいだろうと、自負している。

念のため言っておくが、私はこのゲームに課金をしたことはない。したいと思ったことは何度もあるが、課金するお金が無いから出来なかったというべきか。

逆に、悲しいかな時間は有り余っていたので、そんじょそこらの課金ユーザーには負けないレベルとステータス、アイテム数を誇っていたのだ。

…そう、()()()()()のだ。


「まずはアナタの名前を教えて欲しいな!」

チュートリアルが終わり、自分のキャラクターの名前を入力する画面へと切り替わっていた。

がやがやした音楽と進行役の猫耳の女の子の声が聞こえなくなり、設定時の朗らかな音楽だけがヘッドホンから流れてくる。

そこで、改めて現実に戻されてしまった。

「…私のデータ、消えちゃったんだなあ…。」

ほかに何の音もしない部屋で、私はぽつりと呟いた。


***


事の発端は。

日課ともいえる最上級クエストを行い、ボスをあと一息で倒せる、といったところで、ゲーム画面が動かなくなったことだった。

「ラグ?…にしては完全に固まってる…。ついにパソコンがダメになったのかな…。」

正直なところ、ゲームはかなりやりこんでいたものの、パソコン本体についてはよくわからなかったもので、パソコンの寿命がどうだとか、ネットワークがなんだとか、そういった類のことは何もわからなかった。


ゲームの画面は完全に固まっているが、パソコン自体がどうにかなったわけではないらしい。時刻は止まらず動いているし、他のアプリを起動すれば難なく起動することが出来た。

「んー、クエストがどうなっているのかわからないけど、とりあえず閉じるしかないかあ…。」

こういったときに強制的に終了させるのはよくないことだとわかりつつも、そうしないとうんともすんともいわない状態だったので、致し方なし、とゲームを開いていたブラウザを閉じた。

そしてすぐにもう一度ブラウザを立ち上げる。が、そこに表示されていたのは「ネットワークに接続されていません。」という文字列。

…ははーん、なるほどね。詳しいことはよくわからないが、ネットワークから遮断された影響でゲームも通信できなくなった、と。そういうことか。

何度か経験済みのことだ。ここまでゲームがどうにもこうにも動かなくなったことは今までになかったが、なんだたまにあることじゃないか、と、その時の私はそう思っていた。

こんなときには原因も正しい対処法もわからないが、1つ確かに言えることがある。

「再起動すれば、なんでかはわからないけれども、直る!」


開いていた画面を全て閉じ、スタートメニューから再起動を選択。

画面が一度暗転し、再びパソコンが起動する。

現れたのはユーザー選択画面。もちろん私のパソコンなので1人しかそこには表示されていないのだが。

パスワードを打ち込んで、「ようこそ」とだけ表示される画面としばらく睨めっこして、いつものデスクトップ画面になる。

マウスカーソルが砂時計になっていないことを確認してから、ブラウザを立ち上げ、ブックマークバーから《FREE WORLD》を選択する。

さあてこれで見慣れたマイページの画面だ、と期待したものの、そこに現れたのは、

「不正なアクセスが検知されました

 《クエスト内での強制終了》」

という、見たこともない無機質な文字列だった。

「…ナニコレ?」

まあ、たしかにクエスト中に強制終了しちゃったことは確かだ。だけれども、不正なアクセス?どういうこと?わからない。とにかくマイページに戻ろう、その一心で左上の「TOP」ボタンを押すのであった。

すると、一度ログアウトしたことになっていたのか、ログイン画面になっていた。

ユーザーIDとパスワードを入れて、「ログイン」ボタンを押す。慣れたことだ。


…そう、慣れた事だと思っていた。

「ログイン」ボタンではなく「新規作成」になっていることに気付いたのは、高らかにエンターキーを押した、その刹那のことであった。

え、と思ったのも束の間、オープニングムービーが流れ出し、聞こえてきたのは…。

「ようこそ、何でも出来る世界、《FREE WORLD》へ!未知なる体験がアナタを待っています!」


***


なるほど、噂には聞いていた。不正な行為を行ったり、悪質なプレイをしたユーザーはデータを消され、新しくキャラクターを作ることになると。

私は丁寧なプレイを心がけていたつもりだったし、そんな画面に出くわしたことはないのだけれど、そうなった人はこの画面を見るんだな、とうつろな目をしながら思ったのであった。

色々疑問はある。今さっきの強制終了は不正な行為にカウントされたのか?それにしてもこんな深夜に監視しているほど運営側も暇ではないのでは?あっじゃあ人間ではなく今流行のAIが判定しているとか?いや、そんなこと聞いたことないなあ。というか新規作成なら既存のユーザーID使えないのでは?とか、色々思いを張り巡らせていたが、とりあえず、もう一度、再起動すれば、の勢いで、再起動して、また同じ事を何度か繰り返していたが。

2回目以降は、そのユーザーIDでは新規登録された扱いに既になっていたのか、「ログイン」ボタンが出てくるのであった。

(2回目は正直期待したが、またしてもようこそ!以下略なのであった。)


「まずはアナタの名前を教えて欲しいな!」

名前の設定画面のまま放置していたら、再度猫耳()()に催告された。

うるさいよ!私のデータ返せ!と、叫びたくなったが、もはやそんな気力は残されていなかった。というか、こういうときくらい涙が出るものだと思っていたが、案外出ないものだった。

データってものはあっけないものなんですね…。

ああ、もうなんだか、どうでもよくなってきた。

このままパソコンの電源を消して、眠りにつけば夢だとも思えるのかもしれないが、結局目覚めてまたこのチュートリアル画面になるくらいなら…と、名前を入力する。

こういうゲームで、自分の名前なんて付けたことが無かったが、今はそういう気分だったのだ。

『アナタの名前:ユリエ  ▽』

そこから先も、淡々と項目を入力した。全部自分と同じステータスにしてやった。

『アナタの性別:女    ▽』

『アナタの年齢:17   ▽』

『アナタの生れ:農村   ▽』


「じゃあ、アナタはどんな姿なの?」

猫耳悪魔が次の設定を要求する。このゲームはキャラメイキングもかなりやり込めると評判であったが、リセマラで時間短縮ばかり目指していたため前のキャラクターは髭面の男性だった。

「今だからこそ、自分そっくりにしてやってもいいか…。」

もうしばらく鏡なんて見ていないが、ぼんやりと自分の姿を覚えている範囲で思い出しながらキャラメイクをしていく。ちゃんとやったら結構時間かかるなこれ…。

何時間経ったのかあまり覚えていないが、キャラメイクが終わって、操作説明のチュートリアルを一通り終えて、最初にもらえるアイテムを選んで…選んで…。

そこで私の意識は、パソコンの電源を落としたかのように、暗転して途切れたのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ