ドキドキの玉砕
ひとしきり、学校説明やこれからのスケジュール、
自己紹介が終わり、村田樹に会いに行った。
樹とは中学からの親友で、情報科に入っていた。
教室を覗くと、樹は席に座って、
カバンの中に配られた資料を入れているところだった。
「樹!久しぶり!中学以来じゃん。」
「おお!よう!久しぶりってほどでもないけどな・・(笑)」
「ところでさぁ、そっちって、女子何人いる?」
「ああ、5人だけど?お前んとこは?」
「4人・・」
「すくねーよな~。覚悟してたけど、彼女出来そうもねーよな。」
樹は中学時代に付き合っていた彼女とは、
別々の高校に行くことになり、別れていた。
教室内がガヤガヤしている。樹は外に出ようと廊下を指した。
廊下に出ると、俺は朝、出会った子のことを聞いてみた。
「ああ、瀬戸ライラだろ?外国で生まれたらしい。何?気になるの?(笑)」
「瀬戸さんっていうの?気になるって言うか・・掲示板に向かってパンチしてたから。」
「なにそれ(笑)うける!でも確かに美人だけど、ちょっと変わってるかもな。入学早々、けっこう男子に声かけられるけど、妙な返しされてみんなヤバッみたいな(笑)それに、表情変わんねーから、何考えてるかナゾだし。」
「ふーん・・」
「でも、特定のやつと一緒にいる感じじゃないから、付き合ってる男はいないんじゃね?あ・・瀬戸ライラ!こっちこっち!」
樹が犬を呼ぶような手つきで、ライラを呼んでいる。
「おいっ!!!」
俺は慌てて静止したけど、遅かった。
廊下の向こうから、ライラが近づいてきた。
春風にふわふわと浮かんだ光を従えて、颯爽と歩いてくる。
ライラは呼んだ樹の方に向いていた視線を、ゆっくりと俺に向けた。
彼女の少し切れ長の澄んだ瞳に釘付けになった。
ハッと、気付いた時には、ライラはすぐそばに立っていた。
「あのさ、掲示板の前でパンチしてたの?こいつが見たっていうから。」
樹はいつも、誰とでも自然に話しかけることができる天才だった。
「・・・蚊がいたから。」
落ち着いた、心地いい、それにしては女の子にしては低めな印象的な声だった。
「なんだよ、それ!(笑)蚊がいたら、パンチするのかよ!(笑)」
ライラは樹をじっと見つめた。
「違うよ。握りつぶした・・」
「・・・マジか、すげぇ。」
「・・・」
樹は俺だけ聞こえるくらいの小さな声で言った。
「な?会話になんねーだろ?(笑)」
表情は本当にずっと無表情で読み取れなかった。
彼女の奥にある心情を知りたいと思った。
もっと話したくてたまらなかった。
通り過ぎそうなライラ・・・
とっさに俺は彼女の手首を掴んでいた。
「あのっ!俺!野崎悠です。」
自分の大胆な行動に驚いた。
だけど、もう引けない!
「瀬戸ライラさん、俺と付き合ってください!」
「おお!マジかよー!!!」
なぜか、樹が興奮している。
周りの学生がざわざわし始めた。
ライラは下を向いている。
(やばい!絶対突然すぎた。)
髪の毛で顔は隠れていた。
ドキン・・・ドキン・・・
心臓の音がうるさい。
分かっていたけど、
容赦のない一言の矢が俺のハートを突き刺した。
「・・・やだ」
数秒後、俺の手をゆっくり振り払ったライラ。
告白は無情にも砕かれたのだ。
だけど、手に取った彼女の手首から、脈拍の異常な速さを感じ取っていた。
俺にしか分からない彼女の感情だと思った。
砕かれたはずの俺は、自然と微笑んでいた。