運命の出会い
春、優しい雨が降りしきる朝、
野崎悠は高校でいう1年生になっていた。
日本で初めて研究を中心とした、大学のような工科系進学校が開校された。
この学校は7年生だ。卒業すると、大学を出たことになる。
悠は、その高等研究専門学校のロボティクスコースに入った。
この学校は制服がないので、
今日はフード付きのナイロンジャケットを着ていた。
傘をさしていたが、それでも肩が濡れて、ちょっと肌寒い。
早めに着いた悠は、掲示板の前で足を止めた。
掲示板の横にはデジタルサイネージが置いてある。
トピックスや緊急報告などが、視覚的効果が生んで、全学生に行き渡るようになっている。
ちなみに、これはスマホでも確認できるようになっていた。
隣には同じように掲示板の前で佇む学生がいた。
ショートパンツから惜しげも無く晒された長い足、艶のある髪質、前髪は綺麗に整えられていて、
肩まで伸びる髪の毛先が風で遊んでいた。
気配を察したようで、彼女はこっちを一瞥したが誰もいなかったように、掲示板に視線を戻した。
そよ風がいたずらに悠の少し長くなった前髪を揺らして、
何度も視界を軽く遮った。
1年のお知らせ、特に何もなさそうだな・・
ところで、隣に立っている学生、1年生の掲示板の前だから、1年生?
情報科のお知らせの前にいるから、情報科かな?
立ち去ろうとしたその時、
彼女は突然、右ストレートのパンチで空を切った。
そう思った瞬間、宙を掴んだ。
いや、掴んだというより、何かを握りつぶしたように見える。
今度は左ストレートで宙を掴む。
それを恐ろしい速さで、繰り返していた。
ブンッ
ブンッ
ブンッ
ブンッ
(・・・な・なんだ!)
パタッと動きを止めた彼女は手のひらを開いて、
じっと見つめている。
「・・・20デシベル」
呟いたのが聞こえた。
そのエキセントリックな行動に、似つかわしくない無表情が印象的だった。
「あの・・・1年生ですか?」
おもわず声をかけていた。
自分から声をかけるのは何年振りだろう。
彼女がゆっくりと、こっちを見た。
たった数秒なのかもしれない。確実に目が合っている。
全く視線をそらさしていないのに、まるで悠が見えていないようだった。
そして、表情一つ変わらないまま、何ごともなかったように、去っていった。
ははは・・
思わず、吹き出していた。不思議と爽快な気分だった。