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魂の異邦人よ  作者: あんどろ
第一部 第1章
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第3話 『無限の器』

「お待たせ」


 コップが2つ乗せられた木の丸盆を手に、エダの辺境神が部屋に入ってきた。


「ささ、どうぞ」


「ありがとう」


 冷たいお茶のような物だった。エダの辺境神からコップを受け取ると和隆は一口飲む。冷えた液体が喉を潤す。今まで飲んだことの無い味だったが、悪くない、と和隆は気を休ませた。


「さて、と次は無限の器(インフィニティア)について、だったね」


「頼む」


 異世界に来て早々、ベッドの上で講習というのもアレだな。と和隆は思うが、必要な事だとは自覚している。目が醒めたらそこは何も無い森の中でした、ということよりは幾分マシであるはずだ。

 目の前に座って茶を飲んでいる辺境神と名乗る男が未だに信用しきれないとは言っても、特に取って食べようとしている素振りもなく、懇切丁寧にこの世界の事を語り、ましてやお茶も出してくれているのだから、今現在は感謝こそすれど、訝しむ顔を出しては失礼だろう、と和隆は含む。


「凡そ一般的に、人ひとりが持ち得る魂の量というのには限界があるんだ。だからこその職業選択があり、魂の御業(スキル)の傾向もその才覚と共に方向性が決まってくる。これは戦いにおいてだけではなく、それこそ庶民一般人が生きていく中においてもだね」


「その魂を代償にして魂の御業(スキル)を刻み込んでくれる時に支払った魂の分はどういう扱いになるんだ?」


「その分も魂の総量に数えられるよ。そうじゃないと理論上、刻み込める魂の御業(スキル)が修得し放題になってしまうからね。でも無限の器(インフィニティア)は違う。正に無限に際限なくその身に魂を受け入れられるんだ」


「まあ名前からしてそれっぽいからな。というかさっき俺の身体を弄ったといったが?」


「そうだね。これは事後承諾になってしまうんだけど、改めて言うよ。君の身体と魂を弄らせてもらった。あの事故のせいで仕方無かったとはいえ、本当に申し訳ない」


 エダの辺境神は頭を下げる。


「…具体的にはどこをどう弄ったんだ?」


 和隆は問う。事故でほぼ即死と言われていたとはいえ、面と向かって自分の身体と魂を弄った、と言われれば愉快な訳はない。今の所自分自身に異常が認められていないはずだが、何かしらおかしなことがあればたまったものではない。この自称辺境神に殴り掛かることも出来るはずだ、と和隆は憤りながらも、それでも頭を下げるエダの辺境神の意気に免じて自分も冷静でいよう、と考えた。


「…そうだね。まず身体の方なんだけど、ここに転移してきた時にはかなりボロボロだったから、大きく改修させてもらったよ」


 和隆の質問から少し間を置いてエダの辺境神は再び語り出す。


「凡そ30歳のサラリーマンとは思えない位の身体能力になったと思うよ。体内に内包できる理力素の大きさもこの世界の常人の数百倍はあるんじゃないかな」


「なにそれどこのチートですか?」


「いやいや、それでもこの世界の生物からみればまだまだ上から数えられるかられない位か、だとは思うよ。」


「まさかの中央値!?」


「実はこの理力素の内包に関しては僕はあまり触ってないんだ。元から半端なく大きな理力を秘めていたんだよ君は。そして、魂を受け入れる容量は、かなり弄らせてもらった」


「それが無限の器(インフィニティア)というやつか?」


「そう。その魂を受け入れる器を底なしにしたんだ」


「そうか…。その事によるメリットデメリットは?」


「まずメリットの方は、受け入れる魂の上限が無くなったことで魂の御業(スキル)の習得制限が理論上無くなったことだね」


「理論上、というのは?」


魂の御業(スキル)や技能というのは一度その魂に刻み込まれれば二度と元の魂に還元することは出来ない。この世界ではそれが常識だ。そして受け入れられる魂の総量には上限がある」


「だからこそ普通の人が修得出来る技能には限界がある、と」


「それこそ一ジャンルの技能を極めるにはたった一度の人生を賭ける必要があることも珍しくないよ。その辺りの考え方は地球でも同じではないかな」


「まあな」


「で、デメリットだけど、その価値を知る者や『貪る者(プロフィティア)』等から狙われやすいことだね」


「まあ無限の器(インフィニティア)と分かれば拷問にかけてでもその魂を欲しがる奴がいてもおかしくないわな。で、『貪る者(プロフィティア)』?」


「何らかの理由で魂を貪り食う事にしか興味を持たない者を指す言葉だよ。それこそ魂を貪ることしか考えられなくなった獣や、その知識と技能を持って不条理に魂を集める人間まで、様々な者がいるんだ。それはまさにこの世界の敵さ。魂そのものをひたすら貪欲に欲するからね」


「だからこそ貪る者(プロフィティア)とやらは無尽蔵に魂を持ちうる無限の器(インフィニティア)を付け狙うわけだ、と」


「そうだね。凡そ貪る者(プロフィティア)は無差別に魂を貪り尽くすのだけれど、取り立ててそれが無限の器(インフィニティア)だとわかれば、それこそ地獄の果てまで付け狙うだろうね」


「…なんか不味くね?俺も無限の器(インフィニティア)なんだろ?」


「いや、そうそう誰しもが一目見て誰が無限の器(インフィニティア)かなんて判別はできないし、無限の器(インフィニティア)自体がこの世界でも相当珍しい存在だから、確率的には低い方だよ。今の段階ではメリットの方が勝るかな」


「そんなものか」


「そんなものだよ。そこで、君を改造した申し訳ついでとは言えないのだけれど、ひとつ頼みたいことがあるんだ」


「…」


 和隆はそこで押し黙る。


「…これからこの世界で生きる際に貪る者(プロフィティア)と対峙することがあれば、出来るだけ退治、駆除してほしい」


(…まあ、ある程度は予想できることだわな)


 事故で死にかけの身体を修復させてまで頼むことといえば至極当然だな、と和隆は考える。まさか無限の器(インフィニティア)などという大仰なものに変えてくださった人物(神様)が、ただの気紛れでやったとは考えられない。打算的な所があるのは見出すべきだ。


 結局この世界でもギブアンドテイクの概念は根幹には根付いているんだな、と和隆は苦笑を隠しきれなかった。


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