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魂の異邦人よ  作者: あんどろ
第一部 第1章
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第1話 理力と理力素

「何処だここは。見知らぬ天井と言えばいいのか?」


 和隆(かずたか)は目が覚めた。


 確か自分は入院していた病院の屋上で見知らぬ少女の飛び降りを阻止しようとして、失敗し、そのまま二人とも地面に落下したはずだ、と和隆は反芻する。


 そしてここは見知らぬ部屋。自分はベッドらしきものに寝ている。少しずつ意識がはっきりしてきた和隆は、その身を起こす。


「やあ、目が覚めたかい。陣内和隆(じんないかずたか)君」


 和隆が寝ていたであろうベッドから少し離れた木製の椅子に見知らぬ男が座っていた。

 中肉中背。顔は日本人と欧米人のハーフか。服装はゆったりとした長袖のチュニックに長ズボン。

 そんな印象と特徴を受けた和隆はこの男は自分より年下に見えはする、と感じた。20代中盤か。


「どちら様で?」


「僕はエダの辺境神。多くの人々は僕の事をエダ、と呼んでいるね」


「んで、その辺境神様?ここは何処ですかい?」


「そこはエダ、でいいよ。しかし君、物怖じしないね。中々気に入ったよ。因みにここは『プリシラ』という」


「プリシラ…?そんな国あったっけかな?」


「いや、国、というか地球ですらないよ」


「ん?ええ、へぇ、まさか…、異世界、とか?」


「正解。ありとあらゆる魂と(ことわり)と可能性が交わる場所、それが此処『プリシラ』さ」


 和隆は目を見開く。目の前にいる見知らなかった男、エダの辺境神と言ったか。その男に和隆は大いに胡散臭さを覚え、溜息を吐く。

 そもそも自分は高所から飛び降りて死んだのではないのか?いや、あの少女が今どこにも見えないのなら、自分が見ているこの目の前の胡散臭そうな男と今自分がいるこの部屋、木造のペンションの一室の様な部屋に居る事自体、…自身の観ている夢。なのではないかと和隆はまたも溜息を吐く。


(脈絡が無さすぎるだろうに。この夢から醒めたら病院のベッドの中なのか俺は?)


(手術は無事終わった筈だよな?もしかして屋上にすら行っていないのか…?)


 あの少女との邂逅ですら夢の一部だとしたら、自分はどれだけ鮮明で長い夢を連続で観ているのだろうか、と和隆は心の中で独り言ちる。夢なんてものは脈略も無ければ整合性も無い。しかし、あの落下に準じる浮遊感やあの少女から漂っていた思春期独特の女子の甘い香り、抱き締めた感触。ああ、肉感は無かったが柔らかかったではあるな、と和隆は思考の途中で年頃の女の子を抱き締めた感触を思い出す。


(中学生だとしたら14歳か15歳くらい?ダブルスコアじゃねえか…。入院中まともに抜かなかったからか溜まってたのかねぇ?起きたら夢精とかしてんのか俺は?)


 あーやだやだ、と和隆は(かぶり)を振る。


「どうしたの?和隆君?」


 思考に耽り、傍から見れば挙動がおかしくなっている和隆に目の前の男が問い掛ける。

 そこで和隆は動揺した。


「夢じゃ…ないのか?」


「そうだね、夢じゃあ、ないね」


 今、目の前に立っている事象が夢か現か?を確かめるならば自分の頬を(つね)るのが定番だろうが、と思ったが和隆は違った。


(俺の名は陣内和隆(じんないかずたか)。歳は今年で30。現在は盲腸で入院中。手術は…、成功した筈だ)


 現状の確認を心の中で反芻する。それが和隆のやり方だ。そして、それが終わるとまたも深く、溜息を吐く。


「まさかの、異世界転生?」


「まあ、まさかの、だねぇ」


 目の前の男が応える。現実か。


「俺は死んだのか?」


「厳密には死んでいないよ。君があの時地面に落下して即死、という訳ではなく、その死ぬ間際、刹那に此処に来た感じかな」


「あの少女は?」


「生きているよ。君に護られたからね。重症だったけど致命傷ではなかった筈さ」


「なかった。過去形ということは今はピンピンしてるのか?」


「そうだね。今は元気だよ。近くにはいないけどね」


 そうか、と和隆は安堵する。名も知らぬとはいえ、絶望に満ちた表情をしていた年端もいかない少女を物理的に救い出せたのならば、それはそれで男冥利に尽きるものだ、と和隆は少し嬉しく思った。


「まあ、重傷とほぼ即死。二人の状況からしてこの世界に転移するのにはタイムラグがあったけど」


「時差みたいなものか?」


「そうだね。彼女の方が先に此処に来て、君の場合はその壊れた身体を再生させる事の方が優先されたのさ。その際に少し君の体を弄らせて貰ったよ。僕が」


「まさかの改造人間?機械の身体(サイボーグ)とか?」


「いや、人造の、『無限の器(インフィニティア)』かな」


「『無限の器(インフィニティア)』?」


「そう。無限の器(インフィニティア)。それを知るにはまずこの世界の仕組みを知らなければならないよ」


「そうか。教えてくれるのか?」


「勿論。その為に僕がいる。エダの辺境神が、ね」


 辺境神ということは今目の前にいるこの胡散臭い男は曲がりなりにも神様なのだろう、と和隆は見る。


「んで、エダ様。ここはどういう世界なんですかい?」


「様、も別にいいかなぁ。…そうだね。此処はまず地球と違い、様々な事象が『理力』というものに支配されている」


「りりょく?」


「そう、理力(りりょく)。フォースとも言うね」


「映画かよ」


「映画とは違うさ。それ以上に万能だよ。そして、『理力素(りりょくそ)』。これはこの世界に無尽蔵に溢れる物質さ。基本的に目には見えないよ。感じる事は出来るけどね」


「いわゆる創作物にある魔力や魔素、みたいなものか?」


「そうだね。厳密には違うけど。魔力というのは別に存在するよ。それはここでは置いておこう。そしてその理力はありとあらゆる生物や物質の中に存在し、流れている」


 エダの辺境神が言うには、その理力とはこの世界に遍在する理力素を操る力、らしい。身体の中にも理力素は含まれているとのことだ。


「まあ、身体の中に遍在する理力素は総じて理力という言葉に纏められるけどね。その事象を理力、物質としての理力素、と分けた方がわかりやすいかな。で、その理力素というのが万能でね。なんにでも変化し、干渉するのさ」


「なんにでも?」


「そう、なんにでも。物理や精神、火や水、風や土、氷や雷、植物や金属、時間や空間、そして運や命でさえも」


「運や命、ってそれってもはや概念じゃねえか。科学物質どころの話じゃねえぞ」


「そうだね。地球の科学ではないかな。でも、この世界ではこれが科学なんだ。そしてそれを操り干渉する力が理力、ということになる」


 理力を操れば理力素によりなんでも産み出され、干渉出来る。時間を操ればタイムスリップやそれに伴うタイムパラドックスなんて何のその、らしい。


「剣と魔法の世界なんて目じゃねえな」


「でも実は文明自体は地球よりは進んでいなかったりするよ。この世界は」


「マジで!?SFじゃないの?」


「一部を除いては、だけどね。流石になんでも出来るとは言っても全ての人々に遍く力と恩恵が行き届いている訳じゃないし、寧ろその概念と知識は一般には全然広まっていないよ。そこは誤解させてすまない」


「んじゃ世界観的にはファンタジー?」


「そうだね。それこそ剣と魔法、かな」


 理力と理力素の説明の為に極論を出した、とエダの辺境神は補足する。メタ的だなあ、と和隆は訝しむが、分かりやすければ端的にそういう単語を使うのは間違いではないな、とも心に含む。

ほんとにちまちま書いていきます。仕事は辞めたい

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