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一人じゃないよ ④

「ちょっと森さんっ!」


応接室を出てから駐車場の車にまでたどり着いてから連絡簿を受けとるのを忘れていた事に気付き、森は西浦に連絡簿を取りに行かせていた。


自分はその間、車の外で、車に寄りかかってノンビリ煙草を吸う為だ。


慌てて森の下へと駆けてきた西浦はその姿を見つけるなり、自分の上司である森に笑顔で詰め寄った。


「森さん、小学校ですよ?禁煙に決まってるでしょう。」


森はなにもない方向へ顔を向け煙草を思いっきり吸うと、まだ残ってる煙草をポケット灰皿にグリグリと突っ込み火を消した。

鼻と口から煙を吐き出しながら森が答える。


「小学校の敷地内は、だろ?ここは駐車場…」

「駐車場も小学校の敷地内でしょうが、ホンッッットに頼みますよ。僕らが刑事ってバレてて本部に苦情が入ったら、怒られるの森さんと誰だかわかります?一緒に行動している僕ですよ!」


森の胸を人差し指で突つきながら、西浦が怒る。

あー、はいはい と適当に返事をするものの、森の態度には反省の色は見えない。

惚けた顔でそっぽを向く森、その森を見て、西浦は森の鳩尾にを人差し指と中指で強く突いた。


ごふっ、と体を前に曲げて、大袈裟にリアクションをする森を放置して、西浦は車の運転席のドアを開け乗り込むと勢い良くドアを閉めた。


バンッと音が鳴り、一息置いてからエンジンのかかる音がなる。



「わかりました、わぁかりましたよ!」


置いていかれまいと、助手席に乗り込んだ森は急いでシートベルトを閉めた。


西浦はまだ車を発進させず、前方を見つめる。

たまに目線を少し上にしながらも動かない。


「ぉ…?どうした?」


西浦の様子に気付いた森は、目だけで西浦を見ながらも座り心地が悪いのかシートベルトを緩めたり、助手席に引かれている座布団をずらしたりしていた。


そんな森の膝の上に西浦はパサャリと音をならしてA4用紙に印刷された連絡簿を渡す。


少し動きを止めた森は、それを手に取ると眺めながらも腰を動かして座り心地を調整していた。


「天川、井口、岩崎、江島、小笠原、

えぇ〜っと…片山、木下…コイツか」


「なーんか、気乗りしないんですよねぇ…」


「何言ってんだ、仕事だぞ、仕事」


「…どうしてイジメの原因を追及しないんですか?」


「あ?」


「森さんも、教師の小原も…なんか納得いかないっス…」


「俺らが気にする所じゃねぇんだよ、そこは」


森は連絡簿を見ながら適当に返事を返す。


「何言ってんすか!大事な事ですよ!!」


適当な返事に対して西浦は声を荒げた。


「イジメが一度無くなったって、他の場所へ引っ越したとしても、原因が改善されなければ…またイジメが始まるだけですよ!?」


あぁ、そうだな

と上の空で返事をする森。

何かを調べる様子で、胸ポケットから手帳を開けて連絡簿と見比べていた。


「家庭問題とか金銭問題とか…僕らじゃどうすることも出来ない事が原因かも知れないですが…妥協案くらい探すくらいはっ…!」


「西浦…」


パタンと手帳を閉じ、森は淡々と西浦に言った。


「イジメっていうのはな…イジメられる側がどのような原因があったとしても、イジメた側が悪いんだ。イジメが起きている事が大事なんだ」


それが当たり前、と言う風に答える森に、西浦は冷たい表情で、そして軽蔑する目で森を見た。


「アンタ…子供いるでしょう?親なら子供がイジメられた原因が気になるもんでしょう?どうしてイジメられたのかって、またイジメられるんじゃ 学校が変わってたりしても同じじゃないかって。自分の子の心配しないって言うんようなものじゃないですか…見損ないましたよ」


「違う…俺の話にはまだ続きがある、落ち着いて最後まで聞けっ」


西浦の言葉に森もカチンときたのか口調を少し強くはしたもののすぐに落ち着いた声で話を続けた。


「決まってるんだよ…イジメは理由に関係なく、イジメた方が悪いんだ。今の教師はそう教えられてる。日教組がそう教えているんだ。」


森が目線を上げて、バックミラーをチラリと見る。

未だに疑うような表情の西浦も釣られてバックミラーを見る。


そこには小原が立っていた。

遠目でハッキリとはわからないが、右手首胸元あたりに持ってきて頭を下げる動作から、腕時計を見ているのではないかと推測できる。


その後顔を上げ、二人の乗る車の方を見たまま左手の掌を上に、その掌の上で右手を動かしてるように見えた。



「出せ…アチラさんはどうやら俺達にさっさと出ていって貰いたいみたいだぞ」


ササッと左右を確認した西浦が、パーキングからドライブにギアを変えてゆっくり

車を発進させる。


「森の喫煙が、小原に見つかったんじゃないすかね?」


「ハンッ…まさか」


鼻で笑った森は車を発進させても、その場から動かぬ小原を見て、眉間にシワを寄せて、大きく息を吐いた。


「…やっぱり気を付けるわ」



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