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一人じゃないよ ③

「どうぞ、お座りになってお待ちください」


女性教員に案内され応接室に通された二人、黒い革張りのソファーに腰を下ろす。


「まもなく担当教員が参りますので…」


森と西浦、二人の眼を見ないようそう告げてそそくさと女性教員は応接室から出ていった。


森は応接室の外に聞こえぬ様に小声で西浦に話しかけた。


「あの教員の態度を見たか、西浦。まるで『私は関係者ではありません、なにも知りません』と言わんような態度だったぞ」


「いや、どこもあんなものなんじゃないですかね?それより森さん!このソファーの方が問題ですよ!!ここまで高級感あるソファーは小学校にはいらないでしょう!ここ市立ですよね?税金でこれ買ってきてんのかぁー、いい身分だなー」


「お前なぁ…」


少し説教してやろうと森が西浦を睨み付けた所に、応接室のドアが コンコンコン とノックされる。


「はいィ、どうぞぉーっ!」


署内で仕事をしている時のように思わず大声で返事をした森に西浦は顔をしかめた。

森は森で、しまったと顔に出したがすぐに表情をもとに戻した。


ガチャリとドアが開き、担当教員が入ってくる。


「お忙しい中時間を割いていただきありがとうございます。七竈門市警捜査科特殊十六班所属、班長の森です」


森が警察手帳を見せながら挨拶をする。


「同じく同班所属の西浦です」

森に続いて西浦も頭下げる。


「御丁寧にありがとうございます。七竈門市立小学校、4年B組担当の小原です。よろしくお願いいたします」


小原は深々と頭を下げた。

挨拶が終わり三人が席に着いたところで森が早速、小原に問い始めた。


「早速ですが、今回イジメ問題が起きていると連絡がイジメっ子の保護者から連絡があった訳ですが…担任教員としては、今回の事態を把握しておられるのですか?」


森の発言を横で聞いていながら西浦は、疑問に思った。

このイジメに関する資料も作業もは森が一人でやると言っていたからだ。

故に、この瞬間まで西浦は事態の内容をなにも知らない訳である。

森も西浦の場数増やしもかねて自分のやり方を見て学べという古い人間だったので西浦に資料を見せる事もなかった。


西浦が疑問に思ったのはイジメられっ子の保護者からの連絡で発覚するならともかくも、今回はイジメっ子の保護者からの連絡で発覚というのだ。


「イジメを行った側の保護者からの連絡…ですか?」


思わず口を挟む西浦を森はチラリと見た。

小原も西浦の方を見て頷きながら答えた。


「はい、そうです。違和感を感じるのも仕方ないと思います。私が帰りの会で追求した事を生徒が保護者に話したらしいのです。」


小原はため息を吐き、頭を垂れた。


「それを聞いた保護者が『ウチの子がイジメをするわけがない!!』と苦情を申してきて…私共でも説明致したのですが納得されず、訴えるとまで言われて、現状に至る訳です。」


「それは…大変ですね…」


西浦は小原に同情していた。

警察でも似たような事は多々ある。

特に窃盗…万引きがそうだ。

一月前、非番で本屋に買い物に行った西浦が、現行犯で捕まえた、小学生の万引き犯がまさにそうだった。

両親は共働き、小学生にして財布には二万円も所持しており、万引きしようとしたのはB5サイズのビジネス用システム手帳。

どう考えても小学生には不要であろう物を万引きしようとしていたのだ。

後に同僚から話を聞けば両親は『ウチの子がそんな事をするはずがない!!』、『二万もお小遣いを上げてるから、盗む訳がない!!』、『私達の子に限って?、まさかそんな…!』

と、言って一歩も引かなかったという。


結果的に防犯カメラの一部始終を観ることになり、真意が判明すれば手のひらを返し、子供を叩くは、罵声を吐くわである。

私達の子に限って、から『お前はウチの子じゃない』になるのだから堪らない。

揚げ句の果てに父親は、母親が浮気をしてたのではないかと疑い始め夫婦喧嘩まで始める始末である。


そんな親なら、グレるのもスレるのも、万引きするのも、イジメをするのも致し方ないのだろうか。

同じような境遇であっても立派に育つ子もいるので断言はできないが、そういった傾向があるのだろう、と西浦は一人納得し、同時にまだ会っても話してもない小学生だが、可愛げの無い憎たらしい小学生の姿を想像したのだった。


「ま、大体の事情は把握しました。念の為連絡簿のコピーとか頂いても宜しいですかね?…えぇっと、四年B組でよかったですかね?」


「はい、四年B組であってます。連絡簿は直ぐにご用意致します。」


「それと…あー、B組の生徒全員の事情聴衆、保護者共々御宅訪問しても?問題ありそうでしたら…」


「そう…ですね。まずは警察に連絡された木下君の家だけにしていただけますか。その後必要であれば全員でも構いません。」


「わかりました。それと今回はまだ事件としては取り扱いしている訳ではありません」


「イジメが起きているのにですか?!」


小原が少し語気を強める。


「それでもです。起きていてもです。…失礼ですが、そちらの最高責任者の校長先生はどちらに?」


森の問いに小原はグッと唸ると目をそらし気まずそうに答える。


「…今朝、急な用件が出来たとかで私に全て任されて出られました。」


「ま、そういうことですな。では、我々はこれで失礼いたします。後程此方から御連絡致しますので…ぇぇ」


森が書類とメモを纏めて鞄に入れた後立ち上がる。

それに釣られるように小原も西浦も立ち上がった。


では、と頭を下げ退室しようとする森を止める用に西浦は小原に問う。


「最後にイジメられるようになった原因を訊いても宜しいですか?」


「おい」


と森が西浦を制止する。


「原因は関係ありませんよ、イジメられたと感じる子と本人の訴え、周りの認識が大事なんです」


そう答えた小原の顔は、先程までとうって変わってゾッとするほど無表情だった。


ぺしっ


軽く間抜けな音が応接室に響く。

僅かに間を置いて西浦が小さく呻いた。


「ウチの若いのが、失礼しました。後程御連絡させていただきます」


いくぞ、と西浦を急かして森は足早に応接室から出ていく。

不服そうな顔で西浦も後に続いた。


二人のそんなようすを、小原は複雑そうな表情で、目を細めながら見送ったのだった。



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