REV.12
大切な物を守れなかった夜が明けて、一週間が経った。
世界は少しずつ変化を始め、ボクらの知るその全様とは少しずつ齟齬が発生していた。
気づけば街には定期的に地震が発生、時々床が抜ける。 地下空間から来るらしいそれらの揺れは破滅的なボクらの未来を象徴しているかのようだった。
自分たちの身に迫っている危機に街の人たちは相変わらず鈍感で、自分は世界と繋がっていないような顔をする。 人波の中を縫うように歩く自分も、きっとレヴィに出会うまでは同じ顔をしていた。
薄く、街を覆う靄は人々の目を曇らせ、繋がりを薄めていく。 吐く息は白く曇り空に上って、沢山の同じそれと一つになる。
気象管理も行き届かなくなり始めたこの街に、本当の意味での冬が訪れた。 コートを翻し、両手に抱えた紙袋を持ち直す。
時間がないことは判っていた。 焦っているという自覚はある。 それでも取り繕ってボクは落ち着きを自分に求める。 そうしなければ、冷静にならなければ、大切なものは守れないから。
何故あの時引き金を引く事が出来なかったのかと、毎日のように自分に問いかける。 その答えが出るよりも早く自分自身に次の行動を急かし、ボクはまだ生きている。
大切なものを失った胸にぽっかりと空いた大穴はどうしたって埋められないから。 それを埋めるために、生きている限り出来る全てをボクは行う。 自分自身に出来る、最高の戦い方で。
工房の扉を潜り、紙袋から取り出したパンを齧りながら地下への扉を開け放つ。 かつては忌まわしい記憶へと続いていた暗い階段も、今は希望へ続いている。
「だーかーら! そっちは違うってさっきから言ってるでしょ!? 資材の移動さえ満足に出来ないわけ、あんたは!?」
「うっせえな! だったらテメーでやれっつうの! そもそも『あっち』だの『こっち』だの言われても、荷物デカすぎて見えねーんだよ!!」
地下空間に響き渡る大人気ない二人の声に苦笑を浮かべながら広場へ移動。 そこには沢山の資材に囲まれて何やら言い争うイクスとゼン兄ちゃんの姿があった。
「朝から元気だね二人とも。 朝食買って来たけど、食べる?」
「あら、おはようウラ。 ていうかあんた昨日寝たの? 一晩中ここに居たんじゃないでしょうね」
「多少寝なくても平気だよ。 それに残念ながら体調は絶好調なんだ。 不思議と身体が軽くてね。 力が満ちてくる」
心配そうなイクスに微笑を返し、木製の古ぼけたテーブルの上に紙袋を置いた。
あれから一週間。 ボクは自分の手で再び過去と向き合う事を決めた。
あの日、完成させる事を諦めて忘れようとした夢の名残。 作りかけのロケットを見上げ、自分に喝を入れる。
「さあ、今日も頑張ろう」
冷たい銀色のボディに触れ、彼女に想いを馳せる。
レヴィが宇宙に行ってしまってから、一晩と一週間が経過していた。
REV.12
レヴィが居なくなってしまった夜の事をボクは覚えていない。
ただ記憶に残っているのは血の匂いと激しい痛みと苦い記憶。 必死になって守ろうとした物はあっけなく指先をすり抜けてしまった。
目を覚ましてからもしばらくの間ボクは何も考えられなかった。 激しい喪失感は自分自身の存在さえも危うくするほどボクを追い詰め、食事さえ喉を通らなかった。
ボクは三日間眠り通しで、その間ずっとイクスが看病をしてくれていたらしい。 でも、『ありがとう』という言葉さえボクは言えないまま、ただただ落ち込み続けた。
そうして何もしないまま丸二日程が過ぎた頃、イクスはボクに今の世界の状況を教えてくれた。
あの夜ボクらが無事にFRESから脱出出来たのは、FRES内に殆ど人が居なくなっていたかららしい。 そしてその理由はその後判明する。
街では地震が頻発し始め、それは日を追う事に頻度を増していく。 街中の大地が少しずつ陥没し、イクスは街がいつか崩れて滅ぶだろうとボクに語った。
街の外に出る事を許されているFRESと政府の上層部は、とっくに街を捨てて外に避難していたらしく、政府からの発表は当然ないまま、FRESという会社が蛻の殻になっているという事実も知られないまま、街は今日も平然と稼動を続けていた。
「オズワルドが、FRESは宇宙空間に移動しただろうって言ってたわ。 恐らくレヴィも宇宙だろうって」
それは事実上、諦めろと言う意味を持っていた。 街の外に出る方法など、ボクらにはない。
オズワルド率いるOZはFRES残党との戦闘、宇宙空間への追撃を開始するらしい。 そしてボクらに出来る事は何もなくなった。
安宿のベッドの上、ボクは泣いた。 何時間も何時間も泣き続けた。 一生分くらい泣いたんじゃないかと思う程止まらなかった涙。 レヴィはもう、この世界に居なくなってしまった。 その事実は、余りにも辛すぎて。
良かった事しか思い出せず、何故か脳裏を過ぎる笑顔の景色が胸を深く切り刻んで行く。 本当に大切だったはずなのに、無力だったから。 ボクに力がなかったから、守ってあげる事が出来なかった。
イクスはボクを慰めなかった。 それが意味のない事だときっと彼女は判っていたのだと思う。 どうしようもなくやりきれない空気だけが残され、ボクらは完全に諦めかけていた。
そんなボクらにとんでもない提案をしたのがゼン兄ちゃんだった。 落ち込みきった空気の部屋に飛び込んできて、彼はボクの胸倉を掴み上げて行った。
「よし。 ちょっくら宇宙まで行くぞ、ウラ」
「…………はっ?」
シリアスな空気もどこへやら。 思わず素っ頓狂な声を上げてしまったのはボクだけではなくイクスもそうだった。
さっさと荷物を纏め始め、ベッドからボクを引っ張り出し、強引に担ぎ上げて歩き出すゼン兄ちゃん。 昔ならまだしも今これは余りにも恥ずかしいと嫌がるボクに、彼は視線を合わせずに行った。
「本当に大事なら、助けに行こう。 心配すんな、お前は十分強いぜ? あれだけ必死になれるくらいあの女が好きなら、命を懸けて全力で――自分に出来る全てでぶつかって見ろ」
「す、好きな女って……! そうじゃないよ! それに、宇宙なんてどうやって行くんだよ!?」
「行けるだろうが。 俺と、お前と。 二人そろえば出来ない事なんてないぜ、相棒」
その、強くボクの背を押すような無邪気な笑顔が忘れていた記憶を呼び覚ます。
二人だけで此処ではない何処か、世界の向こうへ行こうと語り合ったあの日々。 あの時もゼン兄ちゃんはよく同じ事を口にしていた。
だから容易に思い出せたそれに、ボクは思わず目を丸くする。 確かに方法は。 手段は。 最初からあったんだ。
「…………本気でやるつもりなの、ゼン兄ちゃん?」
「俺はいつでも本気だ。 殆ど完成しているあのロケットはな、今の俺たちなら直ぐに飛ばせるはずだぜ」
「そんな単純じゃないよ……? それにもうずっと長い間手入れしてなかったから、どうなってるのかもわからないし」
「それでも他に手段ねーじゃねえか! お前はいつもうだうだ考えすぎなんだよ! 文句言うなら代案出せコラ」
「う……。 確かに言う通りだけどさ……」
「ならまずやる。 それから後で駄目なら考えようぜ? 諦めて足踏みして、泣いていたって明日は来ないんだ」
片腕で担がれながら、ボクは思わず微笑んでいた。 ゼン兄ちゃんは昔から馬鹿で、本当に滅茶苦茶を言う。 でもその言葉を聴いていると本当に出来そうな気がしてくるから不思議だ。
レヴィも言っていた。 今のボクはもう一人じゃない。 だから一人で考え込んで落ち込んで、泣いていたってしょうがないんだ。
「それは判ったけど、そろそろ下ろしてよ……。 人目がかなり気になって恥ずかしいんだけど」
「気にするな」
「いや、だからそっちが気にしなくてもこっちが気にするんだよ!」
「ちょっとー! 男同士で絡んで置いてくんじゃないわよっ! あんたたちさっきから何の話してんのよーっ!!」
イクスが遠くから走って追いかけてくる。 何故かボクらも笑いながら走って逃げた。
それから、ボクらの夢の続きが始まったんだ。
「…………んんっ!? おめえ、まさかイクスか!?」
「あら、お爺ちゃん?」
そして、色々と驚く事が続発した。
まず、うちの工房のじいさんがイクスの祖父だったという事。 じいさんにしてみれば死んだと思っていたゼンと一緒に行方不明だった孫娘が現れたのだから、相当な衝撃だっただろう。
その上ボクらはぼろぼろで、包帯塗れの血塗れで。 だからじいさんは話を真剣に聞いてくれた。 この数日間の出来事、そしてレヴィを失った事。 宇宙へ行きたいという事。
掻い摘んで話したはずなのに話は何時間も続いた。 工房の二階の部屋、狭いスペースに四人で座って語り合う。 全てを聞き終えたじいさんは今まで見たことがないような真剣な表情を浮かべ、ボクの名を呼んだ。
「お前の両親はな。 『アース』の科学者だった。 ワシの弟子でもある。 で、ワシは先々代の『アース』のリーダーを務めとった」
また唐突な話だった。
「『アース』は街を解放する事を求めた組織だが、その本質は街そのものではなく人の歴史や過去、人々の認識の解放だった。 お前らは深く意識した事はないかもしれんが、街の地下は積層された街の残骸で構成されておる。 崩れたらその上にまた街を――そうして継ぎ足して何百、何千という時間を人間はこの狭い世界で生きてきた。 だが、お陰で足場はガタガタ。 いつ崩れるか判らん世界の上に危機感のない人間と自分だけ逃げ出すつもりで宇宙開発を進める政府。 ワシら『アース』はそうした世界のおかしな流れに一矢報いるために結成された」
アースは政府に対する抗争の他、地下空間の探索も行っていたらしい。 何故ならば地下にはかつての世界の歴史が眠っているからだ。
当時はまだ政府が宇宙への出入りを深く規制していなかった所為か、アースも宇宙空間へ出る事があったらしい。 そんな中、たまたま宇宙へ出ていたボクの両親が発見した物が、アースという組織の運命を変えてしまった。
「『棺』じゃった。 中身はなんだかわからなかったが、それはずうっと昔から暗闇の中を漂ってたんだろうなあ。 だが、それは政府やFRES、OZが捜し求めていた代物じゃった。 棺の中身もわからないまま、手に入れてしまったアースは突然FRESの掃討作戦を受け壊滅した。 ウラの両親も、ワシの息子――前リーダーであるイクスの父親も、その時命を落とした。 構成員殆どが命を落とした中、イクスはたまたま引退したワシの元に遊びに来ておったから生き延びる事が出来た。 だがもう一人、その時生き延びた子供が居た」
それがボクだったらしい。 生まれたばかりの赤ん坊だったボクは何故かその掃討作戦を生き延びた。
その後、FRESに確保されたらしいボクを奪って命からがら逃げ帰ってきたイクスの母親がじいさんにボクを託し、その人も命を落として現在に至るらしい。
「父さんは棺の中身に世界を救う手立てがあると信じていた。 あたしはその中身が知りたくてFRESに入社したの。 身分を偽って、ね。 それも母さんが死んでしまった後だったから、すぐこの工房を出てしまったあたしはウラの事は全然知らなかったわね」
十四年前、十歳の少女だったイクスはその天才的頭脳で見事FRESへの入社を果たした。 彼女はその瞬間からたった一人アースという組織を受け継ぎ、そしてじいさんとイクスは離れ離れになった。
「ウラの元に棺から出てきたあの娘っ子が現れた時は、来るべき時が来たと思ったもんだ。 だからもう、驚かんよ。 あれはきっと、本当に世界を変える娘っ子だったんだろうな」
「じいさんがボクに両親の話をしなかったのは……?」
「『アース』の存在を抜きに語れる自信がなくてな。 真実を知ればお前はもしかしたらFRESに復讐しようと飛び出すかもしれん。 そこの馬鹿孫のようにな。 無茶ばかりさせて厳しくしごいた弟子は、本当の息子みたいなもんだった……。 だからなウラ。 ワシにとってお前は、本当の孫みたいなもんだ。 騙していると判っていても、本当の事は言えんかった」
「いや、ありがとうじいさん。 本当の事を話してくれて。 これでようやくすっきりしたよ」
じいさんは本当にボクの身を案じてくれていたのだろう。 実の孫であるイクスを止められなかった事も関係しているのだろうが、彼の思い遣りが本物だったことは間違いない。
ボクがトレジャーなんていうヤクザな仕事をしていてもじいさんは文句一つ言わずに応援してくれた。 気づいていなかっただけで大切な人は身近に沢山いたんだ。 ボクは一人なんかじゃなかった。
本当は誰だってそうなんだ。 見ようとしないだけで、街行く誰もが本当は大切な人に守られている。 それに気づけたという事は、とても素敵な事なのかも知れない。
それにしても、イクスがじいさんの孫か。 二人とも天才肌の科学者なのに、妙にパワフルだ。 大型拳銃ぶっぱなす孫娘のじいさんは、ムッキムキのアスリートみたいな身体つきでも確かにおかしくはない気がする。
「そうなると、俺ら三人兄弟みたいなものなんだな。 じいさんに育てられた俺たちと、本物の孫娘のイクスか」
「そうみたいね。 奇妙な縁だわ」
「うん。 ほんと、変な偶然」
ボクら三人がうんうんと頷いていると、じいさんは首を横に振った。
「わかっとらんな、お前らは。 こういう偶然はな? 運命――と、呼んだりするんだよ」
顔を見合わせ、ボクらは笑った。
何はともあれこれだけ関連性があると色々と説明する手間は省けた。 ボクら四人は直ぐに地下に向かい、ロケットを覆っていた布を数年ぶりに解き放った。
そのはずなのにロケットはとても長年放置されていたようには見えない程丹念に整備されていた。 あの事故の日からずっと、じいさんが暇を見て整備していてくれたらしい。
夢を諦めて落ち込むボクらがいつの日か、再び火を点す日を彼は信じていた。 どうしてそこまで何かを信じられるのだろうという疑問が脳裏を過ぎり、しかしボクは考えるのを止めた。
たぶんきっと、そういうものなのだと思うから。 家族や、親友というものは――。
「ったく、暇なら爺が仕上げてくれりゃ良かったのによ」
「馬鹿言うなぃ。 てめえは戻ってきても相変わらずクソ生意気なまんまだな、ゼン坊」
「まあ、天才のあたしが一緒なんだし何とかなるんじゃないかしら。 これでも元宇宙開発のプロだし」
「うん。 皆で力を合わせれば大丈夫。 きっと、完成する。 そう、信じてる」
皆を、レヴィを、自分を。 強く信じているから、きっと成し遂げられる。
ボクはそれから寝る間も惜しんで作業に没頭した。 数年間のブランクを埋めるのは一瞬で済み、次々とあの頃の思い出が脳裏を過ぎっていく。
夢中になって作業を進めている間は何もかも忘れ、ただただレヴィの笑顔だけを思い浮かべた。 不思議と笑みが零れ、力が沸いて来る。
嘆くより前に、考えるより前に、ボクは行動する事にした。 今の自分に出来る事は、もうこれしか思いつかないから。
毎日毎日くたくたになって倒れるまで作業を進め、少しだけ休んで作業を再開する。 銃で撃たれた傷口が激しく痛み、時々どうしようもなく手が止まってしまう時がある。
ゼン兄ちゃんもイクスもあちこち骨が折れていて重傷のはずなのに、我慢してボクに付き合ってくれた。 無理をすれば死ぬかもしれないと考えるより早く、ボクの手はもっともっとと先へ進みたがる。
傷から滲み出る血がシャツを染めても、ボクは手を休めない。 レヴィはもっと辛かったはずだから。 もっと痛かったはずだから。
そうして一日、また一日と時が過ぎ、ボクらの間には共通の意思と明日への希望が芽生えていた。 一つの目的の為に努力するうちに、不思議な一体感が生まれていた。
最初は言い争っていた大人二人も気づけばチームワークが良くなり、ボクらの作業はどんどんペースアップする。 結局完成に漕ぎ着けたのはレヴィが居なくなってから二週間後の夜の事だった。
「…………出来た」
最後のチェックを終え、思わす思い切り床の上に倒れこむ。 どっと溢れ返った全身の疲労感は尋常ではなく、しかしそれでもどこか清清しかった。
イクスはいつの間にか端末を操作したまま眠ってしまっていた。 そのあどけない表情に思わず苦笑していると、ゼン兄ちゃんがその華奢な肩に上着を掛けた。
「優しいんだね」
「ふん、まあな。 ようやく完成したんだ、少しくらい労ってやってもバチは当たらねえだろ」
倒れこんだままのボクの隣に胡坐をかき、兄ちゃんはシャトルを見上げていた。 長い長い間、ボクらはそれを見上げ続けてきた。 この場所に立たずとも、どんなに時が過ぎても。 停止していた時間が動き出し、同時に子供の頃の記憶が蘇る。
そんな、淡い夢の欠片が。 届かなかった空への手が、今ボクに残された唯一の希望になっている。 皮肉な物だと思う。 とても、それは皮肉な事だと。
「明日、成功するかな」
「やってみなくちゃわからないさ。 だが、俺はお前を信じてるぜ、ウラ」
強く笑う兄ちゃんの横顔。 身体を起こし膝を抱え、ボクは静かに目を伏せる。
「あの時……。 ボクのミスの所為で兄ちゃんが居なくなった事、すごく後悔してたんだ。 どうしようもなく、前に進めなくなった。 今更それを言っても仕方がないって、兄ちゃんは笑うかもしれないけどさ」
「ああ。 まあ確かに、笑い話だな」
「でもボク、今本当に嬉しいんだ。 兄ちゃんとまたロケット作って、打ち上げられるなんてさ。 だからあの時の事、謝って置こうと思って――」
「――俺を兄ちゃんと呼ぶのはもう止めろ」
言葉を遮るように言うと、彼は真っ直ぐにボクの目を見る。
「もう、お前は立派だよ。 精一杯努力して、明日を変えようとしている奴に大人も子供もねえ。 それはとても勇敢な行為だ。 俺もずっと忘れてた物に、お前に会えて気づく事が出来た。 あのままFRESに居たらきっと、こんなスカっとした気分にはなれなかったろうな」
「…………ゼン」
「昔のことはうだうだ気にすんな。 俺たちは今、こいつの前に立ってる。 ダチ同士、いつまでの昔の事をぐちぐち言うのは水臭いぜ?」
そう言って彼は手を差し伸べた。 とても嬉しい事だと思った。 思わず涙を流しながらボクは笑ってその手を強く握り締めた。
それからボクらはお互いの知らなかった時間を語り合い、それからロケットに名前をつける事にした。
何度も何度もボクらは意見を出し合い、結局ゼンのセンスのない意見を却下し、ボクが名前をつける事になった。
ボクらの夢を乗せる翼。 そして、彼女へと続く幸せを取り戻す為の翼。
ブルーバードと名づけたそれは、ボクらがこの世界に生きた確かな証になった。
「絶対に取り戻そうぜ。 絶対に、絶対にな」
「……うん。 取り戻すんだ。 大切な物を」
強く拳を握り締める。
例え殴りつけても相手を傷つけられない拳でもいい。
それでもボクは、自分に出来る手段で運命に抗う。
蒼穹の空へ向け、ブルーバードは飛ぶ。
ボクらが自分で選んだ戦いの舞台は、世界の向こう側へと進められた。