第5話
細々と続けることにしました。また、お付き合いください。
「出向になった」
そう言って食堂の机に突っ伏しているのは私の恋人アルフレッド・ジーンと親友のカレン・ブランシュの二人だ。
「と言っても、たった3か月だけだけどな」
そう冷静に突っ込みを入れたのはレオナルド・アオキだ。
皆さん、お久しぶりです。初めましての方にはご挨拶を。ライラ・ブラックと申します。カレン行方不明事件やアルフからの告白から早1か月。アルフレッドとは無事に恋人同士となり、落ち着いた日々を過ごしておりました。
「たった3か月って・・・3か月もトーラン先輩に会えないんだよ!?」
「ライラ・・・毎日通信入れるから」
悲壮感漂う二人の側で余裕のレオナルド。
「レオナルドは違うの?」
「あぁ、二人だけだ」
「新人なのに出向なんて・・・」
「研修の意味もあるらしいんだ」
「なるほど・・・で、どこへ出向なの?」
心なしか二人が固まった。口角を吊り上げ、答えるレオナルド。
「なんと・・・第98連合基地だ」
「98って、あの辺境の!?」
第98連合基地は銀河の辺境にある、つまりド田舎にある基地だ。
「ジャンプで行って1日半かかるっていうあの?」
「そう。周りにショッピングモールも何もない、アステロイドを掘りぬいて作った基地」
ちなみにアステロイドとは岩石みたいなものだ。
「そんな基地に3か月・・・耐えられない!!」
カレンが吠える。
「だから固定の人材があまり居ないらしいんだ。労働力として、新人の研修先には持って来いって事。こき使われて来い」
レオナルドはどこまでも楽しそうだ。他人の不幸が楽しいタイプか?
「ライラ・・・浮気しないで」
「しません!!向こうでの事を心配したら!?」
馬鹿な事を言うアルフレッドに対して、思わず顔を真っ赤にして怒鳴ってしまった。アルフってこんなキャラだっけ?
オッといけない。キャラとか設定とか考えるのは止めたんだ。ここは乙女ゲームの世界かもしれないし。違うかもしれない。ただ、私は毎日を好きに生きていくって。
「ライラ!!今日の業務後にライラの部屋で女子会ね!」
カレンが唐突に宣言した。
「良いけど・・・」
「よし、出向前の憂さ晴らしだー!!」
・・・何をするのやら。
「私・・・トーラン先輩に妹扱いされている気がするんだ・・・」
宣言通り、業務後に私の部屋へやってきたカレン。女子会の議題はカレン達の先輩であるトーランについてだった。
「二人で食事とかしていたじゃない」
「食事しただけ。ライラだってレオナルドと二人で食事するでしょ?」
「まあね・・・」
「まあ、告白した訳じゃないから仕方ないのかもしれないけど」
ええっと、考えないようにしていたけどゲームの世界だと、どういうルートだっけ?確か、ゲーム中盤までは確かに親戚のお兄さんみたいな雰囲気でモヤモヤするんだよね。二人が両想いになるのは・・・!
(悪役令嬢の爆死イベントの後だった・・・!)
そうだ。悪役令嬢ライラの攻撃からヒロインをかばった後に「君を失うことが怖かった。君が好きなんだ」って両想い確定になるんだった。
(これって、私の所為・・・?)無性に気まずい・・・。
「き、協力できることはするから」
「本当!?ライラならそう言ってくれると思ってた!!じゃあ、お願いなんだけど・・・3カ月間、トーラン先輩の情報を通信でよろしくね!!」
「・・・はい」
気まずさから食い気味でした協力宣言。カレンからのお願いも、それくらいで良いならと安請け合いしてしまった。その事を後悔するのは、当たり前だけど後になってからでした。
そう気が付いたのは二人を見送ってすぐの事。
「私・・・トーラン先輩との接点が無い」
「そりゃ、そうだ」
レオナルドとの二人のランチ時間。遅まきながら気づいてしまった。
補給部と調査部。接点はあるにはあるが、それは補給の時。私はカレンの補給担当だからと格納庫でトーラン先輩と会うことがあった。しかし、カレンが出向している現在、格納庫に行く理由がない。つまり、調査部との接点が無いのだ。
「どうしよう・・・毎日見に行ってたらストーカーだよね」
「アルフが嫉妬しそうだな」
それは困る。大いに困る。彼は意外と嫉妬深いのだ。帰ってからが怖い。となると・・・。
「レオナルド様」
「・・・なんだ?」
「私に毎日トーラン先輩についての情報をください」
机に付きそうなくらい頭を下げる。
「それくらいは良いが・・・条件がある」
「え?条件?」
レオナルドが珍しく口ごもる。
「あー。その、な。えっと」
「私で出来る事なら協力するから!」
食い気味に言った。あれ、デジャブ?
「・・・コーティ先輩って付き合ってる奴とか居るか?」
「・・・え?」
それって、つまり・・・。その時、私は小声で叫ぶという器用な事をした。
「レオナルド。コーティ先輩が好きだったの!?」
「好き・・・っていうか、良いなって思ってるいというか・・・」
何という事でしょう。ここにも恋をしている若者が一人。
「知らなかった」
「誰にも言ってない」
「アルフにも?」
「アルフにも」
「私に言って良かったの?」
「ライラなら言いふらしたりしないだろ。言ってもアルフとカレンくらいだ」
二人には知られても良いんだ・・・。
「言わないわ。アルフとカレンにも言うなっていうなら言わない」
「いや・・・アルフには言っといてくれ。嫉妬されたら怖い」
確かに、黙って協力したら後々アルフは誤解しそうだ・・・。「俺のいない3か月間。二人で親密そうだったって聞いて・・・」とか何とか。私の事ではないけど、私の事なので、なんとなく申し訳ない気分になった。
そんなこんなで私、ライラ・ブラックはカレンとレオナルド、二人への情報提供者となったのでした。