第4話
私の所為でストーリーが変わってしまった。何がいけなかったのだろう。最初から?私が爆死エンドを回避するためにパイロット試験を諦めた時から全てが変わってしまったのだろうか。それともストーリーの補正力が働いて、無意識に補給でミスをした?
混乱の渦の中にいる私をアルフレッドが引き戻す。
「ライラ。君の所為じゃない。僕は確信している」
「でも、もしかしたら・・・」
「もしかしたら?」
「私、カレンに嫉妬していた。O-shipのパイロットで、補給中の点検も完璧で、何でも出来る。もしかしたら、無意識のうちに補給で失敗を・・・」
パシン
「いくら君でも君の事をそんな風に言うのは許せないな」
アルフレッドが私の両頬を包み込むように軽く叩いた。そのまま上を向かされ、目を合わせる。
「君はそんな人じゃない。いつも一生懸命で、真面目に、真摯に仕事をしている」
「でも・・・」
「俺だってカレンに嫉妬してるよ。」
「・・・え?」
攻略対象がヒロインに嫉妬?
「カレンは優秀で、この間の任務の話をしただろう。カレンのお陰で解決したって。素直にすごいと思った。けど、同時に嫉妬したよ。なんで俺じゃないのかって」
アルフレッドの腕が背中に回る。頭を胸に押し付けられる。・・・抱きしめられている。
「ねえライラ。嫉妬しちゃいけないのは何故?」
「え?」
「仲のいい人でも嫉妬くらいすることがあるよ」
でも、ヒロインに嫉妬しては悪役令嬢になってしまう。
「嫉妬して、何か悪いの」
悪い。悪役令嬢になりたくない。私は・・・ライラ・ブラックは・・・?
「俺は良いと思う。嫉妬して、悔しがって、成長していけると思うんだ」
「私は・・・」
「ライラのこと好きだよ。嫉妬している部分も含めて」
嫉妬して良いの?悪役令嬢でも良いの?
「もし、私が嫉妬して、カレンにヒドイことしていても好きだった?」
「君は仕事を疎かにする人じゃないよ」
「するかも」
「絶対にしない。信じてる」
私は・・・ライラ・ブラック。だけど、乙女ゲームのライラ・ブラックではない。嫉妬しているかもしれない。でも行動に移さず自制できる。
ここは、乙女ゲームの世界だけど、違うんだ。ストーリーなんて無いんだ。
「ライラ、すっきりした顔してる」
「何か、憑き物が落ちた気分なの。嫉妬して良いって言ってくれたから」
「俺が力になれた?」
「ええ・・・今度、返事するから」
「え?」
アルフレッドの腕から抜け出し、部屋に入る。
「おやすみなさい。送ってくれてありがとう」
本当にありがとう。
翌日、再び作戦本部の会議室に呼び出された。そろったメンバーは昨日より一人増えていた。そう、カレンだ。
「カレン!!」
「ライラ、ただいま」
「おかえりなさい。無事で良かった」
カレンに飛びつくように抱きしめた。本当に良かった。
アッシュ・ジーンが咳払いをする。
「昨日、帰還後のカレン・ブランシュの機体を整備部が確認したところ、燃料計に細工がされていた」
「細工・・・ですか?」
「ああ。補給タンクには問題が無かったぞ。」
「細工っていったいどんな?」
「燃料が無くなっているにも関わらず、燃料計のメーターはMAXを示していた。そういう細工だな。犯人はすでに懲罰房だ」
みんながザワついた。犯人が捕まった?
「格納庫に入った人間のIDと防犯カメラを調べた結果、不審な人物が居た」
アッシュがスクリーンに手をかざすと、写真が映し出された。
「シャーラ・イン。補給部1年次。お前たちの同期だ。こいつは調査部担当でも無いのに格納庫に入庫した記録があった」
シャーラ・イン。もちろん知っている、一緒に仕事をしたことは無いが同期だ。・・・視線が痛かった内の一人でもある。
「ここまで調べると思ってなかったと・・・全く。前代未聞だ」
「何故インがこんなことを?」
みんなを代表してコーティ先輩が尋ねた。
「それがよく分からない。ライラ・ブラックがやらないから私がやった。ブラックの責任になるハズだったとか、ブランシュはブラックに殺されるとか・・・精神鑑定に回す予定だ」
・・・もしかして、インも転生者だったのかしら?私と違って、ストーリー通りに進めようとした転生者。今となっては、聞いてみることも出来ないけど。
「とにかく、この先は作戦本部が引き受ける。解散して通常業務に戻ってくれ」
それぞれが調査部や補給部へ戻る中、アルフレッドを呼び止める。
「アルフ、あとで時間を貰えるかしら?」
「え?うん。もちろんさ」
「じゃあ、夜7時に中央展望フロアで」
ストーリーなんて存在しない。なら、自分の好きなように進めて行こう。
7時前、急いで中央展望フロアに向かうとアルフレッドが待っていた。
「早いわね」
「昨日のお返し」
二人で顔を見合わせて笑う。
「・・・返事、してくれるのかな」
アルフレッドが問いかける。
「ええ。私の返事を聞いて欲しい」
展望フロアで二人きり。星空が周りを取り囲む。
「私、アルフレッドの事が好きかは、まだ分からない。でも、好きになりかけている自分が居る。だから・・・これから好きになっても良いですか?」
「ライラ・・・」
アルフレッドの腕が背中に回る。
「嬉しいよ」
「中途半端な返事でごめんなさい」
「いいや。本当に嬉しい」
・・・パチパチパチ
・・・・・・・・・・・・・え?
「レオナルド!!空気読みなさいよ」
「だってカレン。やっと、こいつらくっついたんだぜ」
「そっと見守るところでしょ」
「そう言えば、カレンはトーラン先輩とは」
「だまらっしゃい」
カレンとレオナルドに覗き見されていたようだった。
「ふふふ」
「ふ・・・あはははは」
アルフレッドと私は笑い出す。バツの悪そうな二人が居る。
私はライラ・ブラック。この物語の悪役令嬢に転生したけど、爆死エンドから免れるためストーリーから外れました。と思っていたけど、最初からストーリーは自分で作るものでした。今は、とにかく好きに生きて行こうと思っています。
拙い話を最後までお読みいただきありがとうございました。