プロローグ.4
シャーリーと別れた本郷が向かったのは自身の家……ではなくファーストフード店だった。
独り暮らしかつ家は風呂と睡眠以外で戻らない彼にとってお手軽かつスピーディーに食せるファーストフード店は食を支える重要拠点であり、多少混み合っている時間を利用すれば情報収集も行える場所である。
いつもと同じセットメニューを頼んだ後待ち時間があるみたいなので番号札を受け取り空席へと向かう。ちなみにこれもいつも通りであり、持って来てもらう間に情報を集める事が多い。
「さっきそこの裏路地で事件あったらしいよ」
「マジ?こわー」
だが、依頼を済ませた後の今の時間では中々得るものは少ない。そんな時は決まって魔動力を使った携帯情報端末『メイガス』を使い何か事件の事が書かれてないか調べる。
「仕事終わりにくる割にいつも難しそうな顔してますね」
「んぁ?ガキには分からんだろ。てか仕事中だろ?」
店員の子が俺の頼んだメニューを持ってくる。が、もう一つセットを持った彼女は強引にも隣に座り一人用の椅子を近づけて来た。
「私は仕事上がりましたので。いつも一人のおにーさんと夕食を食べようと思ってるんですが?」
「生憎俺はロリコンでも何でもない。他を当たりな」
「酷い!これでも18ですけど〜?」
ムッスリと頬を膨らませながらハンバーガーを頬張る彼女の名は美波切羽。この店のアルバイトでいつも俺の頼んだメニューを持ってくる女子高生である。
「それは意外だった。見た所中学生にしか見えないからな」
「どうせ童顔ですよー。おにーさんの老け顔と違って」
「このガキ……」
舌を出して威嚇してくる切羽を一瞥しつつ俺も食事を摂る。時刻は23時。かなり遅めの夕食だった。
「なぁ。幾ら何でも近すぎないか?」
「あれ、まさか私にドキドキしちゃいました?」
「あぁ?食べ難いんだよ。離れろ」
「嫌なら離れれば良いじゃないですかー」
「離れても来るから言ってんだろうが……!っておい、それ俺のポテト……!!」
「へへ〜っいただき〜っ!」
気を許すとこの傲慢ぶりは流石現役学生であると思わせる。いや、学生全てがそうとは思わないが。少なくとも若さ故の行動力だと思う。
結局購入したポテトの半分を奪われながら食事を済ませた俺はトレーを片付けた後早々に店を立ち去ろうとする。
「あ、待ってくださいよ〜!!私も帰ります〜!」
「はいはい……早く来い」
「そんな急かさなくても…わたたっ?!」
躓きながら店を出た切羽を無視しつつ先に店を出る。後から付いてきた彼女を目の端で確認しつつ歩き出すと、横に並ぶ形で足を早めてきた。
「送りが必要ならもっと早い時間に上がれよな」
「えー。そしたらおにーさんと帰れないじゃないですか」
「それが目的なら俺も店に来る時間を変えなければならないな。青少年の健全な生活に支障が出る」
「うわっ、健全とか一番似合わない感じなのによく言う……」
このガキ……。
「大体お前そんなに金が必要なのか?そんな貧乏には見えないが」
「んー……将来的な事を考えた活動費?的な感じ」
「何だそりゃ。ヘタな行動は命取りだ。はよ彼氏作って結婚して家にいろ」
「……鈍チン」
何故か切羽に睨まれる。だが、そんな事は日常茶飯事なのでどうでも良かった。
治安の維持がまだ出来ていない昨今では23時以降の外出はとても危険である。例え本郷が付いていたとしても切羽の身に何か起こる可能性が無いわけではない。
特に、魔術の可能性の果てが解明されてない今はどの様な魔術が来るのか分からない為、彼は常に周囲の気配を探っている。
当然、その事は切羽も知っている。その為本郷に帰宅の送迎を頼む事が日常化しているのだが。
「……ここまで来たら帰れるだろ。じゃあな」
「えー……今日はお家寄ってかないの?」
「これまで一度も寄った事ないだろ。さも当たり前な感じに家に上げさせようとするな」
「ぶーぶー。ガードが硬すぎる男は嫌われるよー?」
「お前はもう少し硬めな。オープン過ぎて危なっかしい」
「誰にでもオープンじゃ無いんだけどなー……とりあえず今日も送迎ありがとうございますっ」
「おう。夜更かしして学校寝坊するなよ。じゃあな」
手を振って見送る切羽に背を向けた俺は来た道を少し戻り家路へと辿る。
切羽の家と近いのも送迎を快諾している理由だった。