プロローグ
夕闇を許さぬ街灯犇く街。東京。
この世の科学を結集させ高度文明を栄えたこの街の夜は不夜城と呼ぶに相応しい輝きに包まれていた。
表通りには高貴な商店街。高層ビル。財力に物を言わせた人々の誇張場が広がり、路地に入れば肌色艶かしい風俗街が広がる街。東京。
生活感の欠片も無くただひたすらに欲を掻き集めたこの街は人々の憧れを象徴するかの如く栄え、今日と言う日を照らし続ける。
明日も。明後日も。
何一つ変わる事無く照らし続ける。
ー筈だった。
『……こちら中継です!!
突如東京都上空に現れた紫色の巨大な積乱雲はその範囲を広めー』
『ー上空を覆っている謎の積乱雲ですが勢力を弱める事無く停滞し……』
街の中央にある巨大な画面に映し出される緊急速報。中継ヘリから映される映像に映っているのは首都全体を覆う巨大な積乱雲。
その様子に騒めく人々。だが、ここで一つの違和感を覚える。
「……あれ、空に星が見えてるんだけど」
ポツリと呟かれた一言を聞いた人々が空を見上げる。それは次々と伝染し車を止め見上げる人まで現れる。
『こちらの空からは何も見えませんが……中西さん、そちらの方から見えてる物は本当なのですか?』
『はい、間違いなく首都上空に積乱雲があります!!!この映像は加工されたものではありません。どうか、避難をー』
「避難ってもどこに逃げるのやら……。それに何も見えないしまた何かのやらせか?」
ぞろぞろと人々はその場を離れていく。自分の目に見えない謎の現象なんて信じるに値しない。ーと言うかの様に。
再び元の喧騒を取り戻した街の中央でひたすら叫び続ける中継。だが、その様子に誰も興味を持たない。
無理もない。空は一面綺麗な夜空なのだ。有りもしない現象に時間をかける程人は暇ではないのだ。
『やはりこちらからでは何も確認出来ません。混乱を避ける為に中継を一度中断させていただきます。都民の方々には大変申し訳ー』
『な、何だあれは……?!』
『中西アナ。生放送中にその様なー』
『ヤバい、逃げー』
その瞬間、東京都は闇に包まれる。停電などでは済まない深淵の闇。不思議なのは一歩先すら確認出来ない程の濃密な黒に包まれたにも関わらず誰1人として悲鳴をあげない。
ー否。あげないのではない。あげる事が出来ないのだ。
ただの雲ではなく質量があるのかビルですら崩壊している。正確には確認は出来ないのだが。崩壊しているだろう圧力が首都を襲っていた。
ーそこから数時間。
雲が晴れた首都は死屍累々。高層ビルは倒壊し車は圧迫され人々は身体中に血管を浮かせ血だまりの中で寝そべっていた。
不夜城が一夜にして無人の都市となる。華やかだった街灯は全て消え、栄えていた都市に人の気配は無くなり、繁華街は廃墟へと変わる。
ー20XX年。某月某日。PM11:55
東経135.北緯72.日本:東京都消滅。
同時刻。各国有数の都市の全てが謎の積乱雲に覆われ消滅。
世界地図から大規模都市が全て消えた瞬間である。
それから数年後。
廃墟と化した街は復興し始め、新たな動力を得る。
未知なる力。魔動力を糧に。
人々は再興し始める。
この魔術に侵された魔染都市で。
そして物語は都市の中で紫煙を吹かし、裏路地を闊歩している男の視界から始まるー