1:幕開けの徴候
初、なろうです。
普段は2次創作投稿サイトであるハーメルン様でちまちまと活動していたのですが、一次創作も書きたくなったので折角だから小説家になろう様で投稿しようと思い至って筆を取らせていただきました。
この作品は取り敢えず初投稿なのでベタな感じで、ゾンビパニックホラーとなっています。
文を書くのは苦手ですが、お楽しみいただけたら幸いです。
8月31日は丁度日曜日だった。
天気予報では本日も曇りなしの日本晴れとは言っていたが、そんなお天気リポーターの言葉は大正解なようだ。
ここ、神奈川県鶴巻市でも海に面しているのにも拘らず気温は30℃を超え、湿気の多いジワジワとした大変不快な空気が俺の肌を撫でる。時折吹く海風はさながら祝福の風のようで、扇風機のように絶え間なく続いてくれればいいのにとさえ思ってしまう。
こんな炎天下の中に長時間いられるか、なんて心の中で八つ当たりをしながらも足早に歩きつづると、差し掛かった交差点が赤色に点灯しているのが見える。
_____暑いから早く青に変われ、後3秒、2秒、1秒。
そんな願望に車を整理する信号機が反応するはずもなく、2分ほど待つとようやく青信号へと変わる。ただ体感時間では10分ほど立ち尽くしたような気がする、額や首筋からは汗がゆるりと流れかなり嫌な感覚が神経を走った。全国の真夏日の信号機は歩行者最優先にして車は後回しにすべきだと思う。
道なりに進み、左へ曲がり再び信号機で数分待たされるとやっと目的地であるジャンクフード店に着いた。何だかとても長く、険しい道のりだった気がする。夏空の下で行動すると本当に体力がいる。夏はやはり引きこもるのが1番だ、本当に。
店内に入ると、冷気がヒューと俺へ襲いかかり一気に体感温度が20度以上下がった。流石店内、大型クーラーがガンガン付いているのだろう。めっちゃ涼しい、シャツをぱたぱたとすると更にその冷ややかな風が上半身に入ってきて、生きてて良かったと思えるほどに。
ただなんで俺、この上にカーディガンなんて着てきちゃったのだろうか。暑いし。煩わしいことこの上ない。
カーディガンを脱いでバックにしまい過疎気味の店頭レジでテンプレートにハンバーガーセットをコーラのLサイズで頼むと、待っている間に携帯をチェックする。画面右上がひび割れた、黒色のスマートフォンだ。
ロックを解除すると既にメッセージが一件届いていて、それが今日の待ち合わせ相手のものだと気付くのに1秒も要らなかった。
その一文がこちらである。
【三階。早く来い】
____簡潔かつドストレートな命令形、それは見慣れた幼馴染、伊切双菜の得意とする文体に違いなかった。
これは別に彼女が酷く我が強く、オラオラ系なギャルと言う訳ではない。寧ろ性格はしっかりとしていて、委員長気質な方。しかも成績優秀で容姿端麗、校内でトップを争う優等生だ。
____なのだが、俺にメールを送ったりする時はこうして強い言葉を使ってくるのである。双菜は俺の事を抑えの効かない狂犬とでも思っているのだろうか、普通に書いてくれてもちゃんと従うと言うのに。
ハンバーガーとドリンク、ポテトの乗ったトレーを落とさぬよう、慎重に足元を見ながら一歩一歩階段を登り、双菜のいる三階に足を付けると俺はホッと一息ついた。
一度だけ階段で躓いて熱々のコーヒーを髪の毛にびっしょり、顔は階段の角に思い切り強打してしまったことがあるのだ。当然今や完全に黒歴史で、その前で歩いていた双菜は時々この事を掘り返すとクスクスと笑ってくる。担任の教師があいつを品性方向と評していたが、俺だけは絶対に違うと明言できる。それどころかあれは悪女だ、人の不幸を愉しむネトウヨだ。俺は声を大にしてそう言いたい。
自動ドアが開くと、奥の4人席を1人で占領していたショートカットの茶髪の女が手を振ってきた。双菜である。それにしても今日は夏休みだと言うのに、何故制服なのだろうか…しかも見るからに暑そうなブレザーまで着て。
幼馴染ながらこういう真面目さには思わず首を傾げてしまう。
「よっ」
そう声をかけると双菜は怒ったように、
「…今、何時?」
左腕に付けた腕時計を見ると時計の針は午前10時半を示していた。
えっと____
「____約束の時間の一時間後だな、うん。間違いない。ジャストでそうだ」
「何がジャストよ!おかげでこの4人席座ってた1時間、私周りから変な目で見られてたんだからね」
それは俺の感知する所じゃないような…というか二人席座れば自然だったろうに。
「まあまあ、全部この暑さが悪いんだ。そうカッカすんなって」
「今本気でアンタのこと殴り飛ばしたくなった。…全くこれだから成人は…」
呆れたようにボヤきながら、バックから一枚のプリント用紙を取り出す。
それは原稿用紙のようにマスが印刷された、夏休みの宿題の一つである将来の夢についての作文だった。
今回俺が成績優秀な幼馴染と朝の過疎ったジャンクフード店に集まったのは他でもなく、宿題を終わらせるためである。
しかしこの幼馴染、何も言わなければ無情にも夏休み最終日という宿題の恐怖に怯えるという一大ビックイベントの遥か前に全て片付けてしまうだろう。そこで俺が頼みこんで高給コンビニアイスを奢り、こうして机を共にして宿題をすることができたのだ。
「…にしてもお前、本当に真っ白だったんだな」
思わず対面に座る双菜のプリント用紙を凝視してしまう。こんな時間の掛かる作文じゃなくて、もっと数学みたいな簡単に終わる宿題を残せばよかっただろうに…。
「どうせ私の将来の夢は決まってるからいいの、それより成人はどうなの?」
「そんなん自明の理だろうが、国語以外全部ペケだ」
因みに自慢ではないがもうここ数年、ずっとこんな調子である。双菜を最終日に巻き込むのだって何年も続けた恒例行事となっている。
「…やっぱりか。期待した私が馬鹿だったわ…」
「でも宿題終わらせてないお前も馬鹿だろ?それも相当の」
「本気で帰ろうか私!帰っていいよね私!」
「調子に乗りましたごめんなさい」
「よろしい」
机に手を付け、さながらアッラーの信者のように頭を下げると双菜は満足げに「頭を上げい」と言い放ち、「ハハーッ」と俺も元の体勢に戻る。
俺はバックから将来の夢についてのプリントを机に出すと、シャーペンと消しゴムも合わせて机の上に置く。
そしてシャーペンを右手に持ちペン回しを三回すると、ペンを机の上に置いてコーラを飲んで、外の暑さの記憶を忘却の彼方へ追いやる。窓の外からはミンミンゼミの耳を劈くような鳴き声が夏は今だとばかりに聞こえてくるが、気合いで無視する。夏よ、去れ。永遠に。
ペン回しをしてはペンを捨てコーラを飲む行為を4回ほどしていると、
「ねえ」
「どうした双菜」
「やりなさいよ、宿題」
「…ペンが叫ぶんだ、俺を廻してくれと!」
「私帰る」
「スイマセン本当にごめんなさいもうしませんから許して下さい」
再来するアッラー式謝罪法。両方の手のひらを八の字を書くように机に置くのがコツである。
双菜は俺の言葉で思い留まったのか、溜め息を一度着くと筆記用具を片付ける手を止めた。
____危ねえ、今のはマジだった。
3度目はもうマズイと思った俺は、ペンを持つと氏名欄に枯木成人とだけ書かれたプリントをジッと眺める。
夢。将来の、夢。
それは中学三年生である俺にはまだ備わっていないものだった。多分、同級生の殆どが夢なんて抱いていないと思う。
しかし目の前いる、伊切双菜は同級生の中の少数派である。自分の確固たる夢を抱いてるらしい。
____らしい、というのは俺にそれを話したことがないからだ。絶対叶えたい夢がある、と言う内容の言葉は聞いたのだが中身は叶えるまで秘密だそうで、実は密かにその夢を探って双菜の両親に聴き込みをしたりしている。…当然教えてくれなかったのだが。
「…全然思い付かん…すまん、携帯使うからな」
「電話?」
「違う、ニュース見るだけ」
「それならいちいち言わなくて良いから」
いや、一言掛けないと絶対お前「何携帯使ってんだ〆るぞオラ!」って感じで睨んでくるだろ。自覚無いんだろうけど。
ニュースアプリを起動して、国内のニュースを開くとちょうど新着のニュースがあった。朝に起きた時開いたのに、もう来てるのか珍しい…。
_____そんな暢気な気分で開くと、信じ難い文面が画面に映し出された。
「日本全土に非常事態宣言…東京都文京区を発端に暴徒が東京各地に拡大中…現在政府は原因を調査中……」
_____何だ、これ…?かなり、ヤバくないか…?
「ちょっと、何よそれ…私にも見して」
素直に双菜に携帯を渡し、読み終えた双菜は愕然とした表情を浮かべる。
「非常事態宣言って確か、国家の運営の危機に対する緊急事態の時に発動する奴よね…?」
不安げにそう零す双菜。
…どう考えても、これはただ事ではない。
そもそも東京で起こった暴動なのに、何で全国に非常事態宣言しなきゃならなかったのか。…確実に何か、ヤバイものがある。
直感であるが、ほぼ確信もしていた。
俺は携帯を返してもらうと、直ぐさま別のページを開いた。動画投稿サイトだ。恐らく、東京で暴動を目の当たりにした人間の一人くらいはその光景をスマホで投稿しているだろうと思ったからである。
「東京 暴動」で検索すると、今日上げられたと見られる動画が既に10件ほどヒットした。その内の1番再生回数の多い一つをタップして、双菜にも見えるようボリュームを上げ机の真ん中に置く。
____そこに映っていたのは、正しくこの世の地獄絵図だった。
唾液を垂らしたサラリーマン風の若い男が大声で叫び助けを呼ぶ女に噛み付いていた。
身体の中身が半分飛び出た小学生くらいの子どもが金髪のヤンキーを食い殺していた。
眼球が無く、所々血管を剥き出した老人が女子高校生の手に噛み付き、首筋に噛み付いた。
そして、噛み付かれた人間は残らず彼らと同じような、フラついたかと思えば逃げ惑う人を見ると走って襲い掛かる"何か"に成り果てていた。
何だよこれ、まるでゾンビ映画のワンシーンみたいじゃないか…!
「____おい、大丈夫か双菜!」
声の無い悲鳴を上げていると、双菜が苦しそうに口元を抑える。
暫くすると収まったようで、「平気…ありがとう」と掠れた声で言うと席に座った。
動画を止めると、瞬間、ぷるるる…とスマホが振動し始め双菜の背筋がピクリと震える。
無理もないだろう、あんなものを見てしまった後なのだ。まあ幾らリアルだと言っても流石にアレはイタズラだろうな…大方さっきの緊急事態宣言に乗っかってアップロードされたのだろう。イタズラにしても程がある。警察に通報すれば捕まるぞこれ。
そう思いつつ着信画面に映る宛先を見れば、中学一年のクラスメイトで今もちょくちょく会う上野からだった。
____確かアイツは去年東京に引っ越したような。
疑念を抱きつつ電話に出ると、慌てたような小声で彼は捲し立てた。背後からは何やら、人の叫び声と生物の呻き声や金切り声…のようなものが聞こえてくる。
『おい、枯木だよな!返答はしなくて良い。これは俺の友人全員に言っている最後のメッセージだ。良く聞け。今やってるニュースあるだろ、暴徒が何とかってやつ。あれは嘘だ、今東京では簡単に言えばゾンビが跋扈してやがる、そしてそいつらは多分もう東京外にも出てるだろうな。当然神奈川も例外じゃなく、多分横浜くらいまで奴らは到達してると思う。だからだ、そこから早く逃げろ!できれば人口過疎圏にだ!…それだけだ、じゃあな枯木』
「おいちょっと待て!それより上野お前は大丈夫な…!……切りやがった…」
「ね、ねえ。今の…」
思わずスマホを力強くタップすると、俺はスマホをポケットに入れて机の上を片付ける。ついでに紙に包まれた手を付けてないバーガーもバックへと仕舞った。
「これ…、本当なの…?」
「…ああ、多分、かなりの可能性で。どうやら事は尋常じゃないらしい…双菜も早く準備しろよ、街を出るぞ」
「う、うん…」
俺は荷物を纏めてある人物に素早くメールを打つと、双菜と共に再び灼熱の日差しの元へと出た。
本編であまり説明出来ないと思いますので補足。
主人公の名前は枯木成人。身長165cmほどで、髪を明るい金髪に染めている。しかしヤンキーという訳ではなく、顔付きは柔和な方なので第三者からは「穏やかそう」という第一印象を受けやすい。
あとヒロインの名前は伊切双菜と読みます。
補足でした。