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定期的に薬草を取り替え、『手当て』を行い、ケイはMPを失って眠りについていた。
カノン・ビールが目を覚ますと気だるさと寒さに襲われた。はっきりしない頭で考えても状況が理解できない。場所も見覚えがないのだ。
そして自分が下着同然の姿でいる事に驚き、下手くそとはいえ治療されている事にいぶかしみ、そして寝ている少年を見て理解した。
生きているという事は多少なりとも適正な治療がされたのだろう。何故少年が出来たのかは分からないが、治癒師を知らない以上、生きていくために覚えたのかもとカノンは自分を納得させた。
血は止まり、不思議と傷は塞がりつつある。一夜で傷口が塞がるような怪我ではなかったはずだが。それでも体を動かすには至らない。
「しばらくは動けぬか。少年には助けられたな。」
鎧や剣も傍らにある。回復さえすれば行動できそうであった。
「わざわざ捜索隊を出したりはせぬはず。されど行軍のための斥候は出すはず。それと接触できれば駐屯地には戻れよう。」
思考はこれからの事へと・・ならなかった。昨日の事を思い出したのだ。泣き叫び、失禁した。襲われると思い、狼狽もした。
男の騎士仲間に裸を見られた事もあったが、騎士としての自分であったため恥ずかしくなかった。しかし、昨日の自分は騎士ではなかった。そう考えると急に恥ずかしくなってくる。
下着同然のままの姿でいる事が我慢できない。
おかしい。おかしい。
この格好のまま格闘の訓練をした事もあるのだ。それなのにたまらなく恥ずかしい。
「な、なんなんだ。これではまるで乙女ではないか。」
体を隠せる物など鎧くらいしかない。そして今の体力で鎧を着る事など無理だ。いや、鎧は着れるが着てどうするのだ。
・・・。
ケイが目を覚ますと金属鎧を着用して横になっている女騎士がいた。
「大丈夫ですか?それにもう鎧なんて着て・・。まだ動ける体じゃないはずです!」
「わ、私は騎士だ。敵がくれば戦わねばならぬ。仕方ないのだ。そう!仕方ないのだ!!」
「え?あ?はい?」
反論、異論は許可されなさそうである。そして、ようやく騎士はケイが革鎧と剣を装備している事に気付いた。
「それよりも少年は戦えるのか?」
「いえ。あくまで護身用です。」
「少し見てやろう。振ってみろ。」
この少年が戦えるようなら生存率が上がる。カノンにはそんな淡い期待もあった。勿論礼として多少なりと指導してやろうという思いもあった。
少年が剣を抜き、振るう。カノン・ビールは思わず息をのんだ。想像以上であった。想像以上にダメであった。
高い重心、波打つ剣筋。護身どころか訓練で怪我をしそうである。
「まぁ、その、なんだ。厳しい鍛練を積めばそれなりの剣士にはなれるだろう。優れた指導者と長い年月が掛かるだろうが。」
精一杯の思いやりを込めてやる。才能は欠片も感じられなかったとは言えない。
「マナー違反ではあるが体力と筋力を聞いてもいいか?いや、本来は言う必要はないのだ。言いたくないなら言わなくても良いのだ。」
「えっと、10です。どっちも10です。」
「じ、じゅう?え?」
女騎士カノンは少年の哀れさに涙した。