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目覚めると木々に囲まれた場所であった。寝ている場所は岩の上である。
「あれ?俺、まだ寝ぼけてる?これ、夢?」
寝直そうとするが背中に当たる岩は硬い。その感触が意識を引き戻していく。
「誘拐?いや、どっかに捨てられたのか?俺?」
こんな所にいる意味がわからない。いや、こんな所と言いながら、ここがどこかもわからない。
「落ち着け、こんな時こそ落ち着くんだ。名前は?ケイ。そう、ケイだ。あれ?俺の名前って別にあったよな?ん?ん?」
自分の名前はケイなのに、何故か別の名前があった気がするのだ。
「完全にパニくってるなぁ。俺は大学も出た立派な成人だ。落ち着け。16にもなって・・・。」
おかしい。大学を卒業したなら20歳を超えているはずだ。だが自分は16歳なのだ。16歳である事は間違いないのだ。
「わからん!わからん!!」
悩んでいるケイだが答えは見つからない。
ガチャガチャガチャ
激しい物音がして何者かが転がり込んできた。
それは金属の鎧に身を固めた騎士であった。
「へ?」
思わぬ光景に唖然とする。
「コスプレ?」
理解が追い付いてくれない。
騎士は肩で息をし、へたりこんでいる。岩の上のケイに気付いた様子等ない。関わらない方がいい。そう判断したケイは後退りする。
ガラッ
ケイがたてた物音に騎士が気付き、剣を抜く。
「何者だ!!」
それは意外にも若い女性の声であった。
「あ、あ、怪しい者じゃないです!」
両手を振りながら必死に声を発する。
「ん?現地民か・・・。安心しろ。私はヒノモト支援に来た『神聖任務青年隊』第37騎士団正騎士、カノン・ビールだ。魔物や敵ではない。」
そう言う騎士の後ろに透き通った液体の人間がいた。いや、目があるべきところに瞳はない。人の形をした液体状の何かがいた。
「うしろ・・・。」
ケイはそれだけの声を出すのがやっとであった。
それに気付いた騎士が振り返り剣を振るう。
「くそっ!!水魔に追い付かれたか!!」
眼下で戦闘が繰り広げられるが、どちらが優勢かは素人のケイにもわかる。騎士が負ける。敵は3体。しかし騎士の疲労は明らかである。振るう剣やふらつく足に力はない。
「逃げるぞ!」
思わず叫んだケイに水魔が気付き、水魔の動きが少しだけ止まる。騎士はチャンスとばかりに剣を振りかぶろうとした。
「走れ!逃げろ!」
騎士はバカだと思った。その瞬間ケイは岩を飛び降り、騎士の手を取って走り出していた。考えての行動ではない。ケイ自身も何故こんな行動に出たかはわからない。それでも走り続けたのだった。