買い物
駅を出て約十分。歩いた先に北海道ドームがある。
ビルなど高い建物がある中、ここに自分はいると存在を主張するようにドームの屋根がそれらの上に見える。
そこに向かおうとするも、今日は土曜で二時からのデイゲーム。そしてただ今の時刻は十二時少し前。人が混むのも当然で、進む速度も緩やかだ。
「亮太さん。ちょっとショップに寄って大丈夫ですか?」
「あっ、別に良いですよ」
そんな中言われた彼女の頼み。別に断る理由も無い為向かうことになる。
横断歩道のある交差点前、流れが分かれ始めた分岐点。その分岐したルートの先にウォリアーズ関連のグッズが販売されているショップがある。
俺も何度か行ってグッズを買っているけど、また何か新しい物でも買うかな。
その店に入ると、やっぱり興奮してしまう。森山コンビや沢田のタオルやキーホルダーなんかもある。
あそこの二人もそうだけど、若くて女性受けのする顔をした荒川や田島ら若手軍団のグッズも売れ行き好調のようだ。
「そういえば何か欲しいものがあったんですか、優衣さん?」
グッズから隣の優衣さんへと視線を移すと、優衣さんは目を輝かせていた。……訳はある筈ないけど、そのぐらい悦楽の表情でグッズを一通り眺めていた。
俺と同じでこの好きな選手のアイテムが数多く備えられているこの空間にいられることが余程嬉しいのだろう。
「田島のグッズも良いですし、フィードのグッズも捨て難い! あー、藤谷も良いですねー。あっ、タオルもある! これも欲しいですね」
おおっ、凄い興奮っぷりだな。
選手や店員もこれを見たら喜ぶだろうし、一緒にいる俺も嬉しくなってくる。その光景を微笑ましく眺めている。
と共に、選手のイラストが書いてあるバスタオルを眺める彼女を見て若干変なことを考えてしまう。あのタオルで、彼女は風呂上がりの自分の体を拭くのか……。そっ、それは色々と良い! じゃなくて、良いのか!
「うーん……よし! これとこれとこれ、買います!」
そんな俺が悶々としている中、彼女もどうやら悩みながらも決断したらしい。
見ると、田島の顔はなし、名前だけ入ったロゴバスタオルと田島の背番号が刻まれたリストバンド、それからウォリアーズの名前とバットのイラストの入った青いスティックイヤホンを手に持っていた。まあ、タオルに関してはそれなら問題ないな、うん。
しかし、前に彼女と話した時に、ウォリアーズの中で特に好きな選手は田島、次点で藤谷と言っていたけど、その言葉通りの選択だな。
「じゃあ、俺はこれにするかな」
俺も同じスティックメガホンと、森崎のリストバンドと山中の名前がローマ字表記で描かれたフェイスタオルを選んで手に持った。
これなら実用的だし、勝って損はない。
「それと結衣さん、貸してください」
「えっ、あっ、はい。って、えっ、あのちょっと――」
彼女の言葉を遮るように大丈夫ですと答えてから、そのまま彼女の持っていたグッズを全て受け取ってレジに向かった。
会計すること、七千円ちょい。安くはない出費だ。
「はい、これ、優衣さんの分です」
戻って彼女の分を取り分けて渡すと、彼女は慌てた様子でそれを受け取った。
「あの、すいません。買ってもらっちゃって。お金払います。いくらでしたか?」
「いえ、良いんですよ。俺の頼みで今日は付き合ってもらったんですから、グッズぐらい払わせてください」
「そんな。グッズぐらいって、チケットだって亮太さんに買ってもらった訳ですし、さすがに申し訳ないですよ……」
そう、チケットも合わせてかなりの痛手だ。
それでもせっかく彼女に来て貰って、払わせる訳にもいかないだろう。
ただノリと高まった気持ちで買っちゃったけど、俺はグッズ抑えとけば良かったかな……。
そんな内心にある若干の後悔を彼女に見せる訳にはいかない為、あくまで顔を綻ばせて彼女に向ける。
「気にしないでください。ただその代わり、今日はウォリアーズが勝てるように、一緒にそのグッズを使って精一杯応援してください」
「分かりました。本当にありがとうございます、亮太さん!」
ペコリと深いお辞儀をされた。
そして上げた顔は、とても可憐な笑顔をしていた。
あー、まあ痛い出費はこれへの投資と考えれば、全く高くなかったかもしれない。見れて良かったと思う。
「それに付き合って頂いてありがとうございました」
「僕も楽しめたから良かったですよ。では、ドームに向かいますか」
「はい」
そうして再び歩き出した。