俺たちの夏休みはまだ始まったばかりだ
部室棟の屋上。
天気は快晴。
じっとしていても汗ばむ気温。
俺たちはサッカー部のマツクニの部活が終わるのを待っていた。
視界にはサッカー部が練習ををしているグラウンド。
「あー、マツクニ、早く部活おわんねーかなぁ」
俺はボソリとつぶやく。
「まだっしょ、放課後、始まったばっかだよ。今日は終業式で、終わるのもはやかったじゃない」
クラスメートのシラセが言う。
「知ってるよ、そんなこと」
「アキヒロはせっかちだなぁ」
こいつもクラスメートのハヤミン。太っているので、汗をだらだらかいている。
「やっぱ俺たちも、なんか部活やっとくべきだったかなぁ」
「アキヒロはなんかやってみたい部活あるの?」
シラセが尋ねる。
「ゲーセン部。学校が終わった後ゲーセンに行ってゲームをする」
「そんな部活、許可下りないよ」
「わかってるよ。だから、俺が入るに足る部活はこの学校にはないってハナシ」
「どこの学校にもないと思うけど」
シラセはいつも正論を言う。つまらんやつだ。
「あー、喉乾いたなー。今日暑いわマジで」
「ドクターペッパーあるよ! 」
ハヤミンがおもむろにドクターペッパーをカバンから出す。
「そんなまずい液体飲むかよ」
「おいしいのに」
ハヤミンは缶を開けて、一人で飲み始めた。
「ってかハヤミン、いまカバンからドクペ出さなかった? いつも持ってんの? 」
「もちろん! おいしいもん! 」
「そんなのばっか飲んでるから太るんだよ。女の子にモテねぇぞ」
「アキヒロだって彼女できたことないくせに」
「俺は本気だしてないだけだっつーの! 」
「彼女ほしいね……」
「ああ……」
グラウンドに目を落とすと、サッカー部が休憩に入るところだった。
「あーなぎささんと付き合いてーなぁ」
なぎささんというのはサッカー部のマネージャーだ。
色白で、さらさらの長い黒髪。
同世代にしては大人っぽい顔立ちをしているが、ふとした瞬間に見せる笑顔には可愛げもある。
積極的な方ではなく、どちらかと言えば大人しいタイプだが、男子からの人気は高い。
ちょうど、マツクニに笑顔でタオルと飲み物を渡している姿が見えた。
「サッカー部入れば、仲良くなれたかなぁ、マツクニみたいに」
「無理でしょ、マツクニ、イケメンだもん。気が利くし」
シラセは正論しか言わない。
「そうだなぁ」
俺にはそう返すことしかできなかった。
高嶺の花のなぎささんの話や、成績下位の俺たちの夏休みの補習の話。
そんなくだらない話をしていたら、いつの間にか時間が過ぎた。
「あ、そろそろ部活終わるみたいだよ」
シラセに言われ、グラウンドを見ると、みんなが部室棟に引き上げてくるところだった。
「部室まで迎えに行くか」
俺たちは屋上を後にした。
薄暗い部室棟、俺らがサッカー部の前に行くと、着替え終わったマツクニがなぎささんと二人きりで何か話している。
「あっ、マツクn」
「おいバカ」
話しかけようとしたシラセを俺が止める。三人で角に隠れる。
「どう見たって告白だろこれは! 」
俺は二人に小声で言う。
「「えっ」」
気づいていなかったのか。これだから童貞は。まぁ、俺もだが。
「おい! 三人とも、出てこいよ! 」
マツクニが俺たちに気が付いたみたいだ。
そろそろと俺たちは出ていく。
「話は終わったのか? 」
「ああ、まぁな」
「マツクニ、なぎささんと付き合うの? 」
シラセが尋ねる。こいつは直球しか投げられないのか。
「え、いや、おれじゃないよwなぁなぎさ」
なぎささんは赤くなってうつむいている。かわいい。
え、でも、マツクニじゃないということはつまり……?
色白清楚で美しい黒髪、長い睫、美しさとかわいさを兼ね備えたなぎささん……。
その彼女が、俺の恋人に……?
初デートは映画館いってクレープ屋で間違いないだろうか。
それとも得意のゲーセンでかっこいいところを見せるのがいいか。
そしてデート終わりには人がいない公園で……。
さまざまなことが脳裏を駆け巡る。
「帰るぞ、アキヒロ、シラセ! 」
「ふふぁっ? 」
変な声でた。シラセはともかく、アキヒロって俺じゃん。ってことはまさか……?
「うまくやれよ、なぎさ」
ハヤミンはひたすらボーっとしている。そして暑そうだ。
しかし、なぎささんの顔は真っ赤になっている。
……。
…………。
なぎささんのタイプ、そこかよ!
俺もドクターペッパー飲むか……。