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小悪魔

郵便受けを開けて驚いたのは、その小包の差出人の名が、何年も前のクラスメイトだったからだ。みずきは優しく優柔不断で破天荒な少女だった。卒業してからほとんど連絡もとらず、今何をしているのか全く分からないような彼女から届いたのは、当時高校生だった私が貸した本だった。


封を開けて、中から『小悪魔ガール』が出てきたのには思わず吹いてしまった。内容はたしか、狙った男は必ず落とすという計算高い女の半生だった。ああ、そうだと、思い出す。たしか当時、年上の社会人彼氏がいた私にみずきは恋愛の相談をしてきていて、そんな彼女にこの本からテクニックを盗み実践しろと渡したのだった。その頃みずきは塾の先生に恋をしていて、だけどどう見ても振り回されて相手にされていないような感じだった。そして結局その人とはうまくいかず、そのまま私たちはバラバラに大学へと進学してしまった。

あれから彼女はこの本をどうしていただろうか。私は当時の彼とあれから6年付き合って別れてしまったし、別に幾多の男を惑わす悪女にもならなかった。だけど彼女は変わっただろうか。振り回される女から振り回す側へと。どうしてだろう。最近ずっと胸は痛いのに、夜の眠りも浅いのに、この暖かい気持ちはなんだろう。










引っ越しの準備をしていて、懐かしい本に出会った。小悪魔ガールは、昔クラス1の美少女が貸してくれた恋愛小説だった。私は恋も勉強もうまくいっていなかった当時、たぶん自暴自棄だった。だけど憧れだった彼女は、ことあるごとに私の背中を何度も押してくれた。

本はずっと持っていて、私は進学を期に大学デビューをした。憧れだった彼女と小説の主人公を意識して、自分の外見や振る舞いを一変させてなりきった。自分をつぶすように思えたけれど、まわりの反応や態度がするすると優しく甘いものに変わっていくのが面白かった。

大学を出て就職をし、合コンやパーティーに足しげく通った私は、今の彼氏と出逢い今月結婚することになった。


いまさらこんな昔の本を返しても、と思っていた矢先、憧れだった彼女が医師国家試験に落ちたことを噂で知った。あの、彼女がと思った。あの完璧な私の理想だった彼女が。

そして唐突にこの本を返そうと思った。私の全てだった憧れのあなたに。経験したことのない挫折に、どうか溺れてしまわないで。あなたが救ってくれた私は、こんなにも幸せになれたのだからあなたがなれないはずはない。思い過ごしだったらいい、でももしそうなら、どうか。

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