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11月27日の悪夢

 11月27日、私は奇妙な夢を見た。やけにはっきりとした夢だった。

 

 自宅からほど近い仏教系の大学で、毎年恒例の肝試し大会が行われるらしかった。ちょうど中学時代の友人と偶然再会していた私は、その友達と一緒に肝試し大会に参加する事にした。

 会場に着くと、黒い洋服を着た背の高い男が立っていた。どうやらこの男は係員のようで、私達に向かってこう言った。

「お荷物をお預かりします」

「いえ、大丈夫です。このままで」

 私は言った。だが係員はそれを許さなかった。

「いいえ、いけません。お荷物はすべてこちらに預けて行ってください。規則ですから。盗まれてからでは遅すぎます」

 仕方なく私たちは手荷物を係員らしき男に預けると、先に進んだ。

 

 肝試しのコースはかなり広いらしく、道のいたるところに妖怪のような、幽霊のような、なんだかよくわからない何かがうごめいていた。はじめは人間が仮装しているものかとばかり思っていた。しかし、どうも彼らは本物らしかった。なぜなら、それは私と友人以外の目には見えていなかったからだ。友人が言った。

「イブキ、私聞いたことある。ここの肝試しでは、毎年何かしら良くないことが起きるって……」

 私はだんだん怖くなってきた。そして友人を恨んだ。どうしてそんな恐ろしい子とを今まで黙っていたのかと。


 それから先のことはよく覚えていない。単に私が忘れてしまったのか、それとも夢の場面が切り替わってしまったのかわからないが、気が付くと私は車の中にいた。運転席と後部座席には知らない男が乗っていた。友人は消えていた。

 ぼやけた顔をした二人の男は、何やらぶつぶつ言っていた。

「まずいよ。俺たち逃げられるかな」

「あんなところに戻るのはゴメンだ」

 私は二人に話しかけた。

「何をしているの?」

 男の一人が答えた。

「何を言ってる。あの大学から逃げてきたじゃないか! あれは危ないぞ。カルトだ! ほんとうに危険な宗教団体なんだ! だから逃げるんだ」

 どうやら先ほどの夢は続いているようだった。

「うわあ、逃げられるはずないんだ! 俺たち必ず捕まって殺されるか、人生を滅茶苦茶にされるんだあ!」

 もう一人の男も後ろから叫んだ。

「だったら簡単だ。みんなで死んじまおう!」

 運転席の男はいきなりそう叫んだかと思うと、アクセルを思い切り踏み込んだ。ガクッと体が座席にぶつかった。

 前方には急カーブ。そして『事故多発』の錆びれた看板。まるで死者に手招きされるように、一直線に車はそこへ吸い込まれていく。

 限界までスピードを出しているはずなのに、やけにゆっくりと時間が流れていた。私はやけに冷静だった。この変にのろまな時間の流れを利用しよう考えた。

「私、まだ死にたくない。お願いだからやめて。そこまでする必要ないでしょ」

 私は彼らを説得した。

「おい、やめろよ!」

 最後に私がそう叫ぶと、男は諦めたらしく、ブレーキをかけた。そして車をUターンさせるとこう言った。

「……仕方ない。君を家まで送ろう」

 男は何故か私の家を知っているらしく、私が案内をしなくともきちんと家の前で車を止めてくれた。少々気持ちが悪い。

 私が車から降りようとした時、後ろに座っていた男が言った。

「まあ、あんなイベントに参加した俺達にも責任があるよなあ。ここからは個人で好き勝手に逃げるとするか」

 男は私と一緒に車から降りたかと思うと、一目散に駅がある方角へ向かって走っていった。


 その後家に帰った私は、会場で係員に言われたことを思い出した。


「いいえ、いけません。お荷物はすべてこちらに預けて行ってください。規則ですから。盗まれてからでは遅すぎます」


 私は自分の両手を見た。不幸なことに、私は手ぶらだったのだ!

 係員に預けたバッグの中にはポイントカードと学生証が入った財布と、スマートフォンが入っていた。それを置いてきてしまったのだ。正に今、私の個人情報は彼らの手の中にあるのだ。

「どうしよう!」

 私は母親にこの事を話そうと思った。しかし、母は全く私の話を聞こうとしない。父や兄にもこの話をしようとしたが、誰ひとりまともに取り合ってくれない。私はだんだんイライラしてきた。

「おい! 私の話を聞け!」

 我慢できなくなって、私は野太い声で思い切り叫んだ。

 その瞬間、目が覚めた。

 私は自分の部屋の布団にうつ伏せになるようにして横たわっており、外では大風がごうごうと吹き荒れていた。不思議と体のいたるところが痛かった。

私はほっと胸を撫で下ろし、念のためにバッグの存在を確認すると、もう一度眠りについた。

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