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海のある町

 海がとても好きである。

 いや、正確には海のある町が好きだ。海辺の町には特別な魅力がある。海辺の町は空気が違う。ごちゃごちゃした都会や住宅街とは、まるで別世界だ。潮風で所々錆びた鉄橋、何のためにあるのかよくわからない、白いコンクリートでできた小さなトンネル、砂に埋もれ、最早その役目を果たしていない階段、玄関先に飾られた魚拓、気ままにうろつく野良猫、波のうねる音、潮の匂い、旋回する鳶、船の警笛、鴎の声。

 これらはそこに有るべくして有るものたちである。


 散歩をするなら、午後より午前の方がいい。対岸が霞み始める前なら、くっきりと向こう側が見えている。冬場は特に良い。裾の方まで白く染まった富士山が、悠然と海に浸かっているようだ。昼時に行けば尚良い。海岸にはほとんど人がいないのだ。おそらく皆、昼食を取っているのだろう。民家の間を歩けば、昼飯の匂いが漂ってくる。窓や玄関は無用心に開け放たれており、人々の生活の様子が垣間見える。

 太陽は真上にあり、海全体を透き通らせ、冷たい空気はより一層それを際立たせている。歩く背中は温かく、指先は少し悴んで冷たい。寒くもなければ暑くもない。


 正直、海には大した思い出などない。海自体もここ二〇年、大した変化はない。それなのにあの懐かしさは一体どこからやって来るのか。未だによくわからない。

 よくわからないが、何か良い。


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