初めての団体戦
ぬう、日刊に間に合いませんでした。残念。
「ユキトじゃない。しばらく居なかったから心配したわよ」
レッドクリフの街の冒険者ギルドに入った俺はレイラに開口一番そう言われた。
「心配かけてごめんなさい。武器の補充をしてたんです」
「補充?買うんじゃないの?」
「いえ、俺は武器職人でして、戦うより作るのが主だったんです」
「そうだったの。その珍しい槍も君の自作?」
「ええ、設計図は別の人が作ったんですけど、こいつは一から作りました」
実際はプレス機による冷間鍛造だけど。
「へぇ、器用なもんじゃない。それなら今度あたしの剣の調子でも見てもらおうかしら」
「初めて出来た友達ですし、初回はタダにしときます」
「あら、嬉しいわね」
刃物も一応見れるから問題はない。刀の砥ぎなどは流石に専門家に任せないといけないが。
「それはそれとして、今日は何か予定はあるかしら?」
「いえ、依頼を見てから決めようと思っていました」
「それだったら臨時パーティでも組もうよ」
「臨時パーティ?」
こう、命を預けると言うのはもうちょっと信頼を置けるメンバー同士だと思うんだけど。
「君パーティ組んだこと無いでしょ?一人で他の子たちと組ませるにもあたしちょっと心配だし、いずれは君もパーティを組む事になるわ。だからあたしがリードしてあげる」
「戦うのは格下とか?」
「ええ、最初は様子見しないと動きが分からないでしょう」
そう言う事ならいいか。レイラには多少なりとも世話になっているし、他の他人よりは信用できる。まあ、いざとなれば・・・・・・ね。
「分かりました。それではよろしくお願いします」
「ドラゴンに乗ったつもりでいなさい!」
レイラはブレストアーマー越しにその胸を叩いた。胸甲越しでなければいい眺めだっただろう。
それからレイラは掲示板に「臨時2名募集 剣1槍1 ハウンドドッグでまずは様子見から リーダー Cランク レイラ」と貼り出していた。そんな単純でいいんだろうか?念のため下級ポーションを1ダース買ってゲートにしまっておこう。中級はレイラと俺の2本でいいだろう。優先順位は大事だ。
「レイラ、ハウンドドッグって?」
「大仰な名前が付いてるけど、ようは群れからはぐれたか追い出された野犬よ。でも舐めてかかると傷口が化膿して病気になったりするんだから。ある意味ゴブリンより厄介なの」
「ゴブリンは太めの木の枝か、良くて拾った刃物ですからね」
野犬はまずい。牙がケブラー貫通することもあるからな。
「でも、ある程度連携を取れれば致命傷を避けられる相手よ。きちんと防具を着て、首を守っていれば他の仲間が仕留めてくるれるもの」
「そういうものですか」
「そういうものよ」
俺とレイラが話していると、掲示板を見たのか二人組がやって来た。
「ちわっすレイラさん。掲示板見ました。俺とフレディなんですけど、どうですか?」
「よう」
革のローブを着た細身の男と、傷だらけだがそれが風格に見える筋肉質な男だ。
「あら、ビリーにフレデリックじゃない。あなた達ならもちろん歓迎よ。ユキト、この子たちは信頼出来るわ」
「こんにちは、雪人と言います。ビリーさんとフレデリックさんですか?俺は遠距離攻撃も出来る槍を使います」
「俺はビリー。Dランクの魔導士だ。ヒーリングも齧っているから怪我しても心配しなくていいぜ」
「フレデリックだ。フレディでいい。壁をやっている。隙があれば叩き潰すがな」
「あー、わりぃ、フレディはちと不器用でな。攻撃も出来る盾役って所だ。よろしくな、嬢ちゃん」
「いえ、俺は男です」
「マジで?」
ビリーが驚愕する。いい加減慣れた。
「はい」
「マジよ」
「どっちでもいい」
フレデリックはめんど臭げだ。
「済まねえ、あんまりにも綺麗な黒髪だからよ。つい間違えちまった」
「いえ、構いません。下ろしましょうか?」
「そのままにしておいてくれ。下ろしたほうが余計ややこしそうだ」
「分かりました」
「話はまとまったかしら?これ以上お客さんが来ないうちに募集は取り消してくるから、ちょっと待っててね」
「はい」
確かにこのままにしておくと募集以上の面子が来てしまうな。
「レイラさんが募集を取り消し終えたら連携を考えようか。フレディは盾役の癖に盾を持たなくてな。代わりにそのごついガントレットで防御する。後は掴んだり、そのままぶん殴ったり、剣で斬りつけたりだな」
「るせえ。ぐだぐだやるのがめんどくせえだけだ」
「なら、フレディさんが掴んだ敵に追撃を加えるか、別の敵に牽制を入れますね。可能ならば仕留めます」
「お前さんまだFだろ?味方に当てない範囲ならまずは動いてみればいいさ」
ビリーはあんまり気負うなと言外に言っていた。初心者相手にはそんなもんか。
「ま、とりあえずはお互い動きを見てからだな」
「ただいまー」
レイラが戻ってきた。
「お帰りっすレイラさん。ユキ坊が離れた敵に牽制してくれるって言うからレイラさんはフレディの相手に追撃たのんます」
「そうね。ユキトはそれでいい?」
「ええ」
「フレデリックも?」
「構わねえ」
「そう。なら、それで行きましょう。ビリーはバックアップお願い。今回はユキトの経験を積ませる目的だから、出来るだけ手を出さないで楽してて良いわ」
「分かりました。なら見物させてもらいましょうか」
こうして臨時パーティが決定した。
そして郊外の森近く。レイラが先頭で偵察。俺とビリーを挟んでフレデリックが後ろを警戒していた。今回俺はショットガンに鳥撃ち用散弾を装填し、遠くの敵の牽制と銃剣で突いてからの接射を想定。味方が近いと危ないため、その場合でも撃つならリボルバーを使う。ちなみに俺の使うショットガンは通称トレンチガン。ウインチェスターM1912に肉厚な、やや短い銃剣を装備したもので、リボルバーはコルトアナコンダだ。
しかしじれったいな。ちょっと試してみるか。
「ちょっと試したい魔法があります。いいですか?」
「ん?何かするの?」
「こう言う新人の思いつきは馬鹿に出来ないからな。試してくれ」
「やれ」
賛成者多数なのでやってみることにした。
「ソナー、セレクト、ハウンドドッグ」
うお、結構ぐらっと来る。
「面白い使い方をするな」
「ええ、興味深いわね」
「ふん」
結構な魔力を使った甲斐があり、反応があった。
「あっちです」
「分かったわ。でもゆっくり行きましょう。君、鍛えてない人の倍近くは魔力使ってるわよ」
「ああ、俺の半分以上だ。俺は魔法が主だからな。そんな使い方してたらフレディに全部任せるハメになっちまう」
「手っ取り早いのは嫌いじゃねえぜ」
そんなに使ってたのか。魔力が使えるようになっただけじゃなくて、その方面でも伸ばされてた?そう考えると納得が行くな。
「じゃ、交代よ。フレデリック、お願い」
「任せろ」
そこからは防御力が一番高いフレデリックが先頭に立ち、レイラが後方を警戒する陣形を取った。
「居たぞ」
フレデリックの指した先にはよだれをだらだら垂らす狂犬が居た。ありゃどっちかと言うとマッドドッグって感じじゃないか?
俺達はハウンドドッグに悟られないため、ぐるっと迂回して風下から近づいた。
「俺が突っ込む。ビリーは警戒、ユキト、お前が仕留めろ。レイラは仕留めそこなった時に動け」
全員が無言で頷く。準備完了だ。
「行くぞ」
短い掛け声と共に駆けて行くフレデリック。剣を逆手に構えて全力疾走だ。
「おおお!」
身構えるハウンドドッグ。だが、その時点でフレデリックは駆け寄って逆手に構えた剣を薙ごうとしていた。
「らあ!」
間一髪ハウンドドッグが後ろに跳び退る。だがその距離はフレデリックから十分離れている。
フレデリックが疾走している段階で装填を終えているショットガン。俺はハウンドドッグに向けて発砲した。
「ギャウン!」
ドォン!と言う音と共に鳥撃ち用散弾を頭を中心に被弾するハウンドドッグ。勝ったな。
「なんだそりゃ」
「分からないわよ」
ビリーとレイラは呆気に取られている。
「やるじゃねえか」
唯一フレデリックだけはヒュウと口笛を吹き、上機嫌に言った。
一応警戒は解かず、顔面に鉛玉の雨を喰らった狂犬に近寄る。
一応生きてはいるものの、こうなっては死ぬよりむごい状態だ。俺はリボルバーを抜き、脳天に慈悲の一撃をくれてやった。
「ユキト、すごいじゃない!」
「それほどでもありません」
「謙遜するなよ。魔力を感じなかったが、どんなからくりだ?」
「これが俺の作る武器の力です。実はこれ、槍ではなく銃と言います」
「ジュウってすごいのね」
「ええ、ですがこれは引き金を引けば子供でも大男を殺せます。なので売りに出すつもりはありません」
「そうか、少し残念に思うが、ユキ坊がそう言うならそうなんだろうよ」
「でも、これならもうちょっと上を狙えそうね。そうだ、コボルトの巣なんてどう?」
いきなり巣とかちょっとシャレにならんと思う。
「いえ、これも無制限に撃てるわけではありませんから、あまり大規模なのはちょっと・・・・・・」
「大丈夫よ。巣と言っても最近出来たばかりだもの。廃坑を根城にしているらしいわ。報告によるとまだ大きくなっていないって言ってたわ」
それならせめて武器を変える必要があるな。
「分かりました。では、一旦帰って準備しますので一度ギルドに報告に戻りましょう」
「そうね。コボルト討伐の依頼も受けないと損だし、戻りましょうか」
次の方針が決定した。今日のところは一度帰ろう。
「では、街へ戻りましょう」
フレデリックがハウンドドッグの討伐証である尻尾を切り取り、レッドクリフの街へ戻るのであった。
主人公の特性が判明。魔力増強でした。