容姿が良いというのがメリットだけとは限らない
今回は何故か難産でした。やっぱり不定期の方が楽です。
俺とレイラは飯屋に来た。
飯屋で鳥肉の丸焼きを見たとき、歳のせいかあんまり脂っこいものを食べてなかったと思い、レイラと二人でそれを食べた。久しぶりに食べるまともな肉料理は絶品だったと言える。
後は魔術ギルド、錬金術ギルドに寄る予定だったので近いほうから案内してもらった。
「こっちが魔術ギルドだよ。鳥ご馳走さん。またね」
そう言ってレイラは冒険者ギルドの方へ向かっていった。魔術ギルドには特に用事は無いし、依頼を受ける予定だったが面白そうな一件を見つけたので、つい首を突っ込みたくなって俺にちょっかいを出したとか。
レイラの都合はいいとして、魔術ギルドだ。さっき複製の衝撃で聞きそびれたことと、俺にも魔法とか使えるか聞いてみよう。
早速ギルド内に入って見たものの、こちらは特に視線が集まることは無い。いや、あるにはあるが、一瞥したらすぐさま元の行動を取る。
俺は受付と思わしきカウンターへ向かい、尋ねることにした。
「すみません、転移者について聞きたいことがあるのですが」
「ん?ああ、その格好は巻き込まれたね。いいよ。何が聞きたい?」
こっちはおばちゃんが対応してくれた。
「転移したときの効果についてです。全盛期になる効果、転移するものは無作為、本人の複製、他にはどのような効果がありますか?」
「そうさね。魔術ギルドじゃ常識だから部屋変えなくてもいいか。後は、複製召喚したものが人型や生物なら魔法が使えるようにしてくれるんだよ。ここは魔術ギルドって呼ばれているけど大雑把なくくりでね。魔法もその一部だからあんまり深く気にしなくていいよ。おっと、話が逸れちまったね。後は、本人を少し丈夫にとか、戦いになっても焦らないようにとか、ちょっとした資質の向上があるらしいね。こっちは最初安定してなかった分当たり外れが大きかったって言うけど、術式を組み込んでからは初陣でも取り乱すことは無くなったって聞くよ。これを「第二世代勇者」って呼んでたらしいよ」
「言語が違うのに読めるのは?」
「それも複製の術式の一部さね。当時「第一世代勇者」は言語が通じなくて専用の魔法を使っていたとか。不便に思った国のお偉いさんが何とかしてくれって宮廷魔導士に頼んでギルド主導でこの術式が組み込まれたんだ」
「勇者制度は今どうなってるんですか?」
「それが魔族の国との戦争も終わって、今度は人同士の戦争に使われだしてね。それで神様の怒りでも買ったのか、遺跡が暴走しちまったんだよ。それから不可侵協定が結ばれて、転移者の希望に沿った行動を心がけるようになったってさ。つまり、国から仕事貰って暮らすも、自力で生きていくのも自由ってこった」
「そうだったんですか、ありがとうございます。ところで、魔法初心者なのですが、登録とか出来ますか?出来なかったら教本だけでも買っていこうかなって思っているんですけど」
「ここは相互補助の組合みたいなもんだから大丈夫だよ。冒険者ギルドでもやってるけど、こっちは特に専門的な手伝いやモノ集めをしたりするんだよ。教本もその活動の一環だから、ギルド登録してくれたら生活補助に使える程度の初級本が銀貨1枚で済むけど、登録するかい?」
「何か必要に駆られて駆り出されたりとかは?」
「ないない。仕事で人数募集したりもするけど、それにも何が出来ますよって言う条件が含まれるからね。強制的な依頼とかは無いね」
「では、一応免責事項を読ませてください」
「あいよ」
それで免責事項を読んでみたが、特に問題は無かったので登録して教本を買った。ついでに識別魔法と言う題材のも買ってみた。これまでギルドで登録されたものが識別されて明記されるらしい。いよいよ資金がきつくなってきたな。延べ棒を換金しなければ。
錬金術ギルドは単純に大きかった冒険者ギルドや、塔が建っていた魔術ギルドよりこじんまりとして、見た目は特に目立った点は無かった。
本日三度目のギルド訪問だが、もう慣れた。その視線を掻い潜って、受付に行く。
「すいません、ギルドの登録と、欲しい品物があるのですが」
「はい、登録ですね。少々お待ちください」
こっちは落ち着いた感じの男性だ。モノクルをしている。
「こちらをご確認ください。よろしければこちらにサインを」
「はい」
特に問題も無かったのでサインした。
「それでは販売店は向かって右になりますので、そちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
ここはギルドの中でも一番短かったな。
「すいません、グリセリンと、ワセリン、後綿ありますか?それとこちらで金の換金は出来ますか?」
「グリセリンはあるけどワセリンはちょっと分からないな。綿は実験用がこっちにあるよ。金の換金もやっているけど、あんまり商談に詳しくないならうちの方がいいか」
「では、ワセリンの代わりに黒い燃える水をください。石油って言うんですけど」
「それならあるよ。燃やすと臭いしあんまり人気が無いから安くしとくよ」
「ありがとうございます」
炭化水素の化合か。面倒だな。パラフィンとシクロパラフィン、ナフテンがメインだから他はいいか、あんまり考えなくて。
そうして今日のところはおとなしく帰ることにした。明日からは軽く採取依頼で金を貯めながら、残っている野菜類を消費していこうかな。
日が落ちる前に帰り、翌日、俺はワセリン合成の為の組み立て作業をしていた。シェルターにはそんなものもある。ただしバイクが動けばいいと言う程度なのであまりの量は精製できない。
飽きたらちょっと作業場から離れ、魔法の教本を読む。マナを取り入れ消費するけど個人の魔力に限界があって、一日に放てる量にも限界があるのか。オドは別に消費しないらしい。それはあくまでマナを取り入れる限界値の目安であって、それも、例えば初級の発火なら30回。火の玉なら10回撃てる計算らしい。一般的な初心者はそれくらいだとか。でも、これでライター要らずだな。
教本を読み、へその下辺りから魔力を練る要領でイメージする。
「火よ、灯れ」
ボッと指先に火が灯る。これが魔法か。興味深いな。
発火の魔法は灯ったらすぐ消えるわけではなく、しばらく灯ったままだったので消えるイメージをして消す。火の玉は明確に分かるんだが、発火はどこから2カウントに入るのか分からない。今度魔術ギルドの人に聞いてみよう。最初だから消耗の具合がつかめないし。
ひとまず満足したら再び組み立て作業に戻り、完成させる。
ひとまず、ワセリンはこれでいい。まだ工程が残っているが、焦っても仕方が無い。それに錬金術ギルドには便利な魔法陣があって、精錬を簡略化出来るのだとか。あれは買うしかないな。背嚢の容量の関係から今回諦めたけど。
終わったら少し鑑定魔法の教本を読んで、試す。
「鑑定」
石油・・・・・・太古の微生物の化石。
そういうことか。これなら毒草か薬草かの判定も楽だな。
鑑定の仕様も分かったので、昼からは薬草採取でもやってみようかと思った。昨日より軽装でいいか。
冒険者ギルドで常時依頼のゴブリン駆除を受けているので、追加でマリアとか言う子から薬草採取を受ける。これらは基本的に無くならないので、後は受けたまま提出するだけでいいのだ。
レイラに薬草について教えてもらおうかと思ったが今日はいなかった。こういう日もあるさ。図鑑を借りて覚える。
形と特徴を覚えたら森ではなく郊外での採取を開始した。
しかし、腹に魔力を貯めて言霊に乗せればなんとかなるなら思いつきでもなんとかなりそうだな。やってみるか。
「サーチ、薬草」
ちょっとくらっと来たが、一気に表示される。俺はそれを表示が消えないうちにひょいひょいと掴んで根っこごと引き抜いていく。今回探しているのは葉っぱの裏が赤い通称「赤薬草」で、他にも白やら黄色やら普通の緑やら表示されるが、これも金になるので袋に放り込んでいく。納品は赤が5つでよかったはず。
程なくして、赤6つ、白3つ、黄色7つ、緑10と言った成果があった。エリアサーチ便利だな。
特に戦闘も無く、平和なものだ。街に戻ろう。
と、思っていた時期が僕にもありました。
「おい嬢ちゃん、装備と薬草置いてけよ」
「ついでに楽しませてやるぜ?」
あーめんどくさ。これって確か撃退もしくは死傷してもよかったんだったな。
俺は無言でリボルバーを抜き、警告も無く二人組の腹に44口径を撃ちこんだ。
タァーン!タァーン!と言う音とともに崩れ落ちる二人。確かこういう時証拠としてギルド証を持っていけばいいんだったな。
そのまま3分ほど警戒し、うめき声を上げ、動かないので警告した。
「そのままおとなしくギルド証を差し出せば見逃してやろう。嫌なら死んでもらう」
二人組はのろのろとギルド証を出し、俺はそれをひったくった。
「頼む、治療院に連れて行ってくれ・・・・・・」
「断る」
「この人でなし!」
「こっちの台詞だ馬鹿共」
初心者狩りをするお前らは人でなしじゃないというのか。どうせ他の奴等にもやったことがあるんだろう。そのまま朽ちていけばいい。
死体は野生の生き物が処理するだろう。それにここらの薬草は大体採った。次来るまでにはこの地の養分にでもなっているんだな。
そう思い、その場を後にした。
「すいません、初心者狩りに遭いました」
シフトが交代してたのか、受付がマリアと言う子からリースに変わっていた。
「大丈夫だったのですか?お怪我はありませんか?」
リースもどこか心配そうだ。
「いえ、大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。それより二人のギルド証です。前科があると思うので、洗ってみてください」
「分かりました。ご協力ありがとうございます」
「それでは、薬草を採ってきたので失礼します」
「はい、お疲れ様でした」
錬金術の魔法陣を買った後、余談だが、赤より白の薬草の方が圧倒的に高いらしくて、おかげでまた銀貨を貰ったのであった。
初心者狩りのチンピラは前に声をかけてきた奴とその仲間です。