美味い! これはあなたの大好きな○○だ!
気がついたら1週間はとっくに過ぎてました。びっくりの時間感覚。
『かんぱーい』
古城であまり期待してなかった魔石がたくさん手に入ったので、一度転移で全員街の外の風呂に入った後、冷えたワインを片手にBBQをしている。もちろん氷室から肉の塊を切り出し、全員分の厚切りステーキ付きだ。野菜は保存食の塩漬けや酢漬け、それに干したものなのでせめてデザートの果物は新鮮なものだ。加工出来るものはまとめてスープ用に寸胴鍋で煮込み中だったり。
「それにしても意外とあるところにあるもんだな。魔石式BBQセット」
そう、これはシャーロットがレッドクリフの街に溜め込んでいる品物の一つで、不揃いな魔石をまとめて数粒入れておくだけで後はスイッチ一つで火が点く品だ。古城からの帰りの「そう言えば」でシャーロットがこんなものがある事を思い出したので、急遽取りに行ったのだ。色々なところでこうやって魔石は使うので、供給過多になった分を売るんだが、たまたまとは言えモンスターハウスに遭遇してよかった。入り口からシャーロットが棍無しの一撃をぶち当てるだけで壊滅したからな。思い出してみてもやっぱりおかしい。棍がリミッターの役割ってだけでどれだけおかしいかの具合が出てくる。
「芋! 食べずには居られない!」
そのご本人は胡椒とマーガリンを着けた芋に夢中だ。普段眠そうな目をしてるけど自分の興味が向いたものにはテンションがおかしい。
「・・・・・・」
その横でリリウムがうずうずと肉が焼けるのを待っている。
「スープでも飲んで待ってなさい」
その様に苦笑を一つもらして、肉を多めにスープをよそってやる。
「ありがとうございます。お兄様。・・・・・・んっ、美味しい」
「だな」
出汁用の干し肉をかなり多めに入れたので濃厚に仕上がっている。今日くらいは肉尽くしでも良いだろう。
「フラン、つまみも食べなさい」
「・・・・・・ん」
胡乱な目つきでワインを飲み干すフラン。そんなに活躍出来なくてもいいじゃないか。普段から投げナイフなどで投擲技術が高いリリウムがフラッシュバンかフラググレネードを投げ込むか、シャーロットがまとめて一掃してしまうので撃ち漏らしを片付けることくらいしかしなかったのだ。タンク兼ヒーラーが役に立つ状況ってのがうちのパーティだと割りと切迫している状況なので多めに見て欲しい。
「フラン、なんなら俺の代わりにショットガンかグレネードランチャーを使ってみるか?」
「いいのか!?」
食いつきいいね。
「ああ、俺は代わりに大型の敵が出てきても大丈夫なように、もっと重いのにするから」
「分かった!」
正直モーゼルミリタリーとメタルイーターは使いどころに困ってたんだよ。.50AE弾は強力に見えるが、ft-lbs換算だとAK-47より低い。だがまあ、RPGに例えると属性が違う感じで50口径は衝撃、ボトルネック弾は貫通みたいに用途によって優劣を付ける必要を感じない。メタルイーターはある意味その両方を兼ねている50口径のボトルネック弾なので、かさばることを無視すれば・・・・・・いや、いっそ普通の狙撃銃のように考えるのはやめればいいのか。ミスリル製の鋼鉄よりも軽くて丈夫な銃身は手荒く扱っても歪むかどうかの実証実験も兼ねて、銃剣を取り付けるとか。昔ゲームで見た下にチェーンソーもいいかもしれない。いや、待て待て、チェーンソーはソレ用に作りなおさないと毛皮や服を巻き込んで下手したら一回斬っただけで絡まって動かなくなるかもしれないな。それにエンジンがかさばる。止めておこう。
「ユキト? おい、ユキト!」
「ああ、すまん。ちょっと考え事をしてた」
今は肉だな。考え事は後にしよう。
「これとこれ、あとその後ろのを頼む」
「毎度」
あれからネクロマンシーの有用性を思い知った俺は、ウィルキスの魔法具店でそれ系統の魔法書を買い漁っていた。
どちらかと言うと俺の場合は再生能力を持ったフレッシュゴーレムに近いとシャーロットが言っていたが、切断されてもくっつけるまでなら大丈夫らしいのでかなり強いと思った。それに昔の漫画で見た「ゾンビに銃火器持たせて行進させたら強くね?」ってのが頭をよぎったのだ。この場合銃火器を使用できるならスケルトンでも可。
早速買ってきた魔法書で勉強の時間だ。麦茶を片手に本を読む。しばらく休みと言う概念が無かったので、3日程自由時間にした。リリウムも残りたそうにしてたが、本を読むと拒否反応を起こす類がだったのでシャーロットとフランの買い物に付いて行って貰った。
2時間が経過。
「初歩から分かるネクロマンシー」で、とりあえず何個か試したい魔法を見繕ったので今日の昼飯の調理も兼ねて宿屋のキッチンを借りて実験だ。
「来たれ、死したる禿鷹よ」
ネクロマンシーに書かれていたボーンヴァルチャーの召還だ。水を張った寸胴鍋の中にこいつを召還した。
召還されたボーンヴァルチャーが窮屈そうに寸胴鍋に浸かっている。俺はこれに構わず火をかけた。
そう、スケルトン系が召還魔法でいけるなら、出汁ガラスープも手軽に出来るのでは、と言う発想だ。元々は昔やっていたゲームの中で、骨を蒸留水と煮込むとゼラチンを得ることが出来たところからヒントを得た。ちなみにその骨は人骨だろうがなんだろうが構わないと言う世紀末っぷりだった。ファンタジーRPGだったんだけどな。
俺はくつくつとボーンヴァルチャーを煮込む。ボーンヴァルチャーは俺の指示を待っておとなしくしている。それを宿屋の女将さんであるヘレンさんとクレアちゃんが奇異のまなざしでチラチラと覗くと言うなんとも言えない光景が広がっていた。
煮え湯に色が着いてきたところで味見をする。うん、鶏がらだ。いや、鶏じゃないので厳密には違うんだが、そこはどうでもいいか。
これに氷室から出した肉と、塩漬け野菜とジャガイモを食べやすい大きさに切り分けて鍋にぶち込む。
後はボーンヴァルチャーの周りに出てくるアクを取り除きながら、時折味見をしつつ様子を見る。
程よい濃さになったところでボーンヴァルチャーを送還し、これに市場で買ってきたヤギの乳を加える。簡単なシチューだ。
うん、出来上がり。昼ごろには戻るとパーティメンバーは言っていたので丁度いいな。
元々単品だと塩辛い野菜とボーンヴァルチャーの出汁が調和を保っている。
俺だけ早いが昼食にしてしまおう。ヘレンさんとクレアちゃんは食べるかな? いや、あの様子だと食べなさそうだな。ま、いいか。
器に盛って、いただきます。
ずるずるとシチューをすする。
美味い! もう一杯!
しかし肉も鳥肉に統一すべきだったかな。もうちょっとこれだったら美味く出来たな。
「ただいまー」
「ただいま戻りました」
「大漁だったな!」
「おや、おかえり!」
「おかえりなさい!」
ヘレンさんとクレアちゃんが帰ってきた三人娘を出迎えている。
「おかえりみんな。シチューが出来たから井戸で手を洗っておいで」
「美味しそうな匂いね」
「ああ、美味いぞ」
「お腹空いちゃいました。お姉様方、早く行きましょう」
「急かさずともシチューは逃げないぞ、リリウム」
どうだろうか。召還時間は過ぎたら味気ないスープになる可能性は無きにしも非ずだ。
ヘレンさんは何も見なかった事にして仕事に戻るらしい。クレアちゃんは怖いもの見たさで何も言わずに食堂に残っている。一応寸胴鍋も俺の私物だから宿から出ているのは薪くらいなのだが。
「ほんと良い匂いね。なんか野性味があるって言うか・・・・・・」
手を洗ってきたシャーロット達が戻ってきた。
「昨日肉多めだったから今日は野菜多めだぞ」
「ぇー」
「ダメですよシャーロット姉様。野菜は身体にいいんですよ」
「そうだぞ、健康はこういう積み重ねが大事なんだ、好き嫌いはダメだぞ」
「はーい」
各自わいのわいのしながらシチューをよそっている。
『いただきまーす』
さて、感想はどうかな?
「あら、野性味がある割に食べやすいわね」
「ああ、アクを念入りに取ったからな」
「これなら何杯でも食べられそうです」
「ああ、ワインが欲しくなるな」
なかなかの感想を貰った。
「おねえちゃん達」
「ん、なーに?」
「・・・・・・本当に食べちゃったの?」
「ん? なんか変なのでも入ってた?」
シャーロットが首をかしげる。
「んーん。なんでもない」
そう言ってクレアちゃんは引っ込んでいった。
SAN値0/1D6減少。




