ドワーフとファンタジー鉱物と銃
あらすじ:地球から異世界へ家ごと転移してきたユキトは何故か若返っていた。その事に驚愕しながらも、若返ったことを喜び、いつも通りに生きていこうと平常運行だった。が、しかし、ゴブリンとの遭遇により、疑惑だった異世界転移が確信へと繋がる。一応家ごと転移してきたものの、周りは森、そして畑は転移してきていなかった為、物資を調達する為、現地調査の為に森から出て村落を探すことに。レッドクリフの街を発見し、現地の通貨は死体から拾っただけのユキトは冒険者ギルドに登録。その後、女と間違えられるも、レイラと言う面倒見の良い冒険者に助けられ、ギルドのクエストをこなすことに。その後、臨時で組んだシャーロットやつい助けてしまった奴隷のリリウム、S級冒険者になりたいフランシスと共に、現在レッドクリフの街でほほんと過ごしていた。
先日手に入れたミスリルとアダマンタイトのインゴットを銃に加工するために、トムに教えてもらったドワーフの工房に行ってみようと思う。ちなみに今回は自由行動だから俺一人だけだ。リリウムが付いて来たそうにしていたけど、シャーロットに連れて行かれた。
ドワーフの工房はすぐに見つかった。周囲から若干離れているが、大きな煙突が目立つ建物で、時折金を打つ音が聞こえてくる。
今回はロータリー・フォージングと言う、銃身になる筒の中にマンドレルと言う器具を差し込んで外からハンマーで叩いていく方式だ。外側のハンマーもマンドレルも従来のものだとミスリルの強度の前には使い物にならないだろうとアダマンタイトを用意した。なのでミスリルの筒と、マンドレルと、ハンマーを依頼するのが今日の目的だ。
「ごめんください!」
カンカンうるさいのでこちらも声を大にして呼びかける。
「なんでえ!」
奥からドワーフが出てきた。でも金打ち音が止まないって事は、まだ他にも居るって事か。
「実はミスリルとアダマンタイトで作って欲しいものがあって来ました。これはお近づきの印です。皆さんで飲んでください」
俺はゲートからウォッカを取り出した。ウイスキーでもいいが、出来るだけ少ない量で済ませたかったのだ。
「おう、気が利くじゃねえか!おうボーリン!客が酒持って来たぞ!一旦休憩にしようや!」
「分かった、今行く!」
ドワーフが奥に呼びかけると、ボーリンと呼ばれたドワーフが出てきた。
「で、兄貴、客ってのはそっちの奴か?」
「そうよ。ドワーフに酒持ってくるなかなか分かってる奴だ。あんた名前は?」
「雪人と言います。あなたは?」
「俺の名前はダインってんだ!よろしく頼むぜ!ところであんちゃん、一緒に飲んでいくよな?」
お、今回は間違われなかった。
「はい、しかしこれは俺には強すぎる酒なので・・・・・・これに氷を浮かべてちびちび飲らせてもらうことにします」
「ほう、氷か。後で俺達にも頼まあ」
「分かりました」
ファーストコンタクトは成功ってところか。
「こりゃ美味ぇな!」
「ほんとだな兄貴!」
ドワーフ兄弟は木のジョッキに氷をドカドカ入れ、そこにウォッカを注いで勢いよく飲んでいる。俺は普通のグラスだ。
「すげえ酒だなこれは!ドワーフでもこんなきっつい酒滅多に飲めないぞ!」
そりゃそうだ。スピリタスだからな。俺は水割りだけど。
「ええ、うちにもあまり無い奴ですが、酒好きの人に飲んでもらえるならいいかなと持ってきました」
「お前はいい奴だ!」
「そうだ、いい奴だ!」
ドワーフ兄弟は2本目に突入している。ガハハと笑いながら、時折ドワーフの酒の歌を歌いながら、一行に潰れる気配も無く飲み続けていた。
「そうだ、お前はいつまでそんな硬ッ苦しいんだ?1度目の酒は友、2度目の酒は兄弟だ!」
ダインがそう言う。酒の席であまり硬いのも失礼か。
「分かったよ。これでいいか?」
「おう、それでいい」
「で、お前さん、何を作って欲しいって?」
弟のボーリンが尋ねてくる。
「実は、ミスリルの筒とアダマンタイト製の器具を作って欲しくてな。鉄は分かるんだが、魔法の金属となると勝手が分からなくてな」
「ミスリルは魔力流しながらじゃねえと加工できないぞ。アダマンタイトは単純に温度だな。で、どんなのを作って欲しいんだ?」
「ちょっと待ってくれ」
俺はゲートから種類の違う筒を何本か、それにマンドレルとハンマーを取り出した。
「これなんだが、ハンマーはからくりに取り付けるから人が振るうようには出来ていない。こっちのマンドレルって奴は筒の中に螺旋を刻むのに使う奴だ」
「ほう、ほう」
「何になるのはかは皆目見当も付かんが・・・・・・まあいいだろう。これと同じ奴を作ればいいんだな?」
「ああ、任せる」
『任された、友よ!』
気のいい奴等だな。
依頼している間、俺はミスリルに魔力を通しながら加工すればいいと聞いたので、リロードツールやプレス機の下に敷く魔法陣のマットを購入した。床に直接書いてもいいんだが、くっそ重い機器を端まで寄せるのは魔法を使うにしてもちょっと心配なので、あらかじめ専門家の手で書かれているものを次の日用意した。ミスリルを溶かすときにも炉に火属性の耐熱魔力炉を設置しなければいけないので、ドワーフ兄弟のところで購入しておいた。結果的に赤字になってしまったが、長期的に見たら黒字だからまあいいだろう。
そして現在。俺はミスリル製の薬莢を作っている。
と、言うのもこれによってホットロードのグレイン量を上げる事が出来るので7.62mmでも十分に火力が上がるのだ。ガバメントやUZIの弾も装薬には余裕があるので、通常の亜音速弾と使い分けることが出来る。それにミスリルの薬莢に復元と保存を刻んでおくと、内包している魔法の散薬からにじみ出る魔力によって内部の火薬は高温なところに行っても雷管を叩かない限り暴発することは無い。それは別の金属で何度か試した。強度の問題で横に刻むのはミスリルくらいしか出来ないが。後ついでに真鍮薬莢より軽い。他にも色々あるが、大体そんな理由でミスリル製の薬莢を作っている。
ついでに魔法を込めるための試作のミスリル弾頭もだ。これは弾頭が砕けたり著しく破損したら中の魔力が暴発するようにしたもので、理論上弱装弾に上級の回復魔法を込めて撃ったら逆に傷が治る。そんなイレギュラーな使い方はあまりしたくないが、備え有れば憂いなし。ミスリル製品を量産するのと、在庫処分の為、現在既存の弾薬は古い奴からギルドでの討伐依頼でバンバン消費している。
特に手配書見てから探査の魔法余裕でした。探査範囲に入った敵はまずVSSなどの消音器付き自動小銃で狙撃し、火力が足りない大型の敵は対物ライフルで行動不能に追い込んでからとどめを刺す。賊の討伐依頼もあったが、フラッシュバンと消音器を付けたUZIで楽勝だった。やや9mmがだぶついてきたが、これはフランシスとリリウムの練習用にでもしよう。シャーロットもとっさに火の玉で対処するとこちらにも被害が甚大だからな。M9でも持たせておこうか?
そうこうしているうちに期日が来た。待ちわびたぞ。
「どうだ?」
「うん、良い仕上がりだ」
ダインとボーリンの作った銃身とマンドレルやハンマーを見ての感想だ。流石ドワーフ、ここをひいきにしようかな?
「なあ、二人とも、弓矢に続く、新しい武器とか作ってみたくないか?もちろん保証できるものだから、契約はしてもらうが」
俺はこれまで自分の為だけに銃を使ってきたが、魔法の使えない人も居るだろう。そしてこの世界は物騒だ。外敵から身を守らなくてはならない。まあ、綺麗ごとは置いておいて、ドワーフが作る銃と言うものに興味を持ったのも確かだ。
「弓矢か。確かに俺達ドワーフはクロスボウくらいしか使わねえし、耳長どもが使っているような弓は体格の問題で引けやしねえ。つまり、連射が出来ねえ。魔法はあるにはあるが、俺達は鍛冶や彫金くらいにしか魔法を使わねえからせいぜい火の玉か岩石を飛ばすしか出来ねえ。おまけにそれもそんなに距離は出ねえ・・・・・・ほんとの事を言うとな。興味がある」
「兄貴、小難しいことはいいんだよ!鉄があって新しいもんが作れるってなら作ってみようじゃねえか!」
「それもそうだな」
うん、俺の作っているレベルのものは教えるわけには行かないが、パーカッションリボルバーくらいならこの世界の攻撃力を踏まえても許せる範囲だ。それに何より不労所得が欲しい。
「なら、ここから先はビジネスの話だ。いいか?二人とも」
『おう!』
「この武器は門外秘出にしてくれ。それでも真似する奴は出てくるだろうから、ドワーフの中では広めても良い。逆にドワーフの冶金技術が無いと今の腕では難しそうだしな。そして、広めたら全体から3割を売り上げから取れ。そのうち1割は俺、1割はダイン、1割はボーリンだ。お前達自身ももちろん作って欲しいが、そっちの売り上げの3割は俺がもらう。矢玉(弾)も数に入れるが・・・・・・と、言っても矢玉なんて現地で勝手に作られるようなもんだから、秘薬と一緒に売れ。銀は神殿とか教会で祝福をかけてもらったり、ミスリルは魔法を込めたり、アダマンタイトはその攻撃力だけで十分いけるから加工しやすそうなのは黙認していい。ここまではいいか?」
「その武器ってのは薬も使うんだな?毒じゃないよな?」
「ああ、毒性は薄いけど川には流すなよ。爆発させる火薬と言うものだ」
「発破なら鉱山でもするから問題ねえ」
俺はゲートからパーカッションリボルバーを取り出す。
「続けるぞ。これが作ってもらいたいものだ。6発装填できるが、このハンマーが誤作動を起こすと暴発するから1発はこのレンコン状の弾を入れるところから抜いておく。ここに火薬と雷管と言うハンマーで叩いて点火させる秘薬、次に火薬、そしてそれに被せるように弾を入れるんだ。弾は獣の皮。なめす必要はあんまり無いかな。それと蝋だ。この二つで塞いで落ちないようにする。こうしておけば5発連続で撃つことができる。構造的にハーフコックって言うのも出来るんだが、そうするとこのレンコン状の、弾倉って言うんだがこれが固定されないで回るから素人にはお勧め出来ないな」
俺は実物を手にカチカチと動かしながら解説する。
「連射速度はこんなもんだ」
弾は抜いてあるので、ハンマーを起こした後、引き金を引いた瞬間そのままにし、左手の小指の付け根辺りでカチカチカチカチとハンマーを連打する。
「クロスボウと比べたらすげえ速さだな。でも全部撃ち終わったらどうするんだ?またちまちまと込めるんじゃねえよな?」
「ああ、それだったらこうすれば弾倉は外れるから、先に装填してある新しい弾倉に交換するか、もう一丁別の銃を持つかだな。そう、これは銃って言うんだ」
「なるほどな」
「どうだ?撃ってみるか?」
「俺だ!俺が先だ!」
「兄貴ずりい!」
「まあ落ち着け、順番だ。俺が弾を込めている間に手ごろな鎧でもカカシに着けさせておいてくれ」
『分かった!』
流石に旧式のパーカッションリボルバーには装填していなかったので、黒色火薬は作っていないためシングルベース火薬と雷管に使うジアゾジニトロフェノールを取り出して、空の雷管のキャップに手早く魔法陣で錬成した。雷管も雷酸水銀を作っていないため、いつも使っている奴だ。これを2弾倉分込め、インクに魔法薬を混ぜたもので刻印の代わりの即席を書いて用意したら手早く片付けをする。
「終わったぞ。今回は鉄の鎧を用意した。フルプレートでもこれを着けれる奴はそこそこの金持ちだな」
ダインとボーリンが戻ってくる。
「よし、それじゃあ移動するか」
俺達は工房の裏庭に移動し、試し斬り用のカカシと対峙した。
「まず、これは片手で撃つな。グリップを利き手で親指と中指がくっつくように握り、その上から反対の手で握るんだ。まだ引き金に指を伸ばすなよ?銃の上に凹凸があるだろう。凹んでいる部分と出っ張っているで照準を合わせるんだ。これも利き目がいいな。出来たら、被せている手でハンマーを起こせ。後は、あんまり考えずに撃ってみろ」
「いくぞ!」
タァーン!と言う銃声がこだまする。
「当たってなかったらちょっと近付いて撃ってみろ。最初はそんなもんだ。気にするな」
「おう」
再び銃声。
「後は残り全部撃っていいぞ」
「分かった」
タァーン!タァーン!タァーン!と残りの弾も撃ち切る。5発しか込めてないからな。
「よし、鎧はどうだ」
ダイン達がかかしに近付く。
「おっ、貫通しているな。裏の穴がすげえぞ!」
「おお、こりゃクロスボウなんて目じゃねえな!」
45口径で今回火薬が合わないか心配だったから弾倉にギリギリまで入れたからね。なんでも良かったから弾倉には魔法薬入りインクで強固と書いておいた。上手くいってよかったよ。それともそれで反動を抑えて的に当てるドワーフの筋力がすごいのか?
「よし兄貴、別のカカシ用意するぞ!」
「分かった!外すんじゃねえぞ!」
ドワーフ兄弟はおおはしゃぎだ。
そしてボーリンも教えたとおりに銃を撃ち、感想を聞かせてもらうことにした。
「どうだ?商品になりそうか?」
「ああ、ちとうるさいのがアレだけどよ。敵はビビるだろうし腹に一発当てれば勝負が着くってのがいいな。獣相手にはそうもいかねえだろうけどよ。魔力の乏しい奴からすれば十分すぎらあ」
「兄貴の言うとおりだ。良いと思うぜ。ところで、なんか書いてあったけどありゃなんだ?」
「あれは刻印の代わりだ。普段使っている火薬はもっと難しい作りをしているんだが、それしか無かったからな。それを目一杯入れたから破裂しないようにってな」
「ちょ、おま!」
「危ねえじゃねえかよ!」
「次から作る奴は煙が多くなるがもっとおとなしいから安心しろ」
『・・・・・・・・・・・・』
じっとりした目を向けてくるドワーフ兄弟。
「逆にあれくらいの火力で大丈夫なのはアダマンタイトで作らないとダメかな。ミスリルでもいいかもしれないけど、多分いろんな部品に刻印しなきゃすぐにガタが来るだろう」
「まあ、いいけどよ。よし、俺達で革命を起こすぞ!」
「応!」
ドワーフ兄弟は本当に熱いな。まあこの分だったら大丈夫だろう。今度からシャーロット達の装備も拳銃で撃たれても平気な装備を見繕ってこなくちゃな。
皆さん、お久しぶりです。初めての方は初めまして。約半年振りの更新です。
当時スランプになっていて、同時に酷い肩こりに悩まされていました。それでも二次創作の方はなんとか続けていたのですが、後に身内の不幸があり、心身ともに疲弊してこちらを執筆する事ができませんでした。申し訳ありません。これからは容態を見ながら週に1回上げていければいいなと思いつつ、執筆を再開するつもりですのでどうかよろしくお願いします。




