人間はシチュエーションに弱い
ちょっと忙しくて執筆できませんでした。やっぱり毎日って難しい。やっている人を尊敬します。
フランシスの力は見せてもらったので、次は銃の力を見せてどのような反応に出るか試してみよう。
「探査」
事切れたイノシシの他には近くに小さな反応がいくつか。これは子供か?
「グラスボアの子供が近くに居るみたいです。まず、そいつらをどうするか考えましょう」
「あら、牡丹鍋?」
「それより小さかったら育ててから食べるのも良いと思います」
「待て待て!お前達は小さな命を食べるのか!?」
「フランシスさん、あなたは卵を食べたことがありますか?」
「あ、ああ。あるが」
「その中には命の宿ったものもあったかもしれません。なので、そういう事です。それに、放っておいたら他の動物のえさになるだけなので、気にしたらダメです」
諭すように言う。確かにどんな生き物も幼生体は可愛い。だけど、だからと言って保護できるかと言うとそうでもないのだ。現実は残酷である。
「せめて私が面倒見きれる範囲だったら私に任せて欲しい。害獣の仔が害獣になるわけではなかろう」
ま、そうなんだけどね。
「まずは見てからです」
議論しても仕方が無いので、巣と思わしきところを見てみることにした。
道中、もう一度かけた反応が少なくなっていたのを伝えるとフランシスが慌てだしたので急遽駆けつけることになった。
するとそこには――。
「ギ、グギィ?」
くっちゃくっちゃとうり坊を咀嚼し、「なんだお前らは?」と言う目をしたブラックゴブリンが居た。
「き、さ、まぁ!」
すぐさま剣を抜こうとするフランシス。だが、俺の方が早く、セミオートにしてあったアサルトライフルでブラックゴブリンの眉間を撃ち抜いた。
「な!?」
「これが俺の力です。こういうのを見て胸糞が悪くなるのも人間の傲慢だと思いますが、生き残りが居ないか探してみましょう」
「分かった・・・・・・」
「探査」
すると、3匹ほど血には塗れているが無事なうり坊を発見した。
「プゥ」
「ピッ」
「ピギィ」
「ああ、良かった・・・・・・」
フランシスは3匹のうり坊を抱いて涙を流していた。ここまでされるとどうにかしてやりたくなるな。
「シャーロット、リリウム。この空気で「食べる」とか言い出しにくいんですが」
「奇遇ね。私もよ」
「お二人に同じく」
「しょうがない、どうにかしましょうか」
「出来るの?」
「レッドクリフ付近に知り合いのゴブリンが居るので、将来労働力か防衛手段として育てられるか相談してみるだけです」
「そう」
シャーロットとリリウムは複雑な顔をしている。気持ちは分からんでもない。
「フラン」
「・・・・・・なんだ?」
「一度レッドクリフまで向かいましょう。俺に考えがあります」
「分かった」
予定外の行動で俺達はウィルキスからレッドクリフへ向かうことになった。
歩くと20日以上時間がかかるため、一度魔法薬を口に含みながらゲートを開こうとしたが上手く行かず、結局馬を借りてレッドクリフまで向かうことになった。
「今回は順調ですね!」
現在時速30km程で走行しているため、声をやや大きくして会話している。
「守りながらとただ行くだけならこっちの方が早いわよ!」
ちなみに配置は、俺とシャーロットがバイクでリリウムとフランシスが馬だ。
「それにしてもジュウと言い、そのバイクと言い、転移者と言う者はすごいのだな!」
「たまたまですよ!」
フランシスはああ言うが、本当に家を覆うような転移陣に巻き込まれたのは俺くらいだと思う。
「それでもお兄様がすごいことには変わりません!」
「それほどでもない!」
単に文明に差が出ていただけだ。
「そろそろ暗くなってきたけどどうするの!?」
「野営にしましょうか!」
現在5時半くらい。太陽を見て時計をアジャストしたが、地球とこの世界は24時間が一日らしい。ついでに紹介しておくと、この世界の名前は「アース」。地球とあんまり呼び名が変わらないのは偶然か、さてさて・・・・・・。
野営の為に準備を終え、夕飯を食べながら相談をしていた。うり坊のご飯は麦に野菜クズをグズグズになるまで煮込んだものをやっている。
「ふふっ」
一心不乱に食べるうり坊の背中を撫でながらフランシスは微笑んでいる。確かに可愛いけど情が移るぞ。
「今日の順番はどうしましょうか」
シャーロットが夜警の順番を聞いてくる。
「二人ずつで4時間交代にしておきましょう。このペースなら後1日でロンドの村に到着しそうですし」
「二人とも、それでいい?」
「はい。リリウムもそれで良いと思います」
「構わん」
「全員の了解も取れましたし、順番はどうしましょうか。俺はどちらでも構いません」
「私はもう少しこの仔たちを見ていたい。なので後に寝かせてもらいたい」
「なら、私は先ね」
「リリウムも先でいいです」
「決定。では2人とも、お休みなさい」
「ええ、お休み」
「はい、お休みなさい」
シャーロットとリリウムはテントに引っ込んで行った。
「でも、本当にこれで構いませんか?」
どうせなんでフランシスに聞いてみた。
「これで、とは?」
「里親とは言えゴブリン、しかもろくに知らぬパーティリーダーの判断に任せると言う事です」
「なんだそんなことか」
ふっ、と笑うフランシス。なんか様になるな。
「この仔達の為にここまで来た。理由はそれで十分だ」
「そうですか」
「話はそれだけか?」
「ええ、それだけです」
「なら一杯付き合え」
ずいっと酒瓶を取り出し勧めてくるフランシス。
「私とお前となら不覚は取らん。それとも少々酒が入ったくらいで眠くなるお子様か?」
身体はまだ成長期のお子様だと思うんだが。
「まあ、いいでしょう。少しだけですよ?」
万が一毒とか入ってて武器を強奪しようとしても、まだ扱いは分かりきっていないだろうから睡眠薬がせいぜいだと思う。それに、こっそり解毒魔法をかけ続ければ問題ない。なんにせよ、聖騎士がそんな真似したらカルマ値が設定されているらしいこの世界で法術が使えなくなる。だから頭の固いのが多いみたいだけど。
そう結論付けて酒精を舐めはじめた。
昨晩は特に何事も無く過ごした。強いてあげるならうり坊達を抱いて寝たフランシスが少々獣臭くなったくらいか。
道中遭遇した敵はシャーロットによる大雑把な魔法で撃退し、ロンドの村に到着した。
「あ~疲れた。流石に強行軍はしんどいわね」
「リリウムも少し疲れました・・・・・・」
「これくらいなんとも無い」
フランシスはうり坊の為に動いているからね。
「また桶を貸してもらえるか交渉してきますので、今回は先に入らせてもらいます。終わったら火の玉を突っ込んで温めておきますので、3人で入ってください」
「分かったわ。私達は宿を探しておくわよ」
「はい」
「了解した」
酒を強制的に解毒して寝不足で運転してたからな。せいぜいゆっくり休もう。そう思い、ふらふらと交渉に向かうのだった。
獲物から庇護すべき対象として変わってしまうとなかなかに面倒なものです。これも第三者の視点ならではの意見ですが。




