どうあがいても現実の問題からは逃げられない
これからは大体四千字から五千字程度を目安にやっていきたいと思います。
準備が完了した俺は、早速森林の中を調べることにした。鉈で枝や下草を刈り、時折木に目印としてバツ印の傷を入れ、その下に正の文字から一本ごとに一角ずつ加えていく。この際ショットガンはちょっと邪魔なので、片手にリボルバーを持ってもう片方の手で鉈を扱う。
そうして家の周りをぐるっと回り、鳴り子を取り付けたところでさらに外周へ範囲を広める。家が襲撃されてはたまらんからな。
太陽が真上に来るまでそれを繰り返すと、なにやら「ギャギャ」と鳴き声がした。
そこには禿頭に小さな角を持ち、小柄で鷲鼻、しわくちゃな顔を持つ3体の生き物が居た。あのファンタジーな魔法陣から考えるとあれはゴブリンか?
1体はやや赤黒く、残りはやや血色の悪い肌色だ。3体で人間のものと思われる死体からなにやら剥ぎ取って口に運んでいる。どうみても人が食われているな。
喰われている人間は既に事切れているのか、うめき声すら上げないので今は気にしないことにした。リボルバーをホルスターにそっと戻し、鉈をその場に置き、肩にかけたショットガンをゴブリンたちに向ける。
ショットガンのジャッコン!と言う装填音に3体はこちらを向くが、遅い。気にせずぶっ放す。
ドォン!と言う腹に響く音と共に赤いのが吹き飛ぶ。あいつだけ刃物を持って剥ぎ取っていたから危険度が高いと認識したのだ。
続けざまにジャッコン!ドォン!ジャッコン!ドォン!と鹿撃ち用散弾をお見舞いしてやる。いくら人間に近いとはいえ、相手は害獣だ。害獣に容赦したら死ぬのは自分とあの家で暮らしだしてから十分認識しているので容赦はしない。
九粒弾とも言い、一粒が38口径の拳銃に匹敵する攻撃力を持つ散弾に、向かってくる間もなく死傷していくゴブリンたち。銃剣の出番は無かったな。とは言え、こんなのが出てくるならパッドだけではなくプロテクターも必要か。
おっと、薬莢は再利用するかもしれない。そう思い排莢した空の薬莢を拾い集める。今度から薬莢受けも持ってこなければ。
回収し終えたら今度は人間の死体を見てみる。
革の鎧にショートソードと言うのか?鉈より少し長い剣があり、その下は木綿だと思われる血にまみれた服を着ている。内臓や、目玉など、柔らかい部分から食われていて、なかなかえぐいことになっているが、ここでの通貨とかを持っているのかもしれないので背嚢の中からビニール袋を取り出し、手袋代わりにして腰に下がっている袋などを漁る。
結果、なにやらタグのようなものと、銀貨と銅貨、それとゴブリンのものと思われる右耳が入っていた。テンプレートになぞるとこれは討伐証かな?俺もそれに倣って剥ぎ取っておこう。
命中率を重視したため、その散弾の大部分を腹に受けたゴブリンから右耳をナイフで剥ぎ取る。ついでに角も剥ごうと思ったが、頭蓋骨の一部なのか硬かったので諦めた。タグは何なのか分からないが、形見の品として届けてあげよう。
一度この周辺もぐるっと回り鳴り子を付け、安全が確保されたところでスコップを取り出す。埋葬するのだ。
冒険者って奴か?死んでしまったら元も子もないな、と思いながらも、せめてもの供養としてこれ以上貪られないように墓を掘る。それも掘り返されないようにやや深く。
額に汗をかきながらも掘り終え両足を掴んで墓に入れる。そこから土を被せて、墓標の代わりに剣を挿してやる。これでよし。
もうちょっとマイルドなのを想像していたんだが、いきなりだなと思いながらも、一旦家に帰って遅めの昼食を取る事にした。この歳じゃこれくらい慣れる。
昼食にチリビーンズの缶詰とサラダを食べ、探索を再開することにした。今度は薬莢受けも着けている。
俺は元左利きの両利きなので、左手にショットガンのグリップを握り、いざとなったら右手でリボルバーを抜けるようにしてある。薬莢受けも容量がそこまで大きいとは言えないので、一度撃ち切ったらそれも交換してからじゃないとリロードが出来ない。
さて、続きだ。マッピングと目印により、どこまで行動範囲を広めたのかは目星が付いている。森から抜けたら鉈で軽く道を作っておこう。
そう思っていたら、途中、またゴブリンが現れた。さっきより赤黒くないが赤い。
「こちらの言葉が通じるか?動くな。さっきお前のような奴が人間を喰っているのを見た」
「人間、食ベテタ?赤クテ、黒イ奴カ?」
「そうだ、それと顔色の悪い奴が二体居たな」
「ソウカ。俺、ソイツラ、探シテタ。ソイツラ、ドウナッタ?」
「人間喰ってたから殺したよ」
「ソウカ・・・・・・」
「そいつはお前と何か関係があるのか?」
「アレ、俺ノ息子。皆ノ迷惑ニナル前ニ処刑スル準備シテタ。デモ、逃ゲタ」
「顔色の悪い奴は?」
「取リ巻キ」
「大体は分かった。その場所に案内してやってもいいが、どうする?」
俺も死刑判決を受けても息子は最後まで面倒見てやりたい。
「頼ム」
「いいだろう」
「ところで、どうしてお前は肌の色が違うんだ?」
取り巻き二体と肌の色が違うので質問してみた。
「俺ノ先祖、昔、竜ノ血、飲ンダ。ソレデ、俺ノ家族、ミンナ赤イ」
クラスチェンジみたいなもんか。
「赤黒くなるのは?」
「黒クナルノハ、自分ガ悪イト思ッテイル行動取リ続ケルト、ナル。昔、一族ミンナガ黒クナッタ奴等、他カラブラックゴブリン、呼バレテイタ」
カルマ傾向とかあるのか・・・・・・。
「逆にいい事すると何かあるのか?」
「肌ガ白か緑ニ近クナッテ、人間ノ街デモ暮ラシテイケル。デモ、半端ナ事デハナレナイカラ、滅多ニ居ナイ」
「そうか、色々とありがとうよ。さあ、ここだ。他の動物に食われてなきゃいいがな」
「ゴブリン肉、ミンナ、不味イ、言ウ。動物モ、必要ニ迫ラレナイト、食ベナイ」
「そうだったのか」
「グル、グ、ウウウ」
赤いゴブリンが静かに涙を流している。どうしようもない息子でも納得のいく最後にしたかったんだろう。
「埋葬するか?」
俺は赤いゴブリンが落ち着いてから声をかけた。
「イイ、ミンナヲ納得サセルノニ、コイツ、イル。死体ダケデモ、連レテ帰ル」
「なら背負い紐をやろう。足を持って引きずるのは辛いだろう」
「感謝スル」
背嚢から細いロープを取り出し、渡す。それを赤いゴブリンは背中に背負った息子のゴブリンの死体をくくりつけ、もう一度俺に「感謝スル」と言って消えて行った。やるせないな。
だが赤いゴブリンが来た方向から考えて、あちらに集落があるのだろう。となると、その方向には足止めする類の罠を仕掛けて家周辺には指向性地雷仕掛けておけばいいだろう。
大体西の方角を探索するのは消えた。そうなると、冒険者が死んでいた南の方角がいいか。
先に家の周りに罠を仕掛けるとして、それから南か。今日は準備だけして、明日の午前に設置、午後は南の探索でいいか。
方針が決まったので真鍮薬莢のローディングをしておこうと思った。
まだ薪や炭は十分だが、バイクを出すのには道が狭すぎる。伐採が必要だ。だが、根までとなるとかなり骨だろう。それとバイクの燃料もどうにかしなきゃいけないのか。クロストリジウム・アセトブチリカムの試供品が確かあったな。新しくなっているはずだから培養層は洗わなくても大丈夫か。電気培養して培養層にぶち込もう。ブタノールとアセトンが作れるならそっち系でニトロセルロースも検討するしかないな。黒色火薬はどうも煙が多すぎる。煙幕も兼ねて使うならそれでいいんだが。
俺はファンタジー世界に来たのに現実での生産業、特にシングルベースかダブルベース火薬を作らなければいけないと言う現実がすごい面倒になった。魔法依存の社会だったら火薬の発達も怪しいし、大砲も無いかもしれない。よって黒色火薬の為の硝石も一般で出回っているだろうか・・・・・・。
だが、作らなければいつかは枯渇してしまう。ローディングにも薬莢の耐久力の限界があるだろう。そちらもどうにかしなければ。
現実とファンタジーの狭間で葛藤しながらも今後のことを決める。本当に面倒だ。でも近接戦とかあの冒険者の二の舞になりかねないので銃は必要である。射程の長い武器は偉大だ。
まずは南を目指し、森から抜けよう。何も無ければ反対の北を探してみればいい。寿命が一気に延びたんだ。気楽に行けばいいさ。
プロテクターやプレートを装備し、再び右手にリボルバー、左手に鉈を持ち、コンパスと太陽の方角を見ながら南を目指す。そうしたらあっけなく街道に出た。
街道は東西に伸びていて、どちらに行けばいいのか分からない。休憩がてら人が来るのを待つか。
水筒からちびりちびりと水を飲み、小用が近くならない程度に加減しながら休憩していると、かっぽかっぽと馬車が来た。のどかだな。
「すいません、少しよろしいですか?」
「なんだいお嬢ちゃん。その格好は冒険者かい?」
そうだった。昔の俺は女顔で髪を伸ばすと変声期が遅かったのも相まってこれをネタにからかわれたんだった。
「いえ、お嬢ちゃんではないんですが、この道は東と西、どちらが街に近いのですか?」
「東だな。歩いて2時間程度で着く距離だ。なんなら乗せて行ってやろうか?」
「お気持ちはうれしいのですが、仲間を待っていまして、教えていただきありがとうございます」
「なあに、いいってことよ。じゃあな」
ファンタジーと言えば定番の奴隷制度だ。うかつに人間を信用したら売られるというパターンがある。俺は「お嬢ちゃん」呼ばわりされるからそこら辺は余計に気をつけなければいけない。まあ、それで妻をゲットしたんだが。
「歩いて2時間ね。この身体なら荷物込みでも問題ないな」
そういえばゴブリン相手には気が回らなかったが、人間相手にも言葉が通じてたな。どうなっているんだ?
新たな疑問を覚えつつも、明日最短距離でここから街へ目指すため、一旦家へ帰るのであった。
また謎が追加されましたが、解かれるのはまたしばらく後です。