盗賊の方が一見稼げそうだけど装備を揃えたら魔導士の方が効率がよさそう
はじめてのダンジョン回。
家の周りの問題はひとまず解決だ。せっかくDランクになったのだから、古城とやらに潜ってみようかと思う。だけど初心者3人だと不安が残る。なので臨時パーティを募集して行くことになった。
ウィルキスの街に来て結構経つな。そう思いながらも冒険者ギルドの掲示板に「古城ダンジョン体験パーティ募集 斥候1 後衛1 魔導士1 リーダー Dランク ユキト」と貼り出す。
「ダンジョンなんて思い切ったわね」
「そうでもないですよ。推奨ランクがDランクだったので多分Dならソロでも頑張れば潜れると言う意味だったんでしょう。その際宝箱などは全部無視ですが」
逆に斥候だったら攻撃力が低いから敵の多いところを迂回しなきゃいけないだろうし。
「そうね。進むだけなら私だけでも何とかなりそうね。罠と思わしきところは全部魔法で起動させてしまえばいいし」
それができるのは君くらいだよ。少なくとも俺には魔力が足りなくて出来ない。
「ダンジョンと言っても浅い層は亜人が冒険者から剥ぎ取った代物と、ダンジョン独自に複製された魔物と言うべき存在から出る魔石が主な収入源になるでしょう。住み着いている亜人は今回討伐証を取っても意味が無いらしいですし、メープルトレントクラスが出てきてくれれば美味しいんですけどね」
ダンジョンのコアから生まれた生き物は総称が魔物と呼ばれている。これは魔族の被造物だからかどうかは分からないが、少なくとも魔石は魔法の増幅器や魔力の貯蔵をして、魔法陣にして発動させる方法もあるとか。豪勢にも魔法陣を魔石そのもので作ったりしたら、消耗品になるのと引き換えに凄まじい効果が出ると教本に書いてあった。
「でも、ダンジョンって憧れてたんですよ。深い層にはこの間のトレントクラスがたくさん居るって話ですし、そこで暮らす亜人も自然と鍛えられてるから冒険者を屠殺するかのように捌いて食べちゃうとか聞きました。そんなところにどれほどの宝が眠っているのかって以前の仲間達と話してリリウムは思いをはせていました」
確かに、あんなクラスがうようよしてたら今の装備だと心配だ。アサルトライフルにハーフジャケットの軟弾頭と、スチールコアの撤甲弾を揃える必要があるな。普段は汎用性を取って中が中空になっているフルメタルジャケット弾でいいだろう。タンブリングの縦回転により肉がズタズタになるし。
そう話しているうちに参加するらしき2人組が寄ってきた。
「よう、ユキ坊じゃねえか。知らねえうちにこんな可愛い子2人も捕まえちまって、隅に置けないな」
「久しぶりだな。ユキト」
「ビリーさん、フレディさん、久しぶりです。ウィルキスには何時頃来たんですか?」
「昨日だな。そんで何か面白い依頼無いかって探してたら見知った名前を見つけてな。そういうわけでお邪魔してもいいかい?」
「2人なら歓迎です。シャーロット、リリィ、この人たちはビリーさんとフレデリックさんって言って俺がFランクのときにレイラさんと最初の臨時パーティを組んでもらった人たちです。ビリーさん、フレディさん、こっちはシャーロットとリリウムと言います。2人ともとても良い子たちです」
「お二人さんはそれでいいかい?」
「ええ」
「もちろん、お兄様が信頼している人たちですもの」
「くくっ、お兄様か。最初はお姉様って間違えられたんじゃねえのか?」
「お嬢様って言われました」
「だろうよ」
「雑談するのも良いがユキト、募集剥がして来い」
「あ、そうですね。俺としたことが。ちょっと行って来ます」
フレデリックのおかげで危うく追加が来るのを防げた。
「へぇ、ユキトのおかげでね」
「ええ、ウォーターカッターを覚えてからと言うもの、必要以上に殺傷することがなくなりました。風の魔法ではどうも狙いが大雑把になってしまって」
「でもそれはシャーロット嬢ちゃんじゃないと出来なさそうだ。俺やユキトの魔力だと、せいぜい砂利混じりの水鉄砲になっちまう」
準備を終え、古城のダンジョンに行く道中、シャーロットとビリーが魔法談義をしていた。
「フレディさんたちはCランクに上がったんですか」
「まあな」
「やっぱり難しかったですか?」
「俺達はマージンを余分に取ってるから2人でも楽勝だ」
俺とリリウムはフレデリックから話を聞いている。
今回の俺の装備はいつものアサルトライフルにアドオン・グレネードランチャー。ドラムマガジンのCマグはアサルトライフルにグレネードランチャーを装着するのには無理があるので、20連の弾倉にしてある。それとUS M1911、通称コルトガバメントだ。後はナイフとゲートを開かなくても取り出せる位置にポーション、万が一ゲートが使えないときの予備弾倉と軍用旅糧など。防具はダンジョンと言う事でシティカモの迷彩服にプレートキャリアーとプロテクター、ヘルメットを装着している。
「さて、到着だ」
ウィルキスの街はダンジョンを主体とした町で、ここまでの間俺達の他にもいくつかのパーティがゾロゾロと行き来していた。その中に無謀にも襲い掛かって来る生き物が居たら、袋叩きにされるのだ。おかげで俺達の出番は無い。
「ここまでは温かったが気を引き締めて行くぞ。リリちゃんが偵察、フレディが次だ。俺が回復出来るように真ん中で、シャーロット嬢は一番後ろのユキ坊と奇襲に備えてくれ。何か質問あるか?」
「無いです」
「同じく」
「ありません」
「無え」
「それなら行くか。後は臨機応変にな」
こうして初の迷宮探索が始まった。
やはり初めてと言うだけあって迷宮探索は緊張感と集中力を強いられるものだった。反面ビリーとフレデリックはいつも通りだったが。
「止まってください。罠です」
大抵こういう罠は亜人が仕掛ける。それも迷宮になじんでいる亜人はゴブリンだろうが手先が器用らしい。つまり罠で混乱している隙に攻めてくる可能性が高いと言う事だ。罠解除に手間取っていてもそうなる。
「罠は糸と針か?」
「はい」
「丁度角だし、まとめて吹き飛ばしてしまおう」
「え?」
「みなさん、下がっていてください。爆発させます」
俺はグレネードランチャーに擲弾を装填し、みんなを下がらせた後、グレネードランチャーの引き金を引いた。
シュポンッと言う音とともに発射される擲弾。壁に当たってこちらからは見えない位置にコンッコンッと缶を転がすような音が響く。TNT作っておかないと。
爆発音は意外と軽い。パンッ!とそんなに煙を立てずに爆発し、罠と奥に潜んでいたらしい亜人に被害を与える。
「ギャッ!?」
「グギャア!」
生き残っていたゴブリンが2体、混乱して飛び出してくる。あえて職を付けるなら、ゴブリンソードマンにゴブリンシーフと言ったところか?レッドクリフ付近の奴等は腰布メインだったのにこいつらは胸当てやソフトレザーを採寸が違うところは縛って装備している。冒険者から剥いだ奴か。
慌てず先に出てきたゴブリンシーフの頭を狙って点射で撃つ。あっけなく爆ぜるゴブリンの頭。
もう片方はフレデリックによって頭を思い切り柄頭で殴打されていた。どれだけ馬鹿力なのかは知らないが、耳から体液を噴出し頭をへこませているゴブリンソードマン。
「びっくりしました」
リリウムはあまり大きな音が苦手なようだ。獣耳を伏せて人の耳を両手でふさいでいる。
「簡単な罠ならやっぱり私でも潰せそうね」
今度囮としてゴーレムを作成する本を買っておくか。落とし穴や感圧板を踏ませるのに役に立つだろう。
「ユキ坊、剣とダガーを回収しておいてくれ。後胸当てが何気に金属製だからそれもだな」
「はい。リリィはもうちょっと大きな音に慣れようね」
「はい、お兄様」
ゲートに戦利品を回収しながらリリウムを窘めておいた。
その後角の向こうに小部屋が有ったので入ったら、どうやらゴブリンの住処だったらしく、人骨の他にゴブリンたちの戦利品と思わしき冒険者の人骨の装備や金の詰まった袋が部屋の端にまとめてあった。所によっては宝箱に保管しているらしい。
ゴブリンたちはソードマンとシーフを除いたらぐちゃぐちゃになって判別が付かないのが1体、衝撃波を至近距離で喰らったらしく目立った傷は無いものの、色々な穴から体液を流している杖を持ったゴブリンが居た。杖はもちろん回収した。杖持ちはローブが体液で汚いし、そこまで価値は無い布のローブらしいので放置だ。
それと残念なことが一つ。ゴブリンも血は赤い。魔族とかあの類は青いのかと聞いてみたが、赤いらしい。陸上で生活している人型生物がヘモシアン由来の血液を所有しているかどうか、とても興味があったんだが。
そこからはスリーマンセルで行動するジャイアントアントやラージリザード、そして定番のスライムが現れた。だが、それもシャーロットのウォーターカッターによる横薙ぎでジャイアントアントは一掃され、ラージリザードは胴体にリリウムのクロスボウによる射撃を受けた後、頭を剣を大上段に構えたフレデリックによって両断され、スライムはビリーによる大火球でじっくり炙られ魔石となった。あれら魔物が襲い掛かってくる理由は、ダンジョンの防衛機構の他に亜人や人から魔力を摂取して活動するかららしい。逆に魔物同士は誤射などによる同士討ちはするものの、基本的に無干渉で徘徊しているのだとか。プログラムやAIと考えたほうが良いのかな?
「順調ですね」
「んっ」とクロスボウに足をかけ、弦を両手で引いてるリリウムが答える。
「だけど順調って思ったときが一番危ないんだぜ?リリちゃん。普段から7割の動きで残り3割は緊張感を持って動くくらいが丁度良いのさ」
ビリーの言う事がもっともだ。
「そうですね。私は斥候だから一番緊張感持たないといけませんし」
「逆に気負いすぎると長続きしないぜ」
「要は按配が大事なんだ」と続けるビリー。それもそうだな。
「探査。っと、ジャイアントアントと思われる虫型が6。挟まれてます」
「まだ余裕は?」
「あります」
今回のリーダーはビリーなので、指示を仰ぐ。
「俺とユキ坊が後ろ、残りが前だ。シャーロット嬢がぶっ放したら残りを掃討だな。ユキ坊、まだ爆発するの残ってるよな?」
「はい、あります」
「なら、距離に余裕を持って撃ちこめ。残りを風と火で距離を稼ぎながら確固撃破するからよ」
「分かりました」
この古城はダンジョン化してるだけあって廊下がやたら長かったり部屋が広かったりする。おかげで爆発物も遠慮なく使えるんだが。
「5、4、3・・・・・・来ます」
「ぶっ放せ」
それを合図に俺とシャーロットが攻撃する。
「穿て」
「てい」
こちらからは見えないが、例によってシャーロットがウォーターカッターで薙いでいるだろう。俺は俺で余裕を持って擲弾を放った。
「風よ、圧し、吹け」
爆発で足腰立たなさそうなジャイアントアントを吹き飛ばすために、ビリーが風の魔法を放つ。
「火よ、燃え盛れ」
それでもなんとか凌いでいるジャイアントアントに対し、連続して魔法を放つ。風に乗って火と言うより炎がジャイアントアントを舐めるように炙っていく。
「・・・・・・よし」
後には魔石が残り、ビリーは魔力の供給を断った。
「こっちも終わったわ」
振り返ると、ジャイアントアントは無く、魔石を回収した3人の姿が。
「よくやった。ユキ坊もあの魔法切らさず使ってて感心だ。だが、こっちを物としてしか見てないような暗殺者とかには効かなさそうだし単発でしか探せないみたいだから注意な?」
「耳が痛い言葉です」
「よし、今日はこの辺でいいだろ。ダンジョン初心者でここまで稼げれば上々だぜ。物足りないくらいで終わらせるのが生き残るコツだからな?」
「分かりました。みんなもそれでいいですか?」
「ええ」
「はい」
「おう」
「なら帰るかー」
最後にビリーがまとめ、換金した後、再会祝いと言う事で適当に美味かった店に繰り出すのであった。
主人公が成長しているように他のキャラも成長します。特に冒険者暦が長いDランク以上は色々な事を知っているので簡単に追いつけません。