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いけないと分かってるんだけど、可哀想だから拾っちゃうんだ

 例によって夜明け前執筆です。寝起きは調子がいいのかな?

 しこたま痛飲した俺は宿で昼まで眠り、猫のゆりかごで胡椒があったからここにもあるだろうとの事で買い物に出かけようと思った。


「あら、出かけるの?」


 遅い昼食を摂っていたシャーロットに声をかけられる。


「胡椒があるらしいから買いだめしておこうと思います。シャーロットはどうしますか?」


「私はもうちょっと魔法の解析をしておくわ。後一歩で転移の感覚が掴めそうなの」


 むしろ中世レベルの人間にワープ理論とか異次元をイメージしながら魔法を使えと言うのが辛いだろう。それでも割りとアバウトでも魔力でごり押せばなんとかなるのがこの世界だ。


「では、頑張ってください」


 そう言って、俺は宿を後にした。




 そして向かった先は市場。雑多に人が賑わっている。


 俺は一点一店確かめるように見回った後、それらしき物体を発見した。


「失礼、店主、これは胡椒かな?」


「ああ、そうだよ。ここからは販路が安定していてね。おかげで私のようなものでもこうやって胡椒を売れる」


 「昔は大変だったんだよ」とぼやく店主。


「では、それをいただけますか?」


「はいよ。一瓶で銀貨一枚になるけど、大丈夫か?」


 想定の範囲内だがやっぱり高いな。


「では店主、十瓶買いますから一瓶おまけしてください」


「お姉さん上手だね。いいよ。その剛毅なのは嫌いじゃない」


「場所は覚えました。また来ます」


「いつでもどうぞー」


 そうして帰路に着こうとすると、あまり見たくない光景が目に入った。奴隷市場だ。


 レッドクリフの街にもあったが、基本区画が整備されていたのでそこには立ち寄らなかった。あまり無駄なところには行かない人なのだ。


 その中を出来るだけ目を合わせないように通過しようとしたが、無理だった。


 檻に入れられ、絶望で焦点が合わず、何かの病気か呼吸がぜひぜひとおかしい少女を見つけてしまった。


 正直こういうのが目に付くとどうにか助けてあげたくなってしまう。せめて目の前の子だけでも。


 一応店主に聞いてみることにした。


「この病気の娘はいくらだ?」


「へ、へえ、元Fランクの冒険者だったらしいですが、現在この有様でして、今夜峠を越えられなければ処分なんで銀貨1枚でいいでさあ」


 はっ、この子の命が胡椒一瓶と同じ値段ね。


「よし、買う。背負い紐を着けてくれ」


「へ、へえ・・・・・・」


 衝動的に買ってしまったが、後悔は無い、と思う。




「で、買って来ちゃった、と」


「面倒は俺が見ます。宿の人には一人分多くこちらの手持ちから出しておきますから」


「分かったわ、リーダー。でも、元Fランクって事は回復したら戦わせるのよね」


「そこら辺は本人の意思次第です。家を任せるか戦わせるかは彼女に任ます」


「存外甘いのね。あなた。まあいいわ。それなら頑張りなさい」


 そう言ってシャーロットは部屋に引っ込んでいった。


 その後、俺が世話をする準備をしていると、ドアが叩かれた。


「どうぞ」


「シャーロットに聞いたわ。奴隷を買ったって本当?」


「ええ」


 レイラはなにやら険しい表情をしている。


「その子は・・・・・・この子ね。確かにこの調子なら奴隷商人も安値で手放すわ」


「分かるんですか?」


「この子が健康な状態だったら貨幣の価値が一つ変わるわよ」


 そんなものなのか・・・・・・。


「俺が責任を持って看病します」


「そう、それならいいわ」


 あっさり引き下がった。


「本当に今回が峠よ。念のため白を買ってきたわ。麦粥に混ぜてあげなさい」


「ありがとうございます」


「じゃ、頑張ってね。おやすみ」


 そう言ってレイラは出て行った。


 やるだけやってみるか。




 俺はこの症状をインフルエンザだと目星を付けている。じゃないと値段の割りに辺りの危機感が薄かったからだ。


 名も知らぬ少女を抱き起こし、少しずつスプーンで麦粥を口に含ませる。


 抵抗は無かった。ただ、こぼすので、ゆっくり慎重に匙を傾けた。


 粥もなくなったところで俺のスウェットとタオルをゲートから出し、まずは身体を拭く。飯と水分を補給したせいか汗がすごい。


 医療行為なので特に邪な気持ちは抱かない。それより栄養失調だったのか、ガリガリになっている。


 この犬耳の少女を念入りに拭った後、スウェットを着せてやる。拭ったタオルが真っ黒だ。


 ここからが長丁場だ。俺は回復魔法の活性をかけ続ける。最近集団戦や対人戦で上のランクの奴も葬ったせいか、また回復力と容量が上がった魔力にものを言わせて。


 俺は眠気覚ましに果実水を呷りながら、また、感染しないように別の瓶からコップに蜂蜜と塩を少量混ぜた果実水を少女に与える。少女はされるがままだ。


 これを一晩明けるまで続ける。本当に長丁場だ。




 夜が明ける頃、看病の甲斐もあってか少女は健やかな寝息を立てていた。目星が外れて無くてよかったよ。それにレイラさんが持ってきたポーションも大きいな。純正の白なんて回復薬では1級品じゃなかろうか。


「う、うう・・・・・・」


 少女が起きるようだ。


「おはよう。身体は大丈夫かな?」


「ここ、は?」


「君が偶然目に入ってね。見捨てようかと思ったけど、出来なかった。だから看病するために俺の宿に運んだ」


「そうですか・・・・・・」


「一応俺が主人と言う事になるけど、君はどうしたい?」


「どうしたい、とは?」


「俺は冒険者なんだ。まだ足りない面子が居るから、その育成もしながらやっていこうと思っている。でも、君が望むなら、俺の家でメイドとして雇っても良いと思っている」


「そうですか」


 相変わらず焦点の合わない目でぼんやりしている。


「出来れば君の話を聞かせてくれないかな?」


「私の?」


「そうだ、君の」


 ともかくこうなった経緯を聞いてみないと。


「組んでいたパーティが半壊して、私と恋人が残りました。護衛任務でしたが、予想外の襲撃に対処が出来ず、そのまま・・・・・・それで私と恋人は助かりましたが、賠償を命じられました。それで一時のしのぎとして体力に秀でている恋人が稼ぐことになってそれまで奴隷として私は待っていることになりました。でも、月日が過ぎ、病気にかかり、私の人生なんだったろうなあと思ってたら、あなたが私を拾い上げました」


「その恋人にまだ未練はある?」


「いえ、もう私のことなんか忘れて新しい人生を始めてるかもしれません・・・・・・」


「諦めてるかって聞いてるんだけど」


「もう、諦めてます」


「なら、うちにおいで。まだ必要としてる枠が多いんだ。どうかな?」


「本当に私でいいんですか?」


「もうも何も、助けちゃったし、責任持たないと」


「でも、私、斥候くらいしか出来ませんけど」


「大丈夫。その枠は余ってた」


「本当に私でいいんですか?」


「むしろ君がいいな。うちのメンバーも分かってくれるよ」


「不束者ですが、よろしくお願いしま・・・・・・す」


 最後に俺の腹に顔を埋めて泣いていた。よっぽどだったんだろう。


「よしよし。病気がよくなったら湯浴みをしようね」


 ちなみにこの子は12かそこらくらいで、正直欲情はしない。痩せっぽっちの身体には同情心すら覚えるし。


「ところで、君の名前はなんて言うのかな?」


「ご主人様が決めてください」


 昨日ルルちゃん見たからとっさにララって思いついたけど、安直だよな。


「リリウム。そういう花があるんだよ。リリィって呼ばせてもらうけど、いいかな?」


「はい、よろしくお願いします。ご主人様」


「あー、ご主人様はやめようか」


「では、せめてお嬢様と」


「俺は男なんだ」


「申し訳ございません・・・・・・今、鼻が効かなくて」


「あー、いいよいいよ」


「では、お兄様でよろしいですか?」


「まあいいか。それで」


 こうしてリリィが加入する予定なので、リリィは寝かせたまま報告に行った。


「大丈夫だよ。報告したらすぐ戻ってくるから」


 そしてレイラから報告しに行った。ポーション貰ったし。


「レイラさん、あの子も峠を越えて、これからパーティに加入するのに積極的です」


「それはよかった。あれはおごりだから気にしなくていいわよ」


「ありがとうございます。レイラさん」


「今度あたしがピンチになったとき助けてくれればいいわ」


「それならそれ用の道具を作っておかないといけませんね」


「期待してるわよ」


 レイラへの報告はこれでいい。


 次にシャーロットへの報告に行った。


「そう、助かったのね。流石に寝覚めが悪いから、良かった」


「それで、斥候が出来るらしいんで、鍛えようかと思っているんです」


「私とあなたで?大丈夫かしら」


「先にパワーレベリングして、そこから慣らしておけば大丈夫だと思いますよ」


「分かったわ。あなたがリーダーだしね。任せるわ」


「ええ、任されました」


 これで大丈夫だ。




 部屋に戻ると、ふらついた足取りでこちらに向かってくるリリウムが居た。


「お兄様、お帰りなさい」


 そのまま腹に抱きつくリリウム。


「こらこら、寝てないと。まだ体力が回復しきっていないんだから」


「お兄様が居ない間、寂しかったんです。それに、これは夢なんじゃないかって。本当のリリウムはあの檻の中で冷たくなる寸前に都合の良い夢でも見てるんじゃないかって・・・・・・」


「ごめんね」


「お兄様は謝らないでください。ただ、もうちょっとこうしててください」


「ここじゃ寒いだろう。ベッドまで運ぶよ」


「きゃっ」


 俺はリリウムを横抱きにしてベッドまで運ぶと、毛布をかけて頭を撫でた。


「後2、3日もあれば頭も洗えるからね。焦らないこと」


「はい・・・・・・」




 それから3日間、宿には追加で金を払いリリウムの面倒を見ていた。時折レイラとシャーロットも見舞いに来てくれる。


「お兄様、リリウムはもう元気です」


「そうか、それは良かった。なら、まずは身体を洗おう。気になるならシャーロットに頼むけど、どうする?」


「お兄様に洗って欲しいです」


「分かった」


 俺は桶を大小二つ用意してもらい、ゲートからシャンプーを取り出す。今回はしょうがない。使おう。


「お兄様、これは?」


「専用の洗剤で洗おうと思ってね」


 まずはシャンプーを手にとってリリウムを促す。


「リリィ、こっちの小さめの桶の上に頭が来るようにしてくれるかな」


「は、はい」


「これは目にしみるから良いと言うまで目は開けちゃダメだよ」


「わかりました」


 俺は爪を立てないように、完全に泡で油が分解されるまで揉み洗いをした。シャンプー多めにとっておいてよかった。


 途中、重大なことを発見した。獣人は四つ耳だったのだ。


「リリィ、上の耳に水が入っても頭振ったらなんとかなる?」


「はい、なんとかなります」


 構造は犬に近い。でも耳は四つ。うーむ、分からん。


 そうこう考えているうちに、頭の洗浄が終わった。大半が油で泡立たず、結局2回洗うことになった。でもこれでいいだろう。


「はい、頭は終わり。ちょっとリリィの鼻には辛いかもしれないけど、大丈夫?」


「大丈夫です」


「そういえば、リリィってワードッグ?ワーウルフ?」


「ワーウルフです」


「そかー。よし次は身体だ。確かしまってあった牛乳石鹸があったから、鼻にも優しいと思うし、あれ使おう」


「牛乳の石鹸ですか?」


「うん、俺は転移者だから、そういうのを持っているんだよ」


 ゲートから石鹸を取り出し、垢すりにこすり付けていく。


「はい、それじゃ背中向けて。最初は優しくやるから、痛かったら言ってね」


「はい」


 ほんと孫や親戚の子洗ってる気分になるなー。


「よし、垢も落ちた。この要領で他の場所は自分で出来るかな?」


「やってみます」


 こうしてあまり慣れていないものの、リリウムは完全に身体を洗いきった。


「これでよし、それじゃ、俺のスウェットだと奴隷衣装よりマシだと思うけど、ぶかぶかだから買いに行こうか。こういうのは女の人たちにも助言を貰おう」


「そ、そんな、リリウムごときにお金をかけてもらうなんて!」


「これから斥候として鍛えていくんだから、遠慮しない。分かった?」


「は、はい・・・・・・」


「ならばよし」


 こうしてレイラとシャーロットに助言を貰いに洗い場から出て二人を探すのであった。

 今回童女との触れあいが半数以上を占めています。心理描写に力を入れたつもりでしたが、どうしてこうなった。

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