三人のグルメ
飯自爆テロ回。
結局俺は夕方まで寝て、起き抜けに顔を洗って今朝の事を考えてみた。
確かにシャーロットの意見は嬉しく思う。だが、いいのだろうか?結果的にシャーロットをも巻き込まないだろうか?
いや、この考えは無粋か。シャーロットはそれも踏まえて「守りたい」と言っていたのだろう。ならば、信頼出来るメンバーだけのパーティ作成をするのが一番か。だけど、レイラはどうだろう?
あの人はBに上がると言う今日までフリーなようだ。あまり縛られたくないのだろう。軽く声かけ程度で済ませるか。
なんだ、考えてみたら簡単なことだったじゃないか。後から信頼できる人材を加入させるなら、まずは試せばいい。俺のパーティには盾と斥候、回復が足りない。まだ先制攻撃で補えて入るが、いずれは必要になるだろう。
方針は決まった。シャーロットに報告しに行こう。
「シャーロット、居ますか?」
ドアをノックして返事を待つ。
「居るわ」
「さっきの返事を持って来ました」
「・・・・・・分かった。どうぞ」
鍵が開けられ、許可が降りたので部屋に入る。
「結論から先に言うと、お受けします」
「そう、良かった」
シャーロットは照れくさいのかこちらの顔を見れないようだ。頬がほんのり赤い。
「詳しく言うと、現状俺達には盾役と斥候、回復役が足りません。簡単な回復ならシャーロットとポーションで補えますが、それも限界が来ます。それにシャーロットは広域殲滅が得意です。大規模なものに、ランクが上がればそれだけ必要とされるでしょう」
「それで?」
「加入させたい人材が居れば体験期間を設けて様子を見ましょう。しかしレイラさんは長くフリーでやっているのか、あまり返事は芳しくないと思いますし、あの人におんぶに抱っこでは格好が付かないと思うんです。報告して一応加入するか聞くだけでいいでしょう」
「分かったわ。しっかり考えてくれたのね。立ち直ってくれて嬉しいわ」
そう言って笑顔になるシャーロット。いつもジト目だから笑顔がまぶしい。
「レイラさんは今日、あなたが起きてくるまで宿の飲めるところで飲んでるって言付かっているわ。行きましょう」
「分かりました」
俺とシャーロットは階段を下りていった。
「おはよう、じゃないわね。ユキト、よく眠れた?」
「はい、やっぱりどこの世界も事情聴取は面倒ですね。それとレイラさん、査定ありがとうございます」
「なーに、あたしが好きでやってることだから構わないわ。報告しておくわね。ヘンリーの武具はそこまで損傷が無かったからそれなりの値段で売れたけど盗賊ギルドの奴は鎧はダメだったわ。蜂の巣だったもの。篭手とナイフは案外良い値が付いたけどね」
「構いません。それでは、そのお金で今晩のご飯はおごりますよ。シャーロットも行きましょう」
「ええ、分かったわ」
「そうそう、嫌なことはお酒飲んで愚痴吐いて忘れるのが一番よ。シャーロットとおねーさんが居るんだから、言いたいことは全部ぶちまけちゃいなさい」
「お気持ちは嬉しいのですが、気持ちの整理は付いてます。後は食べながら話しましょう」
「分かったわ。昨日のところはなんかなんとなく「疾風の牙」と顔合わせたら気まずいでしょうし、別のところに行くわよ。それでいいわね?」
「はい、構いません」
「私も詳しくないのでお任せします」
「ならよし。行きましょうか」
あの件で「疾風の牙」は別のところへ宿を変えている。おそらく顔は合わせないだろう。
そして俺達はここら辺の味付けではなく異色を放っている「異世界料理店 猫のゆりかご」と言う店に連れて行かれた。
「ここの味は変わっていて面白いのよ。それに調味料に力を入れてて、異世界の味の再現を頑張っているわ。ついでにここの店主は狼の獣人だから中で「犬?」って聞くとうんざりした顔されるからね」
割とどうでもいい情報を教えてくれる。まあ、猫のゆりかごなのに狼が経営してるのは意外だが。里子が猫だったのか?
「ただ、値段はちょっと高めよ。わざわざ子牛を潰してステーキにしたりするからその辺は仕方ないわね。その辺のお店で牛となると年寄りを潰したのくらいしか出回らないし」
一応補足しておくと、ウィルキスの街は俗称「獣人」が多い。獣人は人に友好的な亜人の総称で、これも人に分類されているのだ。でも周りには獣人で通るため、本人達も文句は言わないらしい。
でも獣人かぁ。最近動物に触れ合ってない。近所で餌付けしてた狼たちは俺のオリジナルと上手くやっているだろうか?大きめのダニが付いてたりしたから水遊びのついでに洗ってやったりもしたんだが。正直に言おう。もふもふしたい。
あいつ等は俺のことを縄張りの仲間だと思っていたので、俺が銃声をとどろかせると遠吠えの代わりだと思っているのか寄ってきた。まあ、ショットガン限定だったが。そういう時は大抵害獣の始末なので、銅弾頭で駆除して自分の食べる分だけ切り分けた後狼達にやっていたものだ。
思い出すと帰りたくなるな。いかんいかん。せめてこちらでペットを飼うくらいにしておこう。
「あ、いらっしゃいませにゃ~」
「レイラさん、あの子は?」
店に入ったら猫耳の少女が出迎えてきた。
「看板娘のルルちゃんよ。下手に手を出すと店主のグワルさんと殴り合いになるから頭を撫でる程度にしときなさい」
確かにあの愛くるしさは抱きしめたくなるが、やったのか。
「あ、レイラさんにゃ。後ろの2名様は新人さんにゃ?」
「ええ、そうよ。相変わらず可愛いわね。でもグワルさんの調理の手を止めさせるわけにはいかないし・・・・・・後ろの2人に挨拶できるかな?」
「もちろんだにゃ!初めまして、ルルです。よろしくお願いしますにゃ」
「はい、初めましてルルちゃん。俺は雪人って言うんだ。よろしくね」
「こんばんはルルちゃん。私はシャーロットよ。可愛いわね」
「照れるにゃ」
「ところで、最近餌付けしてた狼と離れ離れになってね。寂しくなってきたからちょっと撫でてもいいかな?」
「どうぞにゃ」
「では遠慮なく」
俺はルルの頭を撫でてみた。髪質も気になったからだ。
これは・・・・・・極めて猫っ毛だ。ふわふわで耳にも短い毛が生えててさわり心地がいい。
「お姉さん、耳はくすぐったいにゃ」
「ああ、ごめん。それと俺はお兄さんだ」
「ごめんなさいにゃ。ルルはまだ修行不足だにゃ」
「大丈夫よルルちゃん。私達も最初見分けが付かなかったから」
ところでなんで語尾に「にゃ」をつけているんだろう。
「ワーキャットの子はみんな「にゃ」を付けるの?」
「知り合いの子はみんな付けてるにゃ。でも、お姉さんになると恥ずかしいらしいにゃ」
「そうだったのか。ありがとう、ルルちゃん」
「どういたしましてにゃ」
「私も撫でていい?」
「どうぞにゃ」
「可愛い・・・・・・」
シャーロットはルルをわしゃわしゃ撫でてる。
「にぅ~」
「シャーロット、ちょっと激しいようだからもっと優しくしてください」
「ああ、ごめんなさい」
「もうちょっとでグワルさんが飛んでくる強さだったわよ」
実際店内で狼の獣人が睨んでいる。
「大丈夫?ルルちゃん。案内できる?」
念のため聞いてみる。
「大丈夫ですにゃ。3名様ご案内にゃ~」
俺達3人はテーブル席に通された。
「ご注文はこの紙に書いてありますにゃ。分からないのがあったら呼んでくださいにゃ。決まっても呼んでくださいにゃ」
店内ではルルちゃんのほかにも2名ほど従業員が居る。あのロリっぽいのはドワーフか?それと普通の人間族だ。
「俺は子牛のステーキでいいや。久しぶりに胡椒の味を感じたい」
「あたしは塩鮭定食にしようかしら。食後の日本酒って言うのが美味しいのよ」
「私はあえてこのTKGって言うのを頼んでみるわ。滅菌魔法までかけて食べる卵がどれだけのものか知る価値があると思うの」
マジかよ。いきなり生卵とかチャレンジャーだな。
「シャーロット、多分それだけだと足りないと思うわよ。こっちの味噌汁と漬物が付いてる和風朝食セットにのりか卵か選べるから、それで卵を選んでしょうゆを付けてもらうといいわ」
「ありがとうございます。レイラさん」
「朝食セットなのに現在夕時とはいかに」
「分かりやすさ重視だからいいのよ」
「そういうものですか」
「そういうものよ。じゃ、呼ぶわね。店員さーん、注文お願い」
「はーい」
ロリっぽいドワーフが寄ってきた。
「子牛のステーキと塩鮭定食、後和風朝食セットを卵で。他に何かある?」
「にんにく増量しておいてください。後食後に臭いが気になるんでパセリ増量で」
「分かりました。他には何かございますか?」
「個人的に聞きたいことがあったけど、それはまた今度でいいです」
「?分かりました。子牛のステーキにんにくパセリ増量と塩鮭定食、和風朝食セットを卵ですね。他のご注文はございますか?」
「あ、食後に日本酒お願い。シャーロットにもあれの良さを教えてあげるわ。ユキトは?」
「食前に赤ワインをお願いします。甘味が強い奴を」
「かしこまりました。追加で日本酒と赤ワインですね」
「うん、以上よ」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そう言ってロリっ子はオーダーを伝えに行った。
「ねえユキト、個人的に聞きたいことって?」
レイラが流し目で聞いてくる。
「ああ、実家で鍛冶屋でもしてないかなって思いまして。稼げたらアダマンタイトとミスリルの基本的な扱い方が知りたかったんです」
「ユキトは転移者だからドワーフに何故幼いのか聞くのかと思ったわ。あの質問は気にしてるか開き直ってるかの極端な問題だからうかつに質問しないほうがいいわよ」
「肝に命じておきます」
哲学的な質問かもしれないが、同時に失礼に当たるからダメらしい。ファンタジーにも色々あるんだなと思った。
運ばれてきたステーキは焼き具合も完璧で、本当に炭で焼いたのか疑問に思うほどだった。炭火焼でこれとか熟成されてないにしても結構贅沢じゃないかと思う。
鉄板の上で音を立てている肉とは別にこんもり盛られたにんにくとパセリ。にんにくの半数ほどは生のままステーキに乗せ、残りは鉄板で温める。
切り分けてみれば中は血が滴る寸前のレアと言ったところだ。分かってるじゃないか。
まずは一口、にんにくの乗せていない場所を切り分けて食べる。
うむ、塩と胡椒。これだよこれ。こういうのを待っていたんだ。
シンプルながら重量のある味をしっかりかみ締め、飲み込んだら甘口の赤を一口含む。
舌で転がし、残った肉汁と共に飲み込む。いいねぇ。やはりステーキはこうでなくては。
続けて生にんにくが乗っている部分を攻略する。適度に切り分けてぱくりといく。
うん、このにんにくの程よい辛さがまた美味い。後で体臭になるから風呂を欠かしたら大変だけど食べてしまう。くやしいが美味い。
そして焼いたにんにくを乗せ、その部分に付属してきたソースをかけ、また一口。
この酸味は果物を使っているな。それがまた肉とにんにくに合う。
こちらに来て外食のメインは香草焼きなど、美味いには美味かったが地球の味が恋しかった頃だったのだ。またワインを一口含み、後味と共に飲み込む。
俺は無言で食べていた。完全に料理に集中していたと言ってもいい。胡椒は偉大だ。シンプルでやや乳臭い子牛をこうまで引き立ててくれる。
気がついたら完食していた。二人は半分も食べていない。
「見事な食べっぷりだったねー。おねーさんここに連れて来て正解だと思ったわ」
「私が慣れないこのどろどろとした感触とハシに苦戦していたのに、妬ましい」
「それは一気にかきこむのがいいんですよ」
ポージングをして見せてみる。
「なるほど、下手に固形物と思わないで粘性の高いスープを直接すするみたいにすればいいのね」
そう言ってずずっと溶いた卵とご飯としょうゆの混合物をすすっていくシャーロット。真剣な表情でやられるとシュールだ。
「うんうん、シャーロットもなんだかんだで気に入ってくれそうで何よりだわ。それで、そろそろさっき言ってた話でも聞きましょうか」
レイラが促してくる。
「はい、実は、シャーロットと二人でパーティを立ち上げることになりまして、その報告と、一応レイラさんもどうですか?って事です。レイラさんはフリーでやるのが好きそうだったので」
「そうね。ただランクを上げるだけだったらAも行ってたかも知れないけど、下の子の面倒を見るのが楽しくてついつい声をかけちゃうのよ。以前も何度かそういう誘いはあったけど、まあそういう訳だから、ごめんなさいね」
ひいきは出来ないと言う事だろう。それもまた良しだと思う。
「分かりました。今回の主は報告だったのでこちらもそれほど気にしてないです」
「そう言ってくれると助かるわ」
「話はそれだけです。それじゃ、改めて飲みましょうか」
俺のワインは既に空になっている。
「そうね。追加オーダーお願ーい」
「はーい」
「あら、ルルちゃん。お疲れ様。ユキトがお酒が欲しいって」
「はい、どんなお酒が欲しいですかにゃ?」
「今度はチーズと辛口の赤ワインをもらえるかな?」
「分かりましたにゃ。以上ですかにゃ?」
「うん」
「復唱しますにゃ。チーズと辛口赤ワインですにゃ?」
「うん」
「かしこまりましたにゃー」
ルルちゃんは尻尾をフリフリさせながらオーダーを伝えに行った。可愛い。
「美味しかったわ」
シャーロットもようやく食べ終えたようだ。
「昨日はユキトがあんまり飲んでなかったようだし、今日はガッツリ飲むわよ。何しろおごりだし!」
「おー」
どうせあぶく銭だしあれだけ美味いステーキを食べたのは久しぶりだったな。気にしないでおこう。そう思い痛飲するのであった。
執筆している途中おなかが空きました。肉食べたい。