ぶっぱって気持ちがいいけどフレンドリーファイアも考えて欲しい
ちょっとスランプだったので一日休んで復活しました。
ロンドの村に到着した俺達ギルドメンバーはてきとーに過ごしていた。「疾風の牙」のメンバーは酒を飲んでいたり、子供に冒険譚を聞かせたり、剣を教えていたりかな。レイラもちびっ子たちに棒を持たせて何かを教えていたり、自身も素振りをしたり、夜になったら酒を飲んでいる。シャーロットは俺のゲートと探査を解析するために宿に篭ってしまった。
俺は俺でバイクのオイル注しや、燃料の補充、チェーンが緩んでいないかの確認をしていた。ベルト式の方が伸びないから楽なんだけど、長い目で見たらチェーンだと俺は思っている。
他には銃のメンテナンスだ。ロッドに布を巻いてゴリゴリ銃口内の煤やら鉛カスを取り除く。確かにショットガンはタフな銃だが、それを過信してはダメだ。
他には分解した各所の油を一旦拭い、酸化する前の新しい油を注す。こういうのは光のある内にやらないと、万が一部品がどこか行ってしまっては困る。
汚れを取り去ったら組み立てなおし、リボルバーも同様に行う。大部分はシャーロットが受け持ってたけど、夜襲に備えるのも仕事だったし、そのときに何発か撃ったからメンテナンスは必要なんだよ。
早く錆びないと言われるミスリルを手に入れたいなと思いつつ、宿で銃を組み立てている。
後はこの村はワインが美味いらしいのでまとめて買い付けてみた。もちろん冷蔵庫に入る範囲内でだ。
ワインは酸化すると不味いため、あまり長い旅をさせてはいけないらしいからな。そんな話をどこかで聞いたのでゲートでまとめて冷蔵庫に放り込んだのだ。
だが、この時代のガラスは割れやすいし、飲酒運転はもってのほかだ。交代なので不寝番は立てないとは言え、半端に酒が残ってトロトロした頭のまま警備には付きたくない。任務中は見送りか。
そうして3日ほど村に滞在し、到達地点のウィルキスの街に向かうことになった。
「ねーユキト、この姿勢おねーさん不満なんだけど」
「だってレイラさんクロスボウだと両手使うじゃないですか。諦めてください」
「それはそうなんだけど」
今、俺とレイラはバイクに背中合わせに座っている。速度もそこまで出さないし、クロスボウなので左右に射線を振るならこのほうがいいと思ったのだ。
「第一レイラさん俺の髪に顔を埋めて匂い嗅ぐじゃないですか。それじゃ任務になりませんよ」
「だっていい匂いなんだもん」
髪の毛が長いから湯洗に一時間くらいかけてるだけなんだけど。
「俺の体臭はよくわかりませんが、任務に支障が出るならシャーロットと変わって貰います」
「わかったわよ」
シャーロットは暇な時、せいぜい俺の髪をすく程度だったからな。一度結い紐を解かれかけたが。
俺の髪と長風呂の話はどうでもいいんだ。
「敵性体を探査せよ」
時折こうやって回りを調べる。敵意の持ってない存在が緑に、敵意のある存在が赤く脳内に表示されるのだ。
「後方に狼が8。俺達だけだとちょっと不味いですね。シャーロットを呼んできましょう」
「分かったわ。ちょっと馬車まで着けてくれない?」
「はい」
緊急事態だが、馬を極力刺激しないよう低速で馬車へ向かっていった。
「じゃ、シャーロット、交代ね。狼って行ってたからおそらくグレイウルフよ。まだ1桁の若い群れだわ。あたしはこっちに来た奴の足を狙っていくことにする」
「わかりました。レイラさん」
バイクの音で飛び飛びだが、そんな感じの会話が馬車の中でされている。レイラは俺の肩を掴むと、片手でハンドスプリングの要領で宙返りをし、馬車に着地したのだ。あれが無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きって奴か。俺の肩に負荷がかかるかと思ったが、配分が絶妙だったのかトンッと軽い衝撃だけで済んだ。
「御者さーん、ちょっとの間だけシャーロットを降ろすから速度落としてー。護衛は私が続けて、二人には迎撃に回ってもらうからー」
「分かった!」
そうして徒歩くらいまで速度を落としてもらって、シャーロットが降りて来た。
「ではシャーロット、こちらから迎え撃つので後ろに座ってください・・・・・・って何やってるんですか?」
「すーっはーっ。ん?ユキトニウムの補充」
「その「何当たり前のこと聞いてるの?」って顔やめてくださいよ。俺見た目はこんなんですけど一応男なんですよ?」
「この絶妙な男の子の匂いは間違いなく男。でもこのサラサラ艶々の髪に魅了されないわけないじゃない」
ダメだ、周囲の女子の変態化が進んでいる。
「そういいながらも男扱いしてないからそんな行動取ってるんでしょう」
「何故ばれたし」
「ばれないでか。ともかく、まだちょっと余裕ありますけど、狼、もといグレイウルフが迫っているらしいのでしっかりしてくださいよ」
「私の火力が火を噴くぜ」
「火力は良いんですが、火属性は勘弁してあげてください」
「なら、土か水ね。混合してユキトに習ったウォーターカッターでも試してみようかしら」
「任せます」
俺達はぐだぐだな空気のまま迎撃に回った。
馬車とは逆方向にバイクを走らせていると、狼の群れが見えた。
「右前方が一番近いので、近寄らせないように順番にお願いします」
「分かった。鎧袖一触」
なんで日本のことわざ知っているんだ?と思いながらも、シャーロットは指を向けて魔法を唱えた。
「水よ、砂よ、圧し、穿て」
シャーロットの指先からF様のデスビームの如く水鉄砲が発射される。ただしシャーロットの魔力で加圧され、研磨剤は砂とは言え、易々と届くだけの射程を持っている。それをそのまま薙いだ。
一気に3匹のグレイウルフが穿たれ、断たれていた。一番の軽症でも前足を刻まれ立てないようだ。
「ターンします。一旦両手で捕まってください」
「今のうちに補充する」
「おい馬鹿やめろ」
流石の俺もこれには敬語をかなぐり捨て、シャーロットに警告する。後ろから渋々と言った気配で両手の拘束を緩められ、まあ問題は無いのでそのままターン。
「来いよ犬っころ、数の有利なんて捨ててかかってこい」
グレイウルフには言葉が通じなかったのか、残りの群れが突っ込んで来た。
「あの大きいのがボスみたいです。シャーロット、やっちゃってください」
「分かったわ。水よ、圧し、集え。圧し、集え。圧し、集え」
今度は一網打尽にするためか、指先を天に向け水を集めるシャーロット。俺達の頭の上にはF様のデスボールのような巨大な水の塊が出来ている。
「行け」
その水球はゆっくりだが次第に加速し、狼の群れを押しつぶした。うっぷ、こっちにも水が飛んでくる。
「燃え移るから火はダメだといいましたが、これこないだ教えた奴じゃないですか。ぶっ放さないでくださいよ」
「ついやっちゃうんだ」
Mのハンバーガー屋の道化のようにおどけてみせるシャーロット。ただし無表情。
「これは迂回しないとダメですね。全く、あなたがEならもっと上のランクはどれだけなんですか」
「先輩はもっと凄いわ。あの人に憧れて私は魔導士になったの」
どんだけだよ・・・・・・。
仕方なく、クレーターと局所的な豪雨によって池が出来たような場所を迂回しながら俺達は馬車と合流した。
「おかえり、ユキト、シャーロット。あれのほかにも伏兵が居たけど、問題なく片付いたわ」
流石に足を止めなくちゃいけなかったけど。と続けるレイラ。
「そろそろBランクだし、それくらいになれば短距離なら二本足でも四本足に追いつけるわ。4匹居たけど全員無事よ」
「それは良かった。こちらはシャーロットの悪い癖が出ちゃいまして。しばらくここを通る人には悪いことをしちゃいました」
「あらら、ダメよ、シャーロット。あなたそれで苦学生やってたんじゃないの」
「反省はしているけど後悔はしてないです」
「魔法となると目の色変わるから仕方が無いわね・・・・・・」
俺より付き合いの長いレイラですら諦めムードだ。パーティが組めない理由ってこれじゃないか?
見た目は悪くないんだよ。赤毛を腰まで伸ばして末端で一括りにし、やや童顔で眠そうに目じりを下げているジト目系。体つきも平均より上じゃないかな?抱きつかれた印象では。
それでも討伐証ごと消し飛ばしてしまったりするから乱戦になりかねない大人数を相手にするならそれでも構わないが、少人数を相手にするにはオーバーキルだ。一番火力の低い火の玉でさえ表面をこんがり焼いてしまう。おまけに魔力を抑えるのが逆に魔力を食うことになり、さっきのような大規模魔法の方が燃費がいいのだとか。まあ、ウォーターカッターは教えた中でも低燃費で一瞬だけ射出すればあまり毛皮にも傷が付かないため、改善の余地はあるのだが。
「シャーロットの魔法は今後改善していくとして、進みましょうか。そろそろ追いつくのに速度を出さないといけなくなって来ました」
「そうね」
「なら、シャーロットが俺の前、レイラさんが後ろに乗ってください。飛ばさなければ大丈夫でしょう」
「分かったわ。よっと」
「ユキト、これ、ローブが捲くれて恥ずかしいんだけど」
さっきは後ろで横向きに乗っていたので平気だったが、今回はタンクの上にまたがるため恥ずかしいようだ。
「レイラさんが俺より大きいから諦めてください」
「なによ、結構気にしてるんだからね。それ」
「俺がレイラさんより大きくなるので大丈夫です」
「あら?それって将来ユキトが貰ってくれるってことかしら?」
「レイラさんはもっと良い物件を狙えるでしょう」
「高ランクになってくるとヒモになろうって言うクズかお歳を召したおじさまくらいしか居なくてねぇ」
なんか遠い目をしている。
「俺は一度妻に先立たれたのであまり嫁を貰う気は無いですけど、その時になったら考えます」
「嘘、ユキトって奥さん居たの!?」
「ああ、おじいちゃんだったものね」
驚愕するシャーロットに納得するレイラ。
「あら、言ってなかったの?ユキトは70近いおじいちゃんだったのよ?」
「がーんだわ。年下っぽいからリードしようと思ってたけど、出鼻をくじかれたわ」
その後に「でもショタなシルバーもそれはそれで・・・・・・」とかローブの裾で口元を隠し小声で続けるシャーロット。聞こえてるから。
「とにかく、乗ってください。話は終わりです。置いていきますよ」
強引にまとめて二人を乗せ、馬車に追いつくのであった。
シャーロットは火力を減らすために魔力を使い、一般的な魔導士は火力を上げるために魔力を使います。