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こういうのはもうちょっと若いときにだな

 初めての方ははじめまして。別のところで読んでいただいた方は毎度ありがとうございます。オリジナルは初めてですが、途切れずやっていきたいと思います。

「いやー、今日もいい天気だ」


 銃砲店を引退し、息子に餞別として今の時代の機材を譲った俺はもう70近い爺だ。嫁に先立たれたが、早くに亡くなってしまったあいつの分も生きるため、心は若いつもりで居る。


 俺は昔から使っている機材をガレージで騙し騙し使いながら店を閉め、気楽な老後生活を過ごしていた。


 ここは、そうだな。A国とだけ言っておこうか。その某所。自宅にシェルターもあるが、基本的には月に一度足りないものを買いに車を飛ばす程度で、後は近所から何kmか離れている。おかげで静かなものだ。たまにそのご近所が銃の機嫌を見てもらいに来訪する程度、他には動物くらいしか出没しない。


 若気の至りで作ったシェルターからの自給自足一式を息子とえっちらおっちら設置し、風呂も炭や薪を使っているが、これはこれでいいものだ。ただ、最近歳のせいか準備が辛いのが難点ではある。食事に気をつけて毎日運動を欠かしていなくてもこればかりはどうしようもない。


 と、庭で柔軟体操をしていたら地面が光りだした。


「な、なんだ?」


 家を覆うような不可思議な光。これは、魔法陣?相当昔に趣味だった漫画の知識が出てくる。


 心臓のような鼓動のごとく、脈打つ光。せめてここから脱出しなければ。せめて車を、徒歩でお隣さんまで歩くには結構辛い。


「落ち着け、普段どおりだ。普段どおり急がなくていい」


 パニックによる失敗をする選択肢を外すために、普段よりゆっくりに感じられるくらい確実な動きを意識してポケットから鍵を取り出す。車には自衛用の銃も積んである。大丈夫、大丈夫だ。


 徐々に早くなる魔法陣の鼓動を意識しないよう、普段どおりを意識して走らず、早足で移動する。が、焦りは意識とは裏腹に出てくるもの。鍵穴に刺さらず、鍵をコツコツとドアにぶつけてしまう。


「まだ大丈夫だ。大丈夫なはずだ」


 車のドアを開き、ガレージのシャッターをリモコンで操作して開く。くそ、もどかしい。


「大丈夫だ、1、2、3、4、5・・・・・・」


 数を数えて落ち着こうとする。ほら、数えてみたらそんなに秒数経っていないじゃないか。


「よし、開いた!」


 エンジンは既にかかっている。ここでアクセルは吹かさない。ゆっくりに感じるくらいでいいんだ。


「もうちょっとだ、もうちょっと待ってくれよ」


 現在も地面の光は早くなってきている。


「間に合ってくれ・・・・・・!」


 ドックン、ドックンからドックンドックンへ、そしてドクドクと、現在はドドドドドドドドと明滅している。だが事故を起こしては元も子もない。


「GO!」


 我慢できずにアクセルを吹かしてしまう。だが突如視界がホワイトアウトし、フロントガラス越しに木が迫ってきた。


「っ!」


 ハンドルを切りサイドミラーにコンッと当たる音。間に合わなかったのか・・・・・・。


「これは、昔一時期流行った異世界転移?」


 そこで俺は違和感を感じた。酒焼けしてしゃがれた音を出していた俺の喉から10代のような変声期前に変わっていたのだ。


「あ?あ、あー。テステス」


 そういや俺って身長の成長は早めに止まったのに変声期は遅めに来たんだよなぁ・・・・・・と現実逃避するも、状況がつかめない。


「・・・・・・まずは車を戻すか」


 よくよく見てみると、シャツから覗く腕は瑞々しいハリを取り戻している。いや、しわ一つ無い若い肌だ。指先もオイルを選べなかった頃に染み付いていた汚れが無くなっている。


「辺りが木に囲まれちまったんだ。バイクを出すにも一苦労しそうだし、こりゃ調べる必要があるな」


 前向きに行こう。なんかろくでもないことに巻き込まれたかもしれないが、若返った。つまりその分長生きできる。そう思い至ったら体の軽さを実感した。


「その前に鏡でも見てみるか」


 ルームミラーで顔の確認でもしよう。




 結果から言うと若返っていた。それも、部活動をやめる寸前の一番筋肉のバランスが良かった時期。正確には思い出せないが、とにかく学生の頃だ。


 無造作に伸ばしていた髭も見当たらず、白髪一本無い艶のある黒髪に戻っている。だけど若干身長が縮んでしまったようだ。一度辛うじて170まで行った身長も、歳のせいでそれを切っていたから若さの代償と割り切ろう。もしかしたらこれからまた成長するのかもしれないが。


 だがこの黒髪に今巻いている手ぬぐいでは似合わないな。そう思い、何か後ろで括るものを探した。


 ガレージの小箱を探っていると、違和感が拭えない。辺りが新しすぎる(・・・・・・・・)のだ。いや、違う。壊れていたものは直り、溝が浅くなっていたタイヤ一つさえ新品同様に戻っている。こちらが本来のあの魔法陣の機能か?それで俺はおまけなのだろうか?


 ガレージを探っていると、昔妻が使っていた、半ばで切れていた飾り紐が出てきた。朱色の飾り紐だ。


 この際これでいいか。元の長さに戻っている飾り紐にもさほど気を止めず、いや、いちいち気にしていたら仕方が無いと思いつつ、頭頂部付近で括る。ポニーテールと言うより若武者のようだが、どちらでもいいか。


 それから一度部屋へ戻り、森林迷彩の上下とブーツ、それに加え肘膝のパッドを着ける。後はポンプアクション式のショットガンと、腰にリボルバーとナイフを吊るして銃剣を着けておこう。これでドッキリだったら俺はいい笑い者だが、臆病なくらいがいいさ。それだと若返ったのが説明つかないが。


 ショットガンの真鍮薬莢もあるが、今はローディングしている時間が無い。というか時間があるのかも分からない。鳥撃ち用散弾(バードショット)一粒弾(スラグ)はポーチにしまい、鹿撃ち用散弾(バックショット)を装填しておこう。相手を殺す必要は無い。追い払う程度、対人でもこれは十分な攻撃力がある。


 念のため背嚢も用意し、3日分の軍用食料(レーション)を入れる。他にもコンパスやスコップ、水筒、マッピング用のメモなど諸々。レーションは非常用で日が高い内に家に帰る予定なので、寝袋やテントは要らない。


 この近隣を偵察するのは苦労するかもしれないが、連れ合いも既に居ない。息子も独り立ちしている。気楽に行こう。

 別のところと掛け持ちなので若干不定期になりますが、出来るだけ短期に上げれるようにします。

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