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第7話【戦闘集団】

新章【辺境統一編】スタート。


人々に【戦争】を教える勇者アレイン。

辺境を舞台に、人類の革新が始まる。

 難民を受け入れた翌朝。


 クラスタの広場には大勢の人々が集まっていた。



 領民と難民。


 それらを合わせると、もとの数の倍近い。


 集まった人々を見回し、アレインが口を開く。



「まずは人数を確認する」


 淡々と言葉を続ける。


「男、女、子供。動けるものと動けないものを分ける」



 アレインの言葉に、領民たちは顔を合わせる。


「そんなことをして、何の意味が?」



「数を把握していなければ、何も決められない」


 アレインが短く答える。


「食料、住居、防衛。すべては実際にかかわる人数次第で決まる」



 領民たちは戸惑いながらも、それぞれのグループに分かれ始めた。



 やがて、グループがまとまる。


 戦えるものは、以前の倍以上。


 食い扶持はそれ以上に増えているが、働き手も増えている。



「悪くない」


 報告を受けたアレインは、防衛担当のグループを見て短くつぶやいた。


「悪くない、とは?」


 隣に立っていたエリシアが首をかしげる。



「戦う人数が増えれば、それだけ多くのものを守れます」


 言いながら、アレインは広場の領民たちに手を広げる。



「戦う集団を作ります」


 広場にざわめきが広がった。



「戦う集団?」


「どういう意味だ?」



 当然の反応だった。


 この世界において、戦うのは勇者だけ。


 勇者はひとりで戦えるので、集団戦闘という概念そのものが存在しない。


 それは、アレインの指示で実際に戦闘を経験したクラスタの民にとっても同様だった。



 アレインは地面に線を引き、線の上に10個の小石を並べる。


「10人で1組の集団を作る」


 石のひとつを丸で囲う。


「それぞれの集団には、集団をまとめる隊長がひとり」


 10個の石の前に、大きめの石を置く。そして、全体を丸で囲った。


「これが最小単位だ。小型魔物相手なら、これで十分戦える」


 指先で、大きめの石をはじく。



「それで、本当に戦えるのか?」


 覗き込んでいた領民のひとりが声を上げる。


 まだ、半信半疑といった様子だった。



「ばらばらに戦っていては無理だ。だからこそ、隊長の号令で一斉に動く」


 小石を丸で囲う。


「ひとつひとつは小さな力でも、ひとつにまとまれば大きな力になる」



「そんなことが……」


 難民たちは、いまだに信じられないといった様子だった。


 アレインは立ち上がり、手を叩く。


「実際に試してみよう」


 ◆ ◆ ◆


 訓練はすぐに始まった。


 武器と盾を持った防衛部隊が10人隊を作り、整列する。



「列が乱れている。等間隔で並べ。隙間から崩れるぞ」


 アレインが列の隙間に鞘をねじ込み、押し広げる。


 慌てて列を組みなおすが、まとまらない。



 武器を突き出すタイミングも、


 盾を構える間隔も、


 前進する足並みも、


 まるで揃わない。


 無理もない。武器や盾を握ったこともない農民なのだ。



 その様子を見ていたエリシアは、アレインの隣で額に手を当てる。


「……これは」


「最初はこんなものです。だから訓練が必要なのです」


 アレインは自分が剣を習い始めた頃のことを思い出しながら答えた。


「立ち向かう意思だけでは戦えない。守るためには、力も必要です」


「そのとおりですね」



 うなずいたエリシアは、汗だくになっている領民たちを励ますように声を張る。


「さあ、もう一度。先ほどよりもよくなっていますよ」


 エリシアが声をかけるだけで、空気が少し明るくなる。



『大したものだ』


 エリシアは年齢の割に、領主としての優れた資質を備えている。


 彼女がいなければ、クラスタはこうして魔物に立ち向かうことができなかっただろう。



 エリシアの励ましもあって、領民たちは何とか訓練を続けていた。


 何度も武器を突き出す。


 何度も列を組みなおす。


 途方もなく地味で、過酷な時間。



 そんな中、ひとりの領民が突き出した武器をアレインが払うと、

それが真ん中から折れてしまった。


「ああ、くそ。またか」


 折れた握りを放り出し、領民が悪態をつく。


 領民たちが持っているのは、農具を改造した槍だった。


 もとが戦闘用ではないことに加え、急ごしらえなので脆い。


 見れば、広場のあちこちで同じような光景が広がっている。



「こんな武器で戦えるのかよ」


 領民の不安はもっともだ。


 その点については、アレインにも不安がないわけではない。


 もっとまともな装備があれば、生存率も上がる。



「使える炉がありゃあな」


 列の中から、ひとりの男が進み出て、壊れた武器を拾う。


 腕は太く、着ている服は煤焦げている。



「装備を作れるのか?」


 アレインの言葉に、男は軽くうなずく。


「ワシは鍛冶屋だからな」


 「ただし」と、男は表情を曇らせる。


「まともな炉がありゃあな」


「炉、か……」


 クラスタの鍛冶場は襲撃で焼け落ちてしまった。


 再建は、まるで現実的ではない。


「覚えておく」


 現状ではどうしようもない。


 アレインは当面の課題に向き直った。


「もう一度、整列から」


 領民たちはうんざりとした様子で、それでも動き出した。




 訓練は夕暮れ時まで続いた。


 誰もが疲れ果てている。


 武器を持つ手が汗で滑り、取り落とすものもいる。



 領民たちは懸命に訓練を続けていた。


 まだ列は不格好で、


 武器を出すタイミングも揃わない。


 それでも、ひたすらに続けた。



「突け!」


 武器が突き出される。



 一瞬。



 ほんの一瞬だが、10本の武器が揃った。


 エリシアが目を見開き、両手で口元を覆う。


 アレインも口の端を上げ、うなずいた。



「そうだ」


 歓声が上がる。



「これで」


 エリシアがアレインを見る。


 アレインはうなずき返した。


「まだ未熟ですが」


 言いながら、広場を見回す。


「これなら戦えるでしょう」


 農民。


 難民。


 装備は急ごしらえで貧弱。


 連携も見事とは言えない。


 それでも。


「彼らはもう、戦うもの――戦士です」



 並んだ人々。


 誰もが疲れ切っている。


 しかし、朝よりもずっと精悍な顔つきをしていた。


「戦士……」


 エリシアは言葉の響きを噛みしめるように、目を閉じる。



 つい先日まで、怯え、逃げることしかできなかった。


 アレインが現れて、何かが変わった。


 それは小さな変化かもしれない。


 だが、確実な変化だった。


 そこに並ぶのは、もう守られるだけの無力な民ではない。


 勇者と共に戦う戦士だった。




 その時。


 見張り台から声が飛ぶ。


「早馬だ!」


 アレインとエリシアは、見張りが指さすほうを見る。


 1騎の早馬が、土埃を上げてこちらに向かってくる。


 馬上の男は必死の形相で、ただ事ではないとすぐに理解できる。



「伝令、伝令!」


 叫びながら、男はアレインの前で馬から転がり落ちた。


「クラスタ領主殿はどちらに!」


「私です」


 エリシアが進み出る。


「領主殿、直ちにお逃げください。我が村に魔物の群れが接近しています。すぐにこちらにも」


 伝令は早口にまくしたてる。


 エリシアは、持ってこさせた水袋を伝令に差し出した。



 アレインは腕を組み、何かを考え込んでいる。


 エリシアはアレインを振り返る。


「勇者さま」


「……ちょうどいい」


 アレインは腕をほどき、ゆっくりと口を開いた。



 その場にいた全員の視線がアレインに注がれる。


「実戦です」



 ――こうして、クラスタに新たに生まれた戦闘集団は、すぐにその力を試されることになった。

新章がスタートしました。


ここまでの応援、本当にありがとうございます。

また、これからも変わらぬ応援を、重ねてお願いいたします。


本作に対するご意見・ご感想なども、ぜひお寄せいただければ幸いです。

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