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第15話【奪還】

※主要登場人物紹介


●アレイン

 範囲殲滅能力を持たない【最弱の勇者】。

 勇者だけが戦う戦争のない世界に戦争を生み出す。


●エリシア

 ヴァルダ地方クラスタ辺境領主。

 年若い少女だが、領主としての矜持とカリスマ性を持つ。アレインの理解者。


●カルラ

 ヴァルダ地方バルツ領からクラスタに出向中の実務官。

 観察力と実務能力に長けた有能な人物。

 夜明け前。


 バルツ北方鉱山の入り口は、薄い霧に包まれていた。


 かつては工夫でにぎわっていた場所だが、今は魔物の唸り声だけが響いている。



「情報通りだな」


 様子をうかがっていたアレインが言う。


 その後ろには、選抜された兵士たち。


 装備を身に着け、整然と並ぶその姿は、これまでとはまるで違う。



「緊張しているか?」


「してないなんて野郎がいたら、そいつは嘘つきだぜ」


 アレインの言葉に、兵士が苦笑しながら答える。


 その言葉を聞き、アレインは軽くうなずいた。


「それで良い」



 アレインの言葉に、兵士たちは意外そうな表情を浮かべた。


「その緊張と恐怖を忘れるな。忘れると、人は無茶をして簡単に死ぬ」

「恐れは忘れるものじゃない。向き合うものだ」


 言いながら、アレインは親指で自分の胸を突いた。


 恐れを忘れず。立ち向かう。


 ひとりではできなくとも、仲間と共に。



 アレインの意図を理解して、兵士たちはうなずき合う。


「確認する。列を乱さず、前進する。それだけで良い」

「後ろは任せろ」


 そう言って、剣を軽く叩いてみせる。


 それで十分だった。


 それだけの実績を、アレインは示している。


「俺たちは弱い。だが――」

「勝つ」


 アレインの言葉に、兵士たちは武器を握る手に力を込めた。


 人類の未来のために、ただ、勝利する。



「行くぞ」


 アレインの言葉で、兵士たちは茂みから飛び出す。


 入り口付近にたむろしていた魔物たちが気付き、咆哮をあげた。


「構え!」


 隊長の号令で、全員が一斉に盾を構える。


 魔物たちが群がってくる。


 兵士たちは、すくみそうになる足を必死に叱咤した。

 自分が崩れれば、全員が崩れる。

 その責任が、体の震えを抑え込んだ。


 衝突。


 しかし、鉄で補強された盾は、今まで以上に力強く魔物の突進を受け止める。



「突け!」


 号令が飛ぶ。


 一斉に槍が突き出される。


 今までの改造農具ではない。


 突き殺すために洗練された切っ先が、魔物の体を貫く。


「行ける!」


 兵士のひとりが叫んだ。


 手応えが違う。


 今までの頼りない武器とは違って、信用できる。


 壊れない。という信頼は、命を預ける装備において最も重要だ。

 それを実感していた。



「前進!」


 アレインの号令で、隊列が進む。


 その集団の圧力を押し返す力は、すでに魔物たちにはなかった。



 入り口付近の制圧を終え、兵士たちは鉱山内部へと侵入する。


 本来、鉱山への出入り口は複数ある。


 しかし、今は魔物たちがほかの出入り口をふさいでいた。


 魔物たちは負けることを想定しない。


 単純に防衛個所を絞ったほうが効率が良いと考える。


 それが仇になった。



 狭い一本道の行動には、逃げ場がない。


 制圧前進を食い止められなければ全滅する。


 そう気づいたときには、もう手遅れだった。



 行動の奥から、魔物たちが次々に湧き出てくる。


 しかし、その突進は盾の列で食い止められる。


 後ろの魔物は、詰まってどうすることもできない。


 前の魔物は、一斉に突き出される槍の前に、確実に数を減らしていった。



 懸念があるとすれば、兵士たちの疲労。


 狭く、暗い坑道。


 いつ果てるとも知れぬ敵の増援。


 体力だけでなく、精神力も容赦なく失われていく。



「踏ん張れ! 敵も消耗している。我慢比べだ!」


 側道から出てくる魔物を切り伏せながら、アレインが檄を飛ばす。


 アレイン自身、もう何体の魔物を切り伏せたか覚えていない。



 アレインの心は折れない。


 だが、兵士たちの心が折れてしまえば、そこですべてが終わる。



「やってやる! 死んでたまるか!」


「そうだ、俺たちは負けない!」


 兵士たちも必死に叫び、自分を鼓舞する。



 魔物たちの増援。


 盾を押す圧力が増す。


 兵士のひとりが崩れかける。


「くそっ!」


 一度崩れかけた体勢は、簡単には戻せない。


 列が崩れる――。



 その兵士の背中を、誰かが支えた。


 驚いた表情で兵士が振り返る。


 後ろにはひとりしかいない。



 アレインだった。


 肩で息をしながら、返り血にまみれたアレインが、兵士の背中を支えている。


「やれるか」


 アレインは振り返らない。


 アレインも手いっぱいだった。


 集団で戦う兵士と違って、アレインはたったひとりで全員の背中を守っている。



 兵士は歯を食いしばる。


「うおおお!!」


 雄たけびをあげ、魔物を全力で押し返す。


「やれます!」


「任せる」


 アレインの短い言葉。


 その簡潔さが、兵士たちの折れかけた心に灯をともす。


「押せぇ!」


 1歩。


 また1歩。


 わずかながら、確実に、歩みを進める。



 やがて、最後の1体が崩れ落ちた。




 静寂。




 荒い呼吸だけが、周囲に響く。


「……終わった、のか」


 兵士のひとりがつぶやく。


「ああ」


 アレインは周囲を見渡し、答える。


 動く気配はない。


「奪還成功だ」


 ◆ ◆ ◆


 アレインたちが外に出ると、すでに朝日が差し込んでいた。


 兵士たちがその場に座り込む。



 解放感。


 疲労感。


 安堵感。


 すべてが一斉に押し寄せてくる。


 そして――。



「勝った」


 誰かがつぶやく。


 成し遂げた。


 その確かな達成感が、兵士たちの胸に広がっていた。



「みなさん!」


 エリシアが駆け寄ってくる。


 座り込んでいる兵士たち、ひとりひとりの手を取り、ねぎらう。


「よくぞ、やり遂げてくれました」


 兵士たちは顔を見合わせ、ようやっと笑みを浮かべる。


 そこには満足があった。


 生きる誇りを取り戻したという、何物にも代えがたい満足が。



「制圧完了を確認いたしました。直ちに運び出しの作業にかかります」


 鉱山内部の安全確認をしたカルラが、待機していた作業員たちに指示を出す。


「これで、鉄が手に入るな」


「ええ」


 アレインの言葉にカルラはうなずき、兵士たちに向き直る。


 そして、背筋を伸ばしてから、深々と頭を下げた。



「兵士のみなさまの勇敢さと働きに、バルツを代表して心からの敬意と謝辞を申し上げます」


 頭を上げたカルラは、馬車を手で示す。


 武骨な荷馬車ではない。上等な旅客馬車だった。


「お疲れでしょう。凱旋にはいささか粗末ですが。どうか、ごゆっくりお休みください」


 兵士たちは、戸惑いながら馬車に乗り込む。


 単なる板の間ではない。


 厚い敷物が敷かれていて、乗り心地は比べ物にならない。


 一般庶民には、生涯無縁の乗り物だった。



「ありがとうございます」


 エリシアがカルラに礼を言う。


「鉄はバルツの生命線。それを取り返していただいたのですから、これでも足りないくらいです」

「と、領主から言付かっております」


 カルラは淡々と答える。


 そして、鋭い視線を一層鋭くしながら鉱山を見る。



「これで、戦う準備が整います。しかし――」

「新たな問題も生まれるでしょう」


 エリシアには言葉の意味が分からない。


 アレインは、カルラの言葉に表情を曇らせた。


「勇者に依らない独自の戦力を、領主が持つ」


 カルラの言葉に、ようやくエリシアがハッとした表情を浮かべる。


「それは……しかし」


「とはいえ、ほかに手段はありません。まずは、ひとつずつ、課題を解決いたしましょう」


 ひとつの戦いが終わり。


 また新たな戦いが始まる。


 すべてが終わるその日まで。

 少しでも気に入っていただけたら、高評価をお願いします。


 メンタルで更新が不定期になることがあるので、通知を入れていただけると嬉しいです。


 コメントなどもお待ちしています。

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