表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

第14話【装備】

 ウェルンとの取引によって、食糧問題は解決した。


 バルツとクラスタは継続的な食料を獲得し、冬を超える見通しも立った。


 だが、それはあくまでも生き延びるための条件に過ぎない。


 戦うための準備は、まだ整っていなかった。



「これで、難民の受け入れも問題ありません」


 帳簿と格闘していたカルラが、目頭を揉みながら言う。


 潤沢な食料があれば、たいていの問題は回避できる。


 住居に関してはまだ万全ではないが、そちらも総出で復興が進められている。


 共通の目標に進んでいる間は、問題ない。



「ご苦労様です」


 エリシアがカルラをねぎらう。


 カルラは実務官として、本当に有能だった。


 彼女が実務官として内政を担当してからは、クラスタの復興は驚くほど円滑に進んでいる。



「次は、実際に戦う準備か」


 アレインの言葉に、エリシアもうなずく。


「ええ。兵は集まりました。食料もある。ただ――」


「装備がない」


 カルラが言葉を引き取った。


 現在の兵たちの装備は、板に取っ手を付けただけの盾と、農具を改造した武器だった。


 急場はしのげても、本格的な戦いに十分だとは言い難い。



「バルツに鍛冶場があります」

「もともとが鉱山都市ですから、設備自体は十分に」


 カルラの言葉は煮え切らない。


 アレインはその理由におおかたの察しはついた。


「なら、それを使おう」


 それでも、アレインは即決した。


 ◆ ◆ ◆


 その日のうちに、アレインたちは鍛冶師を連れて、バルツの鍛冶場を訪れた。


 炉は冷え、長く使われていない様子がうかがえる。


 それでも、設備はしっかりしていた。


 煤けた壁と武骨な金床が、かつての賑わいを思わせる。



「やれやれ、すっかり冷えちまって」


 クラスタの鍛冶師が、炉をいたわるように撫でる。


「使えるか」


「ああ、立派なもんだ。すぐにでも使える」


「問題は材料か……」


 アレインは額に手を当てる。



「鉄がほとんど残ってない。使えるもんは農具だのなんだのに充てられちまってるからな」


 当然の話だ。


 この世界では、鉄は装備に使うものではない。生活用品だ。


「今ある材料だけでも、試作はできるはずです」


 エリシアの言葉に、鍛冶師は少しだけ考え込む。


「そうだな、やってみる価値はある」



 炉に火が入る。


 久しぶりに立ち上がる炎が、鍛冶場を赤く照らし出す。


 鉄を打つ音が響く。


 カン、カン、と規則正しいその音色は、戦いの始まりを告げる音。



 数日後。試作品が完成した。


「……これが、武器」


 エリシアが手に持つそれは、長槍だった。


 頑丈な鉄芯入りの柄に、鉄製の穂先。


 つぎはぎだらけの改造農具とは、比べ物にならない。


「複数人での運用が前提になります」


 アレインが説明する。


「剣と違い、振り回して使うものではありません。列を組み、壁を作るためのものです」


 さらに、鉄で補強された頑丈な盾。簡素な胸当て。


 数は少ないが、確かな【戦うための装備】だった。


 民兵のひとりが、それを手にする。


 ぎこちなく構え、並んでみせる。



「これで、戦えるのか」


「ああ、今までよりずっと、強くなる」


 アレインは即答する。


 民兵たちは顔を見合わせ、静かにうなずく。



「問題は、数ですね」


 カルラが現実を突きつける。


 残っていた材料をかき集めても、今回用意できたのは、ごく一部。


 全体を賄うには、圧倒的に足りない。


「バルツにも腕の良い職人が揃ってる。材料さえあれば、すぐにでも揃えられるぜ」


「わかった。それはこちらで何とかしよう」


 鍛冶師の言葉に、アレインが答える。


「鉱山はどうなってる?」


「現在、主要な鉱山は魔物の支配圏にあります。バルツとしても、頭の痛い問題です」


 カルラの言葉に、エリシアは息を呑む。


 クラスタと同じ。


 魔物に生活圏を追われる。



「敵の規模は?」


「少数ですが、定期的に入れ替わっているようです」


「なるほど、拠点化しているわけか」


 アレインはうなずく。


 その場で掃討するだけでは終わらない。


 しかし、それは好機でもある。


 まだ、鉱山として機能している。


「鉱山を攻略し、奪回する」


 アレインははっきりと宣言した。


 その言葉に、場の空気に緊張が走る。



 クラスタは、敵が退いたことで取り戻した。


 今回は、奪い返すために、こちらから攻撃を仕掛ける。


「こちらから、攻める」


 エリシアが確かめるようにつぶやく。


 脅威を退けるためではなく、資源を奪うために攻撃する。


 それは、今までの戦いとは似て非なるものだ。



「これも、守るための戦いです」


 アレインが言う。


「守るとは、単に居場所を確保するだけではありません。資源を獲得し、勢力を広げること。現に、魔物はそうしています」


「バルツとしても、いずれは対処しなければならない問題です」


「なら、今やるべきだ」


 アレインの言葉に、カルラもうなずく。



 エリシアはじっと考え込み、やがてうなずいてみせた。


「やりましょう。避けられない戦いならば、行動は早いほうが良い」


「バルツも最大限協力いたします。戦力はいかがなさいますか?」


「今回は少数で行く。練度の低い人員は危険な上、装備も足りない」


 カルラの言葉に、アレインが即座に答える。


「鉱山の攻略となれば、閉所での戦いになる。強力な装備を持った、少数で当たる」


「なるほど。それでは、こちらは周辺の情報収集や、後方支援に回ります」


「わかった。そちらは任せる」


 人類初の、領地奪還作戦が動き始めた。


 ◆ ◆ ◆


 数日後。クラスタから、実戦経験を積んだ兵たちが集められた。


 それぞれが、試作された装備を身に着けている。


「なるほど、様になっている」


 その様子を眺めていたガイラムが言う。


 奪還作戦の報を受け、直接出向いていた。


「これが、クラスタの軍か」


「まだ未完成ですが」


 アレインが短く答える。


 これはまだ、始まりに過ぎない。


 この装備を量産し、全員に配備して、初めて【軍】として機能する。


 ガイラムはどこか楽しむような様子でうなずいてみせる。



「参戦概要を説明する」


 アレインは、カルラが用意した鉱山の見取り図の前に立つ。


「今回の目標は、魔物の占領下にある鉱山の奪還。坑道内部の魔物を掃討する」

「まずは鉱山入り口を制圧し、隊列を組んだまま坑道内を進軍して、魔物を各個撃破する」

「坑道内は狭く、隊列を組んでいるこちらが有利な状況だ」


「狭い場所で、挟み撃ちにされたらどうする?」


 兵のひとりが手を上げる。


「俺が背中を守る。後ろは心配するな」


 アレインの言葉に、兵たちは納得した様子を見せた。


 兵たちは、これまでのアレインの戦いぶりを見ている。


 その言葉には、何よりも説得力があった。



 兵たちの様子を見たアレインはうなずき、ゆっくりと下がった。


 あとを引き継いだエリシアが口を開く。


「この戦いは、私たちにとって大きな意味を持ちます」

「これまで、私たちは魔物によって多くのものを奪われた。住む場所を、家族を、隣人を、そして――」

「生きる、誇りを」


 誰もがエリシアの言葉に聞き入っていた。


「この戦いはそれを取り戻す第1歩となりましょう」

「もう、奪わせはしない。この戦いでそれを証明するのです」


 エリシアはその場にいる兵たちの顔を見る。


 兵たちもエリシアの顔をまっすぐに見返した。


 エリシアはうなずき、こぶしを突き上げる。


「我々の手で!」


「おぉ!!」


 兵たちもこぶしを突き上げる。


 バルツ鉱山奪還作戦。


 人類の反撃が、始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ