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<R15>15歳未満の方は移動してください。

近づいてきたのは、君のほう。〜過保護すぎる幼馴染は溺愛中〜

照れるのはいつも、君のほう。

「許可したのは、君のほう。」の続きとなる短編です。

R15です。ノインの言動に注意が必要です。苦手な方は回れ右してください。

 久々に再会した幼馴染に、好き好き言われて迫られ、恥ずかしさのあまり結婚を承諾してしまった……。



「嫌いじゃないよ」

「…………」

「お嫁さんになるって言ったんだから、ほかの人を選んだりしないって!」

「はい」

「ホントに嫌いじゃないんだって!」


 ノインがじっと、見つめてくる。


「ハラハラする恋の駆け引きや、胸がわくわくするようなロマンスは物語だからいい。

 現実では心穏やかに、その人とずっといたいって思えるのが一番…………でしたか」


 なんでそんなこと憶えてるの!?


 オルガはもじもじと、自身の両の指先をすり合わせている。


「ノインのことは好きだけど、ノインの言ってる好きでは、ないと思ってて」

「そうですね」


 そうですね!?


「だ、だからっ、好き好き言われるの恥ずかしいから控えてくれると……!」

「嫌です」


 嫌です!?


「せ、せめて練習の間だけは……!」

「嫌です」


 きっぱり言い切られ、うう、と(うな)る。


 ……言えない。


(練習中に言われると、すぐ頭まっしろになって、気絶しかけるって……言えない!)


 刺激が強過ぎて、すでに何度か気絶している。


 結婚をすぐにしないのは、ノインが言い出したことだ。


(心の準備ができてからでいいって言ってくれたけど、それはダメだと思うし……。

 くっそー! 世の中のお嫁さんは、どういう準備してるの!? 準備ができるっていつ!?)


 だれか教えて……!


「オルガ」

「だって父さんも母さんも、ノインみたいに好き好き言ってないし、おじいちゃんも父さんも、ノインみたいなタイプじゃないし!

 どうしよう、好きってどういう感じなの!? 私だってノインみたいに言いたい! ノインが変に色っぽく言うからいけないんだって! 至近距離で何回も言われたら脳みそ沸騰するよ!」

「……………………全部口に出してますよ」


 ハッと我に返り、顔を(うつむ)かせる。


 ノインと再会してから、やたら赤面してしまうし、叫んでいる気がする。


 自分が……自分じゃないみたい。


 目の前のノインが、微笑んだ。


「俺と一緒に老いてもいいって思うなら、それでいいんですよ」

「……? そう、なの?」


 そっと顔をあげると、うなずかれる。


「子どもが自立してからのほうが長いんですから」

「???」

「雛は巣立つものです。残るのは君と俺。

 そこからの人生のほうが長いです」

「そ、そう、かな」

「はい」

「………………」


 そう……そうか。


 そこまでの覚悟をしてくれてるんだ、ノインは。


「じゃ、じゃあ、初夜が大丈夫だってノインが思ったら、結婚しよう! そうしよう!」


 提案にすぐに喜んでくれると思ったが、違った。


 目を丸くしたノインが、視線をさ迷わせる。


 複雑な表情をしているので、オルガは「あ」と口を(つぐ)む。


(もしかして大丈夫ってなるまで、すごく時間かかるのかな。でも練習を続ければ……)


 毎晩彼をつき合わせてしまうのも、いかがなものか。

 言い出したのはノインではあるが…………。そうだ!


(村のみんなに報告するついでに、母さんに訊いてみよう。ダメなら近所のおばさんたちに)


 たしか、旦那なんてまったく好きじゃないって言っていた人がいた。参考になるかもしれない。


(ふっふっふっ。成長した私がノインをフワフワにしてみせる!)


 ノインがやたら近い時、なんだかフワフワと気分が高揚するので、ぜひとも彼に味わってもらいたい。


「フッフッフッ!」

「なんでいきなり笑うんです……」

「なんでもない。楽しみにしててフフフ」


 しかし自分はノインにかわいいだの、好きだの言われるとすぐに赤くなってしまうが、ノインはそうでもない。


(うーん。モテモテだろうから、かっこいいとか言われ慣れてるだろうし……)


「ノイン」

「なんですか?」

「かわいい!」


 どうかな。やっぱり男の人だし、嫌かな?


「ありがとう」


 微笑みが優し過ぎて、オルガは目を見開く。


「ちょ、ちょ……?」

「ん?」

「嫌じゃ、ない?」

「なぜ?」


 不思議そうなノインは、軽く首を傾げる。


「君はそう思ったから、そう言った。違う?」

「ち、違わない」

「俺も、そう思ってる。周りがどう思おうと、俺にはそう見えてます。君はかわいいです」

「そ、そそ、そう」

「素直に言ってくれて、ありがとう」


 見たことのないタイプだ、やっぱり。

 騎士ってこういう人たちが多いんだろうか?


「それで、そろそろお喋りの時間は終わってもいいですか?」

「っ、そ、そうだね!?」


 あああああ、だよね!?


 ノインの手が頬にそえられる。


「あのねノイン」

「はい」

「やっぱりうまく呼吸ができなくて」

「鼻でするんです。だから練習してるのでは」

「そそそそ、そうだけど!」

「…………」


 じっ、と見られて思わず視線を逸らす。


「好き、って言わないほうがいいですか?」

「ぐっ」


 だからその、囁くように言うのは!


 恥ずかしさにぷるぷる震えてしまう。


 ふだん爽やかなんだから、もっと普通に言って欲しい!


 本当にこれに慣れることができるのか不安になってくる。

 だって、こういうのって、胸がときめくものだと思っていたのに、なんか、なんか。


(お腹の下のほうに力が入っちゃうんだよ! どうしよう、私が絶対おかしい! 胸がきゅんってなるものなんでしょ!?)


「ノインは、私のどこがそんなに好きなの?」

「…………好きなところ、挙げたほうがいいですか?」


 ん???


 思わず、視線を戻してしまう。


「長くなりますよ」

「な、なが?」

「………………俺のこと」


 うっすら微笑まれて、オルガは視線が外せなくなった。


「意識し始めたんですね」


 ノインは人差し指で、オルガの心臓部分を指差す。


「ドキドキくらいじゃ、なまぬるい」

「の、ノイン?」

「ばくばく、でもない。

 ここが本当に(せわ)しなくなる時は、ドッドッドッて、すごい勢いで脈打つんです」


 …………近い。


「今日はあと少しで、練習を切り上げます」


 ぐいっ、と片脚を持ち上げられ、バランスを崩してオルガはベッドに転がった。

 見れば、ノインが嬉しそうに微笑んでいる。


「頑張ってください、オルガ」


***


 ノインの家は居心地がいい。

 借りているらしいこの小さくて狭い家屋も、整理整頓がされていて使いやすい。

 小さいながらも風呂まで完備しているし、狭いけど寝室は別にある。


 村に帰らずに居座り続けているせいで、ノインはずっと居間にあたる場所で寝ている。

 せめて交替してベッドを使えばいいと言ったのだが、頑として譲らないのでオルガが諦めるしかなかった。


「ダメです」

「なっ、なにも言ってないよ!」

「どこかに家を借りる、では?」


 こいつ、心が読めるのか?


「共同生活も夫婦生活の練習です」

「そ、そうだけど……」

「家賃も高いですよ、王都は」

「うう」


 だったら。


「私もここの家賃出すっていうのは」

「…………」

「ノインが暇潰しにって、読み書きのやさしい本とか、編み物の糸と道具とか色んなものたくさんくれるし!

 お弁当くらいしか作ってないとか肩身が狭いよ!」


 ハッとしてオルガは「ストップ!」と声をかけた。


「なにもしてませんけど」

「財布渡しますとか言い出すのかなって……」

「いらないんですか?」

「そそ、それはノインのでしょ!? まだ結婚してないのに!」


 気に入らないらしいノインが、少しばかり溜息をついてオルガの(てのひら)にコインを数枚乗せた。


「なにこれ」

「銀貨ですけど」

「???」

「金貨のほうがいいですか?」

「え?」

「弁当代です」

「たっか! そんなに高価じゃないって! もおおおおお!」


 質素な生活をしてるくせに、どうして変なところで金銭感覚が狂うのか……。


「ここから家賃を出してください」

「いくら?」

「銅貨一枚で」

「すくなっ!」


***


「芋女!」


 涙ながらの罵倒が、オルガにぶつけられる。

 オルガはびっくりして目を丸くした。


 綺麗なドレスを着て日傘を差している、いかにもご令嬢な娘が、すごい剣幕で睨んできている。

 寝坊をしたその日、お弁当を届けに来たオルガは「美人だ」と思わず感動してしまう。


 横に立つノインが口を挟まないのをいいことに、更に続けられた。


「あなたなんて彼にまったく似合わない! ドレスを一着も持ってないなんて! 化粧もしてないし、なにひとつ洗練されていないもの!」

「…………」

「あなたみたいな不細工が隣に立つなんて信じられない。それだけ彼を貶めてるのよ!?

 女として、素材が悪いからって手抜きをしていいわけじゃないでしょう!?」

「………………………………あの」


 おずおずとオルガが口を開いた。


「本当のことしか言ってないので、悪口になってないですよお嬢さん」


 ノインがちら、と一瞬だけオルガに視線を遣ったが、気づかなかった。


「着飾るのが嫌ってわけじゃなくて……。

 好きな人に綺麗だと思われたいっていうのは、わかります。私はお嬢さんのこと、綺麗だなって思います! ホントに!

 重たいドレスも着こなしてるし、お化粧は上手だし、顔もちっちゃいし、目はくりくりしてる、美人さんです!」

「あなた馬鹿にしてるの!?」


 ええっ!?


(ど、どうしよう……怒ったほうが良かったのかな……)


 でも本当のことを言われているだけだし……。


「結婚の約束をしてただけで妻の座におさまるなんて! どうせ持参金の用意もできない貧乏人のくせに!」

「え、え~っと」

「ノイン様をたぶらかすなんて! 身の程をわきまえなさいよ!」


 …………ノイン様、って呼ばれてるんだ……。


 と、心の中で思いつつ、オルガはひとしきり罵声を一方的に聞き、「たくさん言葉を知ってるんですねえ」と感心したところ、更に相手を怒らせてしまった。



 まさかノインが早引きするとは……。


 家に帰る道で、ノインはオルガの歩調に合わせて横を歩いていた。


「あんな美人さんなのに、振ったんだね」

「俺は君だから好きなのであって、美人だとか、綺麗だとかどうでもいい」


 やけに声に棘がある。


 オルガが彼の手を握ると、びくっと反応された。


「言い返さなかったね、ノイン」


 自分だったら、ノインの悪口を言われていい気分はしない。

 本当のことであっても、ノインにはいいところがたくさんあるんだよ、って怒るはずだ。


「怒ってないよ、私。でもノインがあんな風に言われたら、私が知ってるノインのおすすめポイントをたくさん言っちゃうかな。

 もしかして、私のいいところたくさん挙げたら、誰かにとられちゃうとか思ったりする?」


 なんてね。


 話題を明るくしようとして、わざと言ってしまう。


 取るなんて人は物じゃないんです、とか言うと思ったのに。


「…………………………………………」


 真っ赤だ。


 口元を手で隠しているノインが、耳まで赤い。


 驚いたオルガの顔が、つられて熱くなった。


 ノインは顔を見られないようにと少し背ける。


「……君のいいところを知ってるのは、俺だけで…………いい」


 小さく洩らしたその言葉に、オルガは繋いだ手に力を入れてしまう。


「……こどもっぽくて、失望、しました?」

「えっ、えっ、う、ううん」


 かわいい。


 ノインがかわいい。


「ノイン、かわいい」

「っ、あ、ありがとう」


 目が泳いでる。


「かわいいよ」

「あ、ありが………………も、もういいですから」

「練習頑張ろう! 結婚は二人でするものなんだし!」

「…………はい」

「でもたくさんお喋りもしよう? ノインは私のことたくさん知ってるけど、今のノインのこと私はあんまり知らないから。

 ちょっと怖くて聞けなかったんだけど、女性とのおつき合いって今までどうしてたの?」

「…………なにも、ないです」

「なにも?」

「君以外に興味がなくて……。結婚する相手が決まっているのに、浮気なんてしません…………だから、……結婚までは節度ある距離を保とうとしたのに、君が他の男と結婚する気だと……言うから」

「経験ないの!? チューもしてないの!?」

「な、ないですよ……。反応しないです、し……」

「そんなに照れることないのに」

「てっ、照れるのはいつも、君のほうです、から」


 こっち見なくていいです、とノインが視線を伏せてしまう。

 ノインが自分に対して「かわいい」と言う気持ちが、わかった気がする。


 昔と見た目が変わっても、やっぱりノインなんだなあと口許がゆるんだ。


「でもノイン、いつも経験あるみたいな雰囲気出すじゃない」

「出してません。…………君とたくさん練習すれば、うまくなるのは必然です」

「照れてるノイン、かわいい」

「あ、ありがとぅ………………………君のほうがかわいいのに」


 ぼそりと洩らされた最後の言葉を、オルガは聞き取れなかった。


***


 後日。


 婚約者が貶められているのに、擁護すらしない冷血漢。


 あっという間にその噂が広まり、ノインに熱をあげていたご令嬢たちの視線が一変した。


 まったく気にした様子のないノインが昼の休憩に弁当を食べていたら、同期のコニーが覗き込んできた。


「芋料理にハマってるのかと思ってた」


 ノインはちらりと視線を遣るが、返事をしない。

 コニーが隣に腰をかけて、小さく笑う。


「全体的にかわいいけど、今度はそういうファンシーなのにハマってるの?」

「うるさい」

「ずる賢いなあ、キミ。

 キミの婚約者に同情が集まってるの、わざとやったろ。あんなひどい男に娶られるなんてかわいそう、って僕の彼女も言ってた」

「…………」

「ちょっと前まで、あんな田舎娘と結婚させられるなんてかわいそう~って、言われてたのに。な?」


 苦笑するコニーを無視して、ノインは弁当を完食した。


「ジョスはお人好しなところがあるから、キミの誘導に引っかかったんだろ。

 ひどいやつだな、女の子は可愛く着飾って愛でてあげるのがいいのに」

「人形じゃない」

「ふうん」


 頬杖をつき、コニーが試すように言う。


「なんなら僕が磨いてあげようか? 流行のドレスや宝石、帽子や香水、下着まで網羅してるよ?」



「いたあ!」


 コニーが訓練場で悲鳴をあげた。


「いった! なんで同じところばっかり! っつ!」


 木剣の先でうまく絡めとられて、コニーの手から弾かれたそれが地面に落ちてしまった。

 やれやれと肩をすくめる。


「あ~、降参こうさ」

「拾ってください」

「…………ノイン?」

「早く拾ってください」

「えっ、ちょ」

「はやく」

「さっきのは冗談だって! いだっ!」


「許可したのは、君のほう。」の続きとなります。

読んでいただき、ありがとうございます。

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