後日譚1:付き合い始めた翌日が、もう好きだらけだった
ご感想で2人のイチャイチャがみたいというのをいただいたので、執筆いたしました。
恋人になって、初めての朝。
自室の大きな鏡の前で髪を整えている私は、まだ少し夢見心地だった。
「……リリィと、両想い……」
口に出してみると、胸がくすぐったくなる。
あの噴水の前で、お互いの気持ちをぶつけ合ったあの瞬間。あれは現実だった。夢なんかじゃない。
「よし……よし。今日からは、恋人同士としての一日が始まるのよ、クラリス・ヴァレンティーナ!」
頬を叩いて気合を入れる。
鏡の中の自分が少しだけ照れて見えた。
◇◇◇
登校中、校門の前で待っていたのは――もちろん、彼女だった。
「クラリス様、おはようございます」
そう言って微笑んだリリィ・アルシェは、今日も世界一可愛かった。
朝日を受けたプラチナブロンドの髪がきらきらしていて、瞳はまるで宝石のように輝いている。
「おはよう、リリィ。今日も一段と麗しいわね」
「クラリス様のリボン……もしかして、私がプレゼントしたやつですか?」
「ふふん、気づいた? もちろん、恋人からの贈り物ですもの。つけない理由なんてないわ」
「……もう、そういうところ、好きです」
そう言って彼女は、そっと私の手を握った。
昨日より、少し強く。少し近く。
手のひらからじんわりと伝わってくる温度が、嬉しすぎて泣きそうになる。
「ね、クラリス様」
「なに?」
「今日も、手……繋いで行きましょう?」
「ええ、もちろんよ。……というか、むしろ私の方からお願いしたかったくらいだわ」
彼女の笑顔が、ぱあっと咲く。
ほんの数日前までは、彼女とこんなふうに登校できる日が来るなんて、思いもしなかった。
悪役令嬢としての破滅ルートしかなかったはずのこの世界で、私はたった一つだけ願いを叶えた。
(――リリィと、両想いになること)
それだけで、この世界に転生した意味があったと思える。
◇◇◇
校内に足を踏み入れた瞬間、周囲の空気が変わったのを私は感じた。
気のせいじゃない。確実に、視線が集まってる。しかも、すごい勢いでスマホが構えられてる。
(……おかしいわね。リリィとはこっそり手を繋いでるだけよ?)
──と、思っていたのは私だけだった。
「っ……クラリス様、あそこ……!」
リリィが指差す先には、廊下の陰に隠れてるつもりのクラスメイト、カトリーナ嬢の姿があった。
手にはノート。首からカメラ。しかも双眼鏡まである。なにその装備。
「お二人……ついに正式にお付き合いを始められたのですね……! 推しが、尊い……」
カトリーナ嬢は感極まったように呟き、ノートに「第百三章:恋人始動編」を書き込み始めた。
「や、やっぱり……バレてる……!?」
「クラリス様、すでに完全に……公認カップルです……」
私の手を握るリリィが、少し照れたように笑った。
でも、嫌がるどころか、誇らしげに胸を張っていた。
「ならもう、堂々としていましょう。私たち、恋人ですから」
「……ああもう、ほんとに好き。好きすぎて私、明日爆発するかも」
「じゃあ、私が隣で看取ります」
「死因:可愛さの過剰摂取。……ってリリィ、真顔で言わないで!」
通学路の階段を並んで歩きながら、私たちは何度も笑い合った。
──付き合い始めた翌日。
世界は変わらないのに、私の視界はもう、彼女一色だ。
(好き。……好きすぎて、困る)
でもそれでいい。
これが“恋人”ってやつなんだから。