最終話:推しに告白しようとしたら、“推しの方が先に告白してきた件”&エピローグ
ついに、決めた。
今まで「推し」とか「愛でたい存在」とか、言葉を濁してきたけれど──
私はもう、はっきり自覚している。
リリィを、心から愛している。
文化祭、休日デート、修羅場(百合限定)。
さまざまな騒動を経て、私はついに告白の覚悟を決めた。
場所は、中庭のあの噴水の前。
原作では、王子がヒロインに告白する“正規ルート”の名場面。
──でも今日は、私がそこに立つ。
「クラリス様、呼び出しって……何かあったんですか?」
「ええ、少し話したいことがあるの。大事なことよ」
リリィは首を傾げて、小さく微笑んだ。
「……なんだか、クラリス様、緊張してます?」
「……そりゃ、まあ。だって、今から告──」
「じゃあ、私から言ってもいいですか?」
「──え?」
言葉を飲み込む。
リリィは噴水のきらめきの中で、まっすぐにこちらを見つめた。
「……私、クラリス様のことが好きです」
「──え、あの、まって、それ私のセリフ……!」
「でも、クラリス様って、いつも私より早く動いてくるから。
せめて告白くらい、先に言わせてください」
リリィの頬は真っ赤だった。
でもその瞳は、迷いひとつない。
(……負けた)
いや、勝ったのか? 両方か?
わからない。けど──
「……ありがとう。リリィ、私もあなたが好き。
“推し”とか、そんな言葉じゃもう足りないくらいに」
「……っ!」
次の瞬間、私はリリィをそっと抱きしめていた。
ふわっと、甘い香り。
細くて、でも温かい体。
(この温度が……私の幸せなんだ)
「……クラリス様って、ほんとズルいです」
「私の辞書に、“公平”という言葉は載っていないの」
「ふふ、知ってますよ」
──そして、乙女ゲームの“破滅ルート”は、消え去った。
代わりに、私が手に入れたのは──最高の恋人。
恋の矢印は、一方通行から両想いへ。
世界は相変わらず騒がしいけど、この手だけは離さない。
私の人生は、“悪役令嬢”から始まり、
“ヒロインとの百合ハッピーエンド”で幕を閉じる──
いや、閉じないわね。
だってこれは、始まりなんだから。
◆エピローグ
その後のふたりと、なぜか巻き込まれる他キャラたちの話
・カトリーナ嬢は未だに推しノートを更新中。しかも最近“クラリス×リリィ”を公認カップルとして描き始めている。
・王子はようやくクラリスの“恋の矢印”が自分に向いていなかったと気づき、涙ながらに後退した。
・隠しキャラ・ロゼは「百合こそ正義」という独自の価値観で、謎の“百合応援団”を発足。
・リリィとクラリスは現在、隠れて手を繋いで登校している。が、すでにほとんどのクラスメイトにはバレている。
そしてクラリスは、今日も思う。
(転生してよかった──この世界で、あなたに出会えて)
──完──
ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
本作『転生悪役令嬢は、ヒロインを攻略したいだけなのに…』は、
「なろう系の王道要素(転生・悪役令嬢・破滅回避)+百合ラブコメ」という、
ある意味で“邪道”な方向を突き詰めた作品です。
読者の「こんな悪役令嬢見たことない!」を引き出せるように、
テンプレを崩しつつ、愛と笑いとすれ違いをたっぷり込めました。
特に百合ジャンルでの“告白のすれ違い”や“恋心の自覚と混乱”は、
王道ラブコメよりも繊細なバランスが必要ですが、
だからこそ読んだあとにじんわりと残る感情を意識しました。
「この作品を読んで百合が好きになりました!」と言ってもらえたら嬉しいです。