第6話:そしてライバル令嬢、百合に目覚める──“推し被り”から始まる三角関係!?
文化祭から数日後。
学院は再び落ち着きを取り戻しつつあった──が、私の内心はそれどころじゃない。
(リリィの“好き”発言……どう考えても、あれは推しとか通り越して、恋じゃない!?)
でも、あの時私はまたしても逃げた。
“推し”という便利な言葉で包んで、自分の気持ちをごまかした。
ダメだこれ、こっちが“悪役”になってるパターンじゃない?(精神ダメージ)
そんな悶々とした昼下がり、事件は再び起こった。
「おや、クラリス様。ご機嫌よう」
振り返れば、背後に立っていたのは──
カトリーナ・ド・フローレンス嬢。
この乙女ゲーム世界における“第二の悪役令嬢”ポジション。
物腰は柔らかく、貴族としての品格も完璧。
でも内心、ヒロインに対してライバル心を燃やす「隠れヤンデレ」タイプ。
つまり──私の百合ライフの最大の敵である。
「……何のご用かしら、カトリーナ嬢」
「少し、お話を。リリィ嬢のことについて」
「はいストップ。リリィは私の推しです。これ以上は立ち入り禁止です」
「うふふ、そういうと思いましたわ」
にこやかに微笑むその顔に、ほんのりとした狂気が滲んでいるのは気のせいではない。
「貴女、気づいていないようですけれど……
最近のリリィ嬢、クラリス様を“見る目”が明らかに変わってきておりますわ」
(……知ってる。むしろそれが悩み)
「それに、クラリス様が“推し”として可愛がっている間に──
私はもっと……個人的な好意を伝えることにしますわね」
「…………はい?」
「ええ、もう決めましたの。
私、リリィ嬢を“本気で”恋人にしたいと思っておりますの。
ですから、勝負しましょう。貴女と私で──」
「いやです」
即答した。
「えっ?」
「無理です。私、推し活なので。恋のライバルとか、そういうテンションじゃないので。
あとあなた、ヒロイン狙いで百合宣言してるけど、それ私の領域ですから」
「……あら、ではこうしましょう。私も貴女のことが気になってきましたわ」
「は?」
カトリーナ嬢はくすくす笑う。
「推しが被ってしまった以上、貴女を観察するしかないでしょう?
そしたら……少しずつ、貴女も“推し対象”に入ってきたといいますか……」
「ちょっと待て。それってつまり──」
「ええ、“三角百合関係”のはじまりですわね?」
──ああもう、乙女ゲームのはずなのに、
百合ゲームどころか“百合バトルロイヤル”が始まってしまった!!
このままではいけない。
リリィに告白された側でありながら、ごまかし続けている私が一番ずるい。
でも、でも──
(もう少しだけ、この曖昧な距離のままでいたい。
だって、推しの隣って……居心地良すぎて、抜け出せない……)
そんな迷いを抱えながら、
私はリリィと、カトリーナとの“不可思議な三角関係”の渦に巻き込まれていくのだった──。