第5話:文化祭イベント開幕!ヒロインとお姫様抱っこで逃走中!?
王立学院の一大行事──秋の文化祭。
貴族も庶民も、生徒も教師も、全力で準備に明け暮れる数日間。
そしてもちろん、乙女ゲームにおいては**“推しと急接近できる一大チャンス”**でもある!
「──というわけで、リリィ。あなたには、うちのクラスのメイド喫茶で“看板娘”をお願いしたいの」
「えっ、私がですかっ!? 無理です無理です! 私、人前で働いたことなんて──」
「大丈夫。あなたが可愛いのは知ってるから(断言)」
「そ、そんなこと……っ!」
(いや、ホントに可愛いんだよなあ……ゲーム時代から思ってたけど、
リリィのメイド服立ち絵、破壊力凄かったから……リアルだともっとやばい)
リリィは案の定、みんなに注目されまくってた。
ドリンクを運ぶたび、照れ笑い。
紅茶の説明するたび、目を伏せてしどろもどろ。
(……もう、控えめに言って“国宝”では??)
──でも、事件は起こる。
店の一番奥の席に座っていた貴族の男子生徒──
見た目だけは端正だけど、性格にやや難ありな**“シルヴァン公爵家の御曹司”**が、
リリィに絡み始めた。
「君、なかなか良いね。私の家の屋敷でも、働いてみないかい?」
「えっ……あ、いえ、私は学院の学生ですし……」
「君のような庶民が高等教育を受けられるだけでも感謝するべきなのに、
貴族の申し出を断るなんて──まったく無礼だな」
(は?)
リリィの手首を掴むその瞬間、私はすかさず駆け寄っていた。
「申し訳ありません。その子は“私の”推しなので、お触り厳禁ですわ」
「は、はあ? おまえはアーデルハイト家の……!」
「元婚約者とか元悪役とか、そういう肩書は全部脱ぎ捨てましたの。
今はただの“推しの騎士”として生きておりますのよ」
そして──私はリリィを、お姫様抱っこで持ち上げた。
「きゃっ……く、クラリス様!? な、なんで、抱えるんですかっ!?」
「逃げるからに決まってるでしょう! 文化祭会場から! 変な奴から!」
「で、でもっ、みんな見てますぅ〜〜〜!!」
「見せつけましょう。推しと推し主の、強固な関係を!!!」
私はそのまま、中庭→講堂→裏手の温室へ一直線にダッシュ。
歓声と悲鳴と混乱の中、リリィはずっと私の腕の中で真っ赤になっていた。
(……かわいすぎる。これはもう、公式でしょ?)
温室の中に飛び込んだとき、リリィはとうとう言った。
「クラリス様っ……!」
「はいっ(即答)」
「私、クラリス様のこと……やっぱり、好きかもしれません……!」
「──えっ」
そのとき、たしかに時間が止まった。
花の香りの中で、リリィの頬が紅く染まる。
私はお姫様抱っこのまま、思考停止した。
(え、まって、まって。これは本命告白じゃない!?
でも、あれ? このシチュ、私が攻めのつもりだったんだけど……?)
そして私は、咄嗟に──
「……私も、リリィのこと、好きよ。
“全力で推してる”って意味で!!」
「…………はい?」
またやってしまった。
勢いでかわされた告白。
でも、リリィは微笑んで言った。
「……その“推し”って、いつか“本物”の恋に変わるんですか?」
「……それは、もう変わってるかもしれないわね」
花が咲き誇る温室の中で、
私たちの距離は、確かにまた少しだけ、縮まった。