第4話:ヒロインに告白されそうになったから全力で回避してしまった──だってまだ心の準備が……!
その日は、学院の試験が終わった翌日だった。
緊張から解放された生徒たちは、午後の自由時間を思い思いに楽しんでいた。
私? もちろん、推しとデートです。
「クラリス様、あの、今日も一緒に図書館に……」
「もちろん。あなたからの誘いを断るなんて、推し活失格ですもの」
「ぷ、ぷし……活……?」
最近は、リリィも“推し”という単語に慣れてきたのか、
顔を赤らめる頻度が減った。が、それでも破壊力は抜群。
そして事件は、そんな平和な日常の中で起こった。
場所は図書室の奥、誰も来ない静かな小部屋。
並んで本を読んでいたとき、リリィがそっと本を閉じた。
「……クラリス様って、すごく変わりましたよね」
「そう? 私はずっと“あなたの推し”として一貫しているつもりだけど」
「ふふ、はい。でも、今のクラリス様はとても優しくて……素敵です」
(うっ……その言い方、反則。私のHPが減るどころか回復していく……)
「……それで、私……」
「ん?」
「……私、クラリス様のこと、ずっと……」
その瞬間。
私の百合センサーが全力で反応した。
これは──告白の“前兆”!
(やばいやばいやばい、まだ心の準備がっっっ)
リリィの唇が、何か言おうと動く。
私は思わず、とっさに──
「し、失礼!!」
椅子から立ち上がって、リリィの前に回り込む。
なんなら棚から落ちかけた本まで拾い上げて、無理やり話題をずらした。
「こ、これ面白そうね! 読んでみましょう!さあ読んで!」
「えっ、えっ!? でも私、まだ……!」
「読んで!!(お願い!!)」
押し切った。
そして、リリィはしぶしぶ本を開いた。
私はその間に、内心の大嵐を抑えこむ。
(いや待って!? 何で回避したの私!?
“推しに告白される”って最大のゴールじゃないの!?
むしろ“このルートに入るために転生した”って言っても過言じゃないのに!?)
──でも、怖かった。
この気持ちが、ゲームの延長線じゃないとしたら。
“クラリスとしての人生”に、本当の恋が生まれてしまっていたら。
それを受け止めるには、少しだけ勇気が足りなかった。
その日の帰り道。
リリィは少し困った顔をして、ぽつりと言った。
「……クラリス様って、たまにすごく意地悪です」
「えっ」
「でも、そういうとこも、嫌いじゃないですけど」
笑って走り去る彼女の後ろ姿に、私はその場で崩れ落ちた。
(あーーーもう!!!
これが、これが、恋ってやつなの!?
私、ヒロインに振り回されてるじゃん!?)
百合は順調。
だが精神は削れていく。
でも──これもきっと、幸せな痛みなんだろう。
私は改めて拳を握る。
次こそ……ちゃんと受け止めてみせるわ。
あなたの「好き」の言葉を──正面から。
この恋は、もう後戻りできない。
でも、それでいい。
だって私は、
転生悪役令嬢だけど、
ヒロインを攻略したいだけ、なんだから。