第1話:悪役令嬢、推しへの愛を自覚する
目が覚めたとき、私は絢爛な天蓋付きベッドの中にいた。
ふわふわの羽毛枕、金糸の刺繍、見知らぬ部屋──
(……え、ここどこ。ていうか、何これ……貴族の部屋?)
そして、鏡に映ったのは金髪碧眼、美貌の少女。
その瞬間、頭に電流が走ったように、前世の記憶がよみがえった。
(やばい、これ“あの乙女ゲーム”の世界じゃん!
しかも私……よりによって、悪役令嬢クラリス!?)
クラリス・フォン・アーデルハイト。
高慢ちきで王子に執着し、ヒロインを目の敵にして破滅する女──
だが。
(……違う。私、あのゲームで推しだったの、ヒロインのリリィなんですけど!?)
そう、私は王子なんかどうでもよかった。
優しくて健気で芯の強いヒロイン・リリィが大好きで、
何度もバッドエンドを見ながら「彼女を幸せにするルート」を模索していたガチ勢だったのだ。
(これは……チャンス。悪役令嬢に転生したなら、リリィと接点もある!
むしろ私が攻略すればいいんじゃない!?)
私の中で何かがはじけた。
クラリスは本日をもって、ヒロイン特攻型悪役令嬢にジョブチェンジします。
そして迎えた初登校日。
お付きの侍女たちを従え、学院の門をくぐる。
見目麗しい王子や攻略対象たちが挨拶してくるが──
「……無視で」
「クラリス様、王子殿下が……」
「結構です。私は推しに会いたいの」
教室に入ると、いた。
机に座って本を読んでいる、栗色髪の可憐な少女。
彼女こそ、私のリリィ・スノーフレーク!
「あなたが……リリィさんね? クラリスよ。よろしく」
「え、あ、はいっ……クラリス様って、確か……王子の婚約者の……?」
「その話は流す予定よ。むしろ、あなたの方が私には重要だわ」
「へっ?」
この時のリリィのぽかん顔、天使。
尊い。保存したい。300枚撮りたい。
だがこの時の私は知らなかった。
この一言が、リリィの“勘違い好感度”を上げ、
とんでもない誤解の連鎖を招くことになるとは──
王子との破局? 上等。
他のヒロイン候補の妨害? 全部回避。
問題はただ一つ。
推しが恋愛対象として私を見てくれないことです!!
恋の矢印が一方通行なまま、
悪役令嬢クラリスの“百合ゲー攻略”が、今ここに始まる!