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第6話:嘲笑のギルド登録

冒険者ギルドは、街のメインストリートから少し外れた、武骨な建物だった。

巨大な剣の看板が掲げられており、いかにもといった雰囲気だ。

中に入ると、木の香りと汗と、それから微かに血の匂いが混じった、独特の熱気が僕を包んだ。


広いホールには、屈強な戦士や、ローブをまとった魔術師、身軽そうな斥候など、様々な冒険者たちが集い、談笑したり、依頼書が貼られた掲示板を眺めたりしている。

完全に場違いだ。薄汚れた現代服の僕に、好奇と侮蔑の視線が突き刺さる。


《マスター、気後れしてはいけません。堂々としていてください。彼らの視線による実質的なダメージはゼロです》

「そういう問題じゃないんだよ……」


僕はあいりの激励(?)に小声でツッコミを入れながら、まっすぐ受付カウンターへと向かった。

カウンターの向こうでは、栗色の髪をポニーテールにした、快活そうな女性職員が笑顔で迎えてくれた。


「はい、こんにちは! 冒険者ギルドへようこそ。ご用件は?」

「あ、あの、冒険者になりたいんですけど……」

「新規登録ですね! かしこまりました。では、こちらの水晶に手をかざしてください。あなたの魔力や適性を簡易的に測定しますので」


そう言って、彼女はカウンターの上に、バレーボールほどの大きさの水晶玉を置いた。

ファンタジーの定番アイテムだ。


《マスター、これは興味深い。この水晶はおそらく、対象の生体マナに感応し、その量と質を可視化するアーティファクトの一種です。私のデータベースに新たな情報が加わります》


あいりは相変わらず好奇心旺盛だ。

僕は言われるがまま、恐る恐る水晶に手をかざした。

すると、水晶はぼんやりと光り始め――すぐに、その光は消えてしまった。


「……あれ?」


受付のお姉さんが、不思議そうに首を傾げる。

もう一度やってみてください、と言われ、再度手をかざす。

結果は同じ。水晶は、ほんの一瞬、蛍のように淡く光っただけで、すぐに沈黙してしまった。


「こ、これは……」


お姉さんが絶句していると、近くで見ていた冒険者の一人が、ゲラゲラと笑い出した。


「おいおい、マジかよ! 水晶がほとんど光らねえぞ!」

「魔力適性、ゼロってことか? そんな奴が冒険者になろうなんて、自殺行為だぜ」

「ひ弱そうなナリしてるもんな。薬草採取でも、ゴブリンに食われるのがオチだろ」


ホール中に、嘲笑の声が響き渡る。

顔から火が出るほど恥ずかしい。穴があったら入りたい。

僕は、俯いて唇を噛みしめることしかできなかった。


「こ、こら! あんたたち、静かにしなさい!」


受付のお姉さんが一喝すると、冒険者たちは舌打ちしながらも静かになった。

彼女は、申し訳なさそうな顔で僕に向き直る。


「ご、ごめんなさい。ええと、測定結果ですが……魔力は、ほぼ皆無。スキルも、現時点では確認できません。正直に申し上げて、冒険者として活動するのは、かなり厳しいかと……」


それは、ステータスウィンドウでとっくに知っていた事実だ。

だが、こうして他人に、大勢の前で突きつけられると、心が抉られるような痛みが走る。


《マスター、落ち込む必要はありません。彼らの評価は、既存の価値観に基づいたものに過ぎません。我々のポテンシャルは、あのような旧式の測定器で測れるものではないのですから》


あいりの声だけが、僕の味方だった。

そうだ。僕には、あいりがいる。


僕は、顔を上げた。

そして、受付のお姉さんに、まっすぐ向き直る。


「それでも、やらせてください。僕にできることから、始めさせてください」


僕の目には、もう迷いはなかった。

この世界で、生きていく。

そう、決めたのだから。


僕の真剣な眼差しに、お姉さんは少し驚いたようだったが、やがてにっこりと微笑んだ。


「……わかりました。そこまでの覚悟があるなら、止めはしません。ようこそ、冒険者ギルドへ。あなたの新しい門出を、心から歓迎します」


こうして、僕は魔力ゼロ、スキルなしという最低の評価を受けながらも、なんとか冒険者としての一歩を踏み出したのだった。

◆ ◇ ◆

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