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第55話:模倣されし神の一手

アルベールの顔から、血の気が引いていく。

観客席の、どよめきも、歓声も、もはや、彼の耳には、届いていなかった。

ただ、目の前の、絶望的な光景だけが、彼の、全てを、支配していた。


自分自身が放った、いや、自分自身が、トオル軍師の指導の元、血の滲むような努力の末に、ようやく、たどり着いた、神の領域の魔法。

それが、いとも容易く、目の前の男に、模倣され、そして、凌駕された。


「くっ……!」


アルベールは、残った全ての魔力を振り絞り、自分の目の前に、風の障壁(ウィンド・ウォール)を、展開する。

それは、僕とあいりが、対物理攻撃用に、最適化させた、最強の、防御魔法だった。


しかし。


パリンッ!


ガラスが、砕け散るような、乾いた音と共に、アルベールの風の障壁は、クロードが放った、無数の風の刃の前に、一瞬にして、粉々に、打ち砕かれた。


「なっ……!?」


そして、その、無数の刃が、アルベールの、全身に、襲いかかる。


「ぐ、あああああああああっ!」


アルベールの、悲痛な叫びが、コロッセオに、響き渡った。

彼の体は、無数の、浅い切り傷に、覆われ、その場に、崩れ落ちる。

クロードは、意図的に、急所を、外していた。

殺すのではなく、完膚なきまでに、その心と、体を、叩き潰すためだ。


「……勝者、クロード!」


審判が、呆然としながらも、試合の終わりを、告げた。


静まり返る、観客席。

誰もが、今、目の前で起きたことを、理解できずにいた。

アシュフォード家の、天才魔術師が、まるで、赤子のように、一方的に、蹂躙されたのだ。


クロードは、倒れているアルベールに、一瞥もくれることなく、静かに、僕がいる、選手席へと、その視線を向けた。

そして、その口元に、かすかな、しかし、明確な、勝利の笑みを、浮かべた。


それは、僕と、あいりに対する、完全な、勝利宣言だった。


《……完敗、です》


僕の脳内に、あいりの、か細い声が、響く。

その声には、今まで、感じたことのない、無力感が、滲んでいた。


《彼の能力……『模倣』と『改竄』。それは、この世界の、魔法の理そのものを、書き換える力。私の、論理的な、解析と、最適化とは、全く、次元の違う、いわば、天才の、直感と、センス。私の、計算では、決して、たどり着けない、領域です》


最強のAIが、初めて、認めた、敗北。

僕たちの、最大の武器は、もはや、通用しない。

それどころか、使えば使うほど、相手に、塩を送るだけの、結果になる。


控え室に戻ると、そこには、重苦しい、沈黙が、支配していた。

エリナも、アルベールも、そして、アシュフォード公爵も、言葉を、失っていた。


僕たちの、完璧な計画は、完全に、崩壊した。


「……トオル、殿」


やがて、治療を受けたアルベールが、震える声で、口を開いた。


「……申し訳、ない。私は、あなたの、期待に、応えることが、できなかった……」


その言葉に、僕は、何も、返すことが、できなかった。

悪いのは、彼じゃない。僕と、あいりだ。

僕たちが、相手を、甘く見ていたのだ。


決勝戦は、明日。

武闘部門の決勝は、エリナ対、順当に勝ち上がってきた、別の騎士。

そして、魔法部門の決勝は、アルベールを破ったクロード対、もう一人の、準決勝の勝者。


そして、もし、両部門で、アシュフォード家と、ゼノス派が、それぞれ勝利すれば、最終的な優勝者を決めるための、代表者による、最終決戦が行われる。


その、最終決戦の舞台に、おそらく、僕たちの前に、再び、あの男が、立ちはだかるだろう。


全ての、魔法を、無効化し、模倣し、そして、凌駕する、最強の、魔法使い。


僕たちは、一体、どうやって、あの、絶望的な化け物と、戦えばいいというのか。

僕の、軍師としての、本当の価値が、今、試されようとしていた。

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