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第54話:軍師の魔法、軍師の罠

エリナの、衝撃的な勝利の余韻が、まだ、コロッセオを支配している中、大会は、次のステージへと、移行した。


――『魔法部門』の、開幕だ。


アルベールは、静かに、闘技場の中央へと、進み出た。

彼の、最初の対戦相手は、ゼノス派の、中堅どころの、宮廷魔術師。


「試合、開始!」


審判の号令と共に、相手の魔術師が、先手を取った。

彼は、得意げに、炎の魔法を、連続で、放ってくる。


「食らえ! 我が、炎の(フレイムランス)を!」


しかし、アルベールは、動じない。

彼は、僕が教えた、最小限の動きで、その全てを、回避していく。


《マスター、相手の魔力残量、残り42%。術式パターン、単調。もはや、脅威ではありません》


「アルベール殿、遊びは、そこまでです」


僕の声が、アルベールの脳内に、直接、響く。

いや、正確には、僕が、あいりを介して、彼に、テレパシーを送っているのだ。

これも、あいりが、公爵家の、古代文献を解析し、実現させた、新たな技術だった。


「――彼の、三歩先。そこに、最適化された、『風の刃』を」


アルベールは、僕の指示通り、静かに、詠唱を紡ぐ。


「――Wind Cutter: Overdrive」


放たれた、不可視の風の刃。

それは、相手の魔術師が、次に移動するであろう、予測地点に、寸分の狂いもなく、叩き込まれた。


「ぐあっ!?」


相手の魔術師は、見えない何かに、切り裂かれ、その場に、崩れ落ちた。

勝負は、一瞬だった。


「な、なんだ、今の魔法は!?」

「詠唱が、異常に、短い……! それに、あの威力……!」


観客席が、再び、どよめく。

アシュフォード家の、筆頭魔術師、アルベール。

彼の、生まれ変わったような、圧倒的な実力に、誰もが、言葉を失っていた。


アルベールは、その後も、僕とあいりの、完璧なナビゲートの元、次々と、対戦相手を、下していった。

その戦い方は、もはや、芸術の域に達していた。

最小限の魔力で、最大の結果を出す。

相手の、思考と、行動を、完全に、先読みする。


それは、まさに、軍師が、戦場で、兵を動かすかのようだった。


そして、ついに、魔法部門も、準決勝。

アルベールの、対戦相手として、現れたのは、もちろん、あの男だった。


クロード。


彼は、静かに、闘技場の中央へと、進み出る。

その顔には、相変わらず、何の感情も、浮かんでいない。


「……面白い、魔法ですね」


クロードが、初めて、口を開いた。

その声は、アルベールではなく、まっすぐに、僕がいる、選手席へと、向けられていた。


「まるで、全てを、計算し尽くしたかのような、完璧な、魔法。ですが、それは、本当に、あなたの、魔法ですか?」


その言葉に、アルベールが、ピクリと、眉を動かす。

しかし、僕は、動じない。


「――始めろ、アルベール。奴の、化けの皮を、剥がしてやれ」


僕の、冷たい命令が、アルベールに、届く。


「試合、開始!」


アルベールは、先手を取った。

彼が放つ、無数の、風の刃が、クロードに、襲いかかる。


しかし、クロードは、それを、避けるでもなく、防ぐでもなく、ただ、静かに、その場に、立っているだけだった。


そして、風の刃が、彼に、届く、その直前。


スッ……。


全ての、風の刃が、まるで、最初から、存在しなかったかのように、虚空に、消え去った。


「なっ……!?」


アルベールが、息を呑む。

僕も、そして、僕の脳内にいる、あいりも。


《……理解、不能! 現象を、解析できません!》


あいりの声に、初めて、完全な、混乱の色が、浮かんでいた。


「言ったでしょう?」


クロードは、静かに、微笑んだ。


「あなたの魔法は、借り物だ、と」


そして、彼は、指を、一本、天に、掲げた。


「お見せしましょう。これが、私の、本当の魔法。――『模倣(コピー)』そして、『改竄(リライト)』」


次の瞬間、クロードの指先から、アルベールが放ったものと、全く同じ、いや、それ以上に、鋭く、洗練された、無数の、風の刃が、放たれた。


それは、僕とあいりが、作り上げた、最適化された魔法。

それを、彼は、一瞬で、模倣し、そして、自分のものとして、さらに、改良して、見せたのだ。


僕たちの、最強の武器が、いとも容易く、奪われた、瞬間だった。

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