第53話:開幕、王立魔法大会
そして、運命の日が、やってきた。
王都エルドラードは、朝から、祭り一色の、熱気に包まれていた。
王立魔法大会の会場である、巨大な円形闘技場には、国中から、観客が、詰めかけている。
貴族、平民、様々な人種。
その全てが、これから始まる、最高のエンターテイメントを、固唾を飲んで、見守っていた。
「すごい、人の数ですね……」
選手控え室で、エリナが、緊張した面持ちで、呟いた。
彼女は、アシュフォード家の紋章が入った、真新しい、銀の鎧に、身を包んでいる。
その姿は、凛々しく、そして、美しい。
「ああ。だが、心配するな。君は、君の力を、信じればいい」
僕は、彼女の肩を、ポンと叩いた。
一方、魔法部門の控え室では、アルベールが、目を閉じ、精神を集中させていた。
彼の周りには、以前のような、傲慢な空気は、もはやない。
ただ、純粋な、魔術の探求者としての、静かな闘志が、満ちていた。
やがて、ファンファーレが、高らかに鳴り響き、大会の、開会が宣言された。
国王陛下が、貴賓席から、開会の辞を述べる。
その隣には、ゼノス宰相が、蛇のような、冷たい笑みを浮かべて、控えていた。
そして、宰相の、さらに隣。
そこに、あの男はいた。
クロード。
宮廷魔術師の、豪奢なローブに身を包み、その涼しげな顔には、一切の感情が、浮かんでいない。
しかし、その瞳だけが、まっすぐに、こちらを、アシュフォード家の選手席を、見つめていた。
まるで、全てを、見透かしているかのように。
《マスター、彼が、クロードです。やはり、只者ではありません。彼の周りのマナの流れが、異常なほど、静かすぎる。まるで、彼自身が、魔法そのものであるかのような……》
あいりの声に、初めて、解析不能なものに対する、畏怖の色が、混じっていた。
大会は、まず、武闘部門から、始まった。
エリナは、初戦から、圧倒的な強さを見せつけた。
僕と、あいりが、徹底的に分析した、対戦相手の、弱点と、癖。
それを、エリナは、完璧な剣技で、的確に、突いていく。
「す、すごい! アシュフォード家の、あの女剣士は、一体、何者だ!?」
「相手の動きを、全て、読み切っているかのようだ!」
観客席から、驚きの声が上がる。
エリナは、危なげなく、トーナメントを勝ち進んでいった。
そして、ついに、準決勝。
彼女の、対戦相手として、現れたのは、やはり、あの男だった。
ゼノス派の騎士団長、バルガス。
熊のような、巨体に、身の丈ほどもある、巨大な大剣を、軽々と、担いでいる。
「お嬢ちゃん。運がなかったな。ここで、俺と当たっちまうとはよ」
バルガスは、下卑た笑みを浮かべ、エリナを、威嚇する。
しかし、エリナは、動じない。
彼女は、静かに、剣を構えると、僕の方を、ちらりと見た。
僕は、彼女に、力強く、頷いてみせる。
「試合、開始!」
審判の、号令と共に、バルガスが、雄叫びを上げて、突進してくる。
その一撃は、岩をも砕く、破壊の化身。
しかし、僕の目には、あいりの分析によって、その、0.3秒の、致命的な隙が、はっきりと、見えていた。
僕は、エリナに、合図を送る。
ただ、一つ、頷くだけ。
それだけで、十分だった。
エリナは、僕の合図を、信じた。
彼女は、バルガスの、死の一撃を、紙一重で、かわすと、その懐に、疾風のように、潜り込む。
そして、僕が、来る日も、来る日も、練習させた、あの、一点。
バルガスの、右膝に、彼女の剣が、閃光のように、突き刺さった。
ゴシャッ!
鈍い、骨の砕ける音と共に、巨体が、闘技場に、崩れ落ちた。
静まり返る、コロッセオ。
やがて、それは、割れんばかりの、大歓声へと、変わった。
無名の、美少女剣士が、最強の騎士団長を、一撃で、下したのだ。
その、衝撃的な結末に、王都中が、熱狂していた。
僕たちの、最初の勝利。
しかし、本当の戦いは、これからだった。




