表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/60

第52話:軍師の特別訓練

王立魔法大会まで、あと一ヶ月。

アシュフォード公爵家の訓練場は、かつてないほどの、熱気に包まれていた。


「――術式を、再構築します。マナの収束率を、17%向上。詠唱は、さらに、0.2秒、短縮。狙いは、あの岩の中心から、左に5センチずれた、亀裂の入っている部分です」


僕の口を通して、あいりの、超高速演算に基づいた、完璧な指示が飛ぶ。


「――Wind Cutter: Overdrive!」


アルベールが、僕が教えた、新たな詠唱を叫ぶ。

すると、彼の指先から放たれた風の刃は、以前とは、比べ物にならないほどの、速度と、鋭さで、訓練用の巨大な岩に、叩きつけられた。


スパァァァン!


耳をつんざくような、甲高い音と共に、巨大な岩が、まるで、豆腐のように、真っ二つに、切断された。

その断面は、鏡のように、滑らかだった。


「……こ、これが……私の、魔法……?」


アルベールは、自分の手を見つめ、信じられないといった様子で、呆然と呟いた。

彼のプライドは、完全に、打ち砕かれていた。しかし、その代わりに、彼の心には、魔術師としての、新たな探求心と、僕への、絶対的な信頼が、芽生えていた。


「素晴らしい。完璧です、アルベール殿」


僕がそう言うと、彼は、ハッとして、僕に、深々と頭を下げた。


「トオル軍師殿……。私は、今まで、何と、浅はかだったことか……。このご恩は、必ずや、大会での優勝という形で、お返しいたします」


彼の態度は、以前の、刺々しいものが、嘘のようだった。


訓練は、エリナに対しても、同様に行われた。


「エリナ、次の対戦相手は、おそらく、ゼノス派の騎士団長、バルガスだろう。彼の得意技は、大剣による、力任せの、一撃必殺の斬撃だ」


僕の視界には、あいりが、公爵の情報網から集めた、バルガス騎士団長の、過去の試合データが、再生されている。


《彼の剣筋、踏み込みの角度、呼吸のリズム。全て、パターン化されています。その、0.3秒の、予備動作の隙を突けば、カウンターは、十分に可能です》


「君が、狙うべきは、彼の、右膝。僕が、合図を送ったら、迷わず、飛び込め」

「はい、トオル様!」


エリナは、僕の指示通り、木人を、バルガス騎士団長に見立て、何度も、何度も、カウンターの練習を繰り返す。

その動きは、日に日に、洗練され、無駄がなくなっていく。


僕は、二人の、目覚ましい成長を、目の当たりにしながら、一人、複雑な心境を、抱えていた。

すごいのは、僕じゃない。あいりだ。

僕は、ただ、彼女の言葉を、伝えているだけの、操り人形に過ぎない。

この、罪悪感と、疎外感は、いつまで、続くのだろうか。


その夜、僕は、自室で、あいりと、大会の、最終的な戦略を、練っていた。


《マスター、ゼノス宰相側の、魔法部門の出場者が、判明しました》


あいりの声が、僕の思考を、中断させる。

僕の視界に、一人の、若い男の、肖像画が表示された。


《彼の名前は、クロード。表向きは、宮廷魔術師ですが、その正体は、ゼノス宰相の、秘密の弟子。そして、おそらくは……》


あいりは、そこで、一度、言葉を切った。


《――黒い月商会で、我々を罠にかけた、もう一人の『軍師』です》


その言葉に、僕は、息を呑んだ。

あの、僕とあいりを、完全に、出し抜いた、宿敵。

そいつが、大会に、選手として、出てくるというのか。


《彼が、どのような魔法を使ってくるか、データは、一切ありません。我々の、最適化された魔法も、彼には、通用しない可能性があります》


あいりの声には、明確な、警戒の色が、含まれていた。


「……面白いじゃないか」


僕の口から、思わず、そんな言葉が、漏れた。


「受けて立とうじゃないか。軍師、対、軍師。どっちの、頭脳が、上か。白黒、はっきり、つけてやろうぜ」


それは、僕自身の、心の底からの、言葉だった。

AIの力だけじゃない。僕の、意志の力で、奴に、勝つ。


僕の、初めての、挑戦が、始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ