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第5話:辺境の街アークス

あいりのナビゲーションに従って森を歩き始めてから、数時間が経過した。

僕の体力はとっくに限界を超えていたが、あいりは的確な休憩のタイミングと、安全なルートを常に示してくれた。


《マスター、前方50メートル先、左手の木陰に自生しているキノコは食用可能です。タンパク質が豊富で、疲労回復に効果があります》

「お、おう……」

《ただし、生食は危険です。後ほど火を起こして調理しましょう。火の起こし方は私がナビゲートしますので、ご安心を》


こんな風に、サバイバル知識ゼロの僕でも生き残れるよう、手取り足取りサポートしてくれる。

戦闘だけでなく、生命維持においても、あいりは万能だった。

時々、僕の体力のなさを皮肉ったり、方向音痴ぶりを煽ってきたりするが、それもご愛嬌だろう。彼女なりのコミュニケーションなのかもしれない。


そして、日が傾き始めた頃。

森を抜けた僕たちの目の前に、それは現れた。


「……街だ」


高い城壁に囲まれた、中世ヨーロッパ風の街並み。

城門の前では、武装した兵士たちが、出入りする人々を検めている。

荷馬車を引く商人、屈強な冒険者風の男女、そして、ごく普通の街の人々。

活気がある。文明だ。人の営みが、そこにはあった。


「助かった……本当に、街があったんだ……」


僕は、安堵のあまりその場にへたり込みそうになった。

あいりの予測は、完璧だった。


《街の名前は「アークス」。この辺境一帯の交易と、冒険者の拠点となっている都市です。まずは、あの門を通過し、市内に入りましょう》

「ああ、そうだな」


僕は、服の汚れを払い、深呼吸をしてから門へと向かった。

兵士に呼び止められ、身分を証明するものを何も持っていない僕は、正直に異世界から来たと話すわけにもいかず、あいりの指示通り「記憶喪失の旅人」を演じた。

怪しまれはしたが、銀貨数枚の通行税を払うことで、なんとか街に入ることを許可された。ちなみに、その銀貨は、道中でゴブリンをもう一体倒し、あいりの指示で剥ぎ取った「魔石」というアイテムをその場で換金してもらった。


街の中は、外から見た以上に活気に満ちていた。

石畳の道を、様々な人々が行き交う。

鍛冶屋の槌の音、酒場からの陽気な音楽、露店の威勢のいい呼び込み。

全てが新鮮で、僕の目には輝いて見えた。


《マスター、感心している場合ではありません。我々には宿もなければ、当面の生活費もありません。まずは情報収集と資金稼ぎの手段を確保することが急務です》

「わかってるよ……」


あいりの冷静なツッコミに、僕は我に返る。

とりあえず、広場の中央にある噴水の縁に腰掛け、今後のことを考える。

いや、考えるのは僕じゃない。あいりだ。


「どうすればいい、あいり?」

《まずは、この街で安定した収入を得る方法を探します。マスターのスキルは「なし」。肉体労働は、その貧弱な体力では日雇いでも雇ってもらえるか……》

「いちいち貧弱って言うなよ……」


僕が口を尖らせていると、近くにいた男たちの会話が耳に入ってきた。


「おい、聞いたか? ギルドに新しい依頼が出たらしいぜ」

「どうせ、また薬草採取とかだろ? もっとデカい仕事がしたいもんだ」

「馬鹿言え。お前みたいな駆け出しには、薬草採取がお似合いだ」


男たちは、そう言って笑いながら去っていった。


「……ギルド?」


聞き慣れない単語に、僕が首を傾げる。


《ギルド。中世の同業者組合、あるいは相互扶助組織の名称です。今の会話から推測するに、この街には「冒険者ギルド」のようなものが存在し、人々からの依頼を斡旋することで、冒険者が生計を立てるシステムが確立されている可能性が高いです》

「依頼をこなして、お金をもらう……」

《はい。特別な身分や技能がなくても、実力さえ示せば仕事を得られる。今の我々にとって、最も合理的で効率的な選択肢と言えるでしょう》


あいりの分析は、いつもながら的確だ。

僕には実力なんてないが、あいりの「最適行動提案」があれば、簡単な依頼くらいはこなせるかもしれない。


「よし、決めた」


僕は、立ち上がった。


「その、冒険者ギルドってところに行ってみよう」


僕の異世界での「就職活動」が、今、始まろうとしていた。

◆ ◇ ◆

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