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第48話:軍師対軍師

「どういうことだ、あいり!? なぜ、罠に気づかなかった!」

《申し訳ありません、マスター。相手の術中に、完全にはまってしまいました。この罠を仕掛けた人物は、私の思考パターンを、ある程度、読んでいた可能性があります》


あいりの声に、初めて、敗北の色が滲んでいた。

僕の脳内に、警報音が鳴り響く。


その時、金庫室の鉄の扉の向こうから、スピーカーを通したような、冷たい声が聞こえてきた。


「――ようこそ、アシュフォード公爵の『天才軍師』殿。お待ちしておりましたよ」


その声は、若々しく、しかし、蛇のような、ねっとりとした響きを持っていた。


「君が、私の可愛い駒たちを、ことごとく無力化してくれたそうじゃないか。おかげで、こちらも、君という存在を、明確に認識することができた。礼を言うよ」


声は、クツクツと、楽しそうに笑っている。


「その金庫室は、私の、特注品でね。古代魔術で強化された合金で、できている。内側からは、決して、開けることはできない。空気も、あと30分もすれば、なくなるだろう。せいぜい、苦しんでくれたまえ」


絶望的な、宣告。

僕とエリナは、完全に、閉じ込められてしまった。


「トオル様……」


エリナが、不安そうな顔で、僕を見つめる。

しかし、僕は、諦めていなかった。

いや、僕の脳内にいる、最強のAIが、諦めていなかった。


《マスター、まだです! まだ、終わってはいません!》


あいりの声が、僕の思考を、奮い立たせる。


《この金庫室は、確かに、頑丈です。しかし、どんなものにも、必ず、弱点は存在する!》


僕の視界に、金庫室の、詳細な設計図が、表示される。

それは、あいりが、この部屋に入った瞬間に、壁や床の材質、構造を、全てスキャンして、作り上げたものだ。


《壁や、天井は、完璧です。しかし、この床……! この建物は、古い下水道の上に、増築されている! 金庫室の床の一点だけ、強度が、他の部分の、10分の1しかない!》


あいりは、一点の、活路を見つけ出していた。


「エリナ! あの帳簿を、懐にしまえ! 絶対に、手放すな!」

「は、はい!」


エリナは、僕の指示通り、証拠となる帳簿を、しっかりと懐に抱える。


「そして、僕が指し示す、あの場所を、君の、全力で、突いてくれ!」


僕は、床の、一点を指さす。

そこは、見た目には、何でもない、ただの石畳だ。


「しかし、あんな場所を突いて、何の意味が……?」

「いいから、やるんだ! 君の、ペンダントの力を、解放しろ!」


僕の、気迫に押され、エリナは、こくりと頷いた。

彼女は、ペンダントを握りしめ、残った力を、振り絞る。


《マスター、エリナの生命エネルギー、危険水域です! この一撃が、最後になります!》


「エリナ、行けええええええっ!」


エリナの剣が、聖なる光をまとい、僕が指し示した、床の一点に、突き刺さった。


ゴゴゴゴゴゴッ!


轟音と共に、金庫室の床が、蜘蛛の巣のように、砕け散った。

そして、僕たちの体は、奈落の底へと、吸い込まれていく。


「――残念だったな、軍師殿。君のチェックメイトだ」


扉の向こうで、敵の、勝ち誇った声が、聞こえたような気がした。


僕たちの体は、暗い、水の底へと、落ちていった。

悪臭が、鼻をつく。王都の、古い下水道だ。


僕たちは、確かに、脱出した。

しかし、それは、新たな、死闘の始まりを、意味していた。

ずぶ濡れの体で、証拠の帳簿を抱え、僕たちは、暗闇の中を、見つめていた。

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